Bar in this Night
「こんにちは」
「いらっしゃい」
「今日は街に出てたの?」
「まぁ、服なんかを見ててさ」
「そうかい。いつものでいいかい?」
「あぁ、頼むよ。」
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「この曲はなんていうの?」
「ダイアー・ストレイツの悲しきサルタンだよ。」
「いい曲だね」
「そうだろう?」
タバコに火がじわっと着く。
「君は吸わないの?」
「今日は禁煙デーなんだ。」
「そうか。一緒に吸いたかったんだけどな。」「わかるよ。一人のタバコより二人のタバコだよな。」
「君はどうしてバーテンダーになったんだい?」
「23からバンドをやってたんだ。結構真剣にね。アルバムを出して全国を飛び回ったよ。金がないからライブハウスで米を炊かせてもらってた。あの頃は充実してたよ。でも、苦しかった。とても辛かったのさ。」
「それでバンドをやめてバーテンダーになったのかい?」
「そういうことになるね。28からだからもう10年近く経つな。」
バーテンダーは話す。
「普通のバーテンならただの酒好きがなるだろうね。ただ、この店は音楽を売りにしてる。だから、酒好きで音楽好きの俺にはピッタリだってわけさ。ここで働くのは本当に悪くない。」
「そうか。色々あったんだね、話してくれてありがとう。」
隣の席で男と飲んでいた女性が体勢を崩して倒れ込む。
お酒を飲み過ぎたらしい。
だいじょうぶだろうか?
「チェックで頼むよ。」
「チェックで。」
「またいつでも」
「あぁ」