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見えざるもの①

コラム「冒頭から暴投」で2024年7月から連載中の物語です。
最新話のみを読まれた方が「意味わかんねー」とならないように、バックナンバーを読めるようにしようかと・・・。

ちなみに・・・
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

それではどうぞ^^


 十数年前から某国が莫大な国費を投じて行っていた「霊」に関する研究がようやく一定の成果を上げることができた。霊の存在を科学的に証明できたというのだ。 
 その情報は当初ネットの片隅に「流出」という形で人知れずアップされたが、あまりにもオカルティックな内容だったため、誰もが一笑にふし、フェイクニュースの類として扱われた。
 それが数ヶ月後、世界中の名だたる学者達が次々に「霊」の存在と、それがもたらす社会的影響に関する研究論文を発表し始めると、瞬く間に世間の話題を攫う事となる。
 多くの論文は、世の中の厄災(異常気象、地震、戦争、事故、犯罪、病気、突然死等)の多くの原因が「霊」によるものであると結論づけていた。
 あの地震も?去年の台風も?挙句の果てには仕事がうまくいかないのは霊のせいなのでは?彼女にふられたのも?スピード違反で捕まったのも?などなど、何もかもが霊の仕業と考えてしまう人が後を絶たなかった。
 もちろん全ての事象の原因が霊であるはずもなく、単なる本人の不徳である場合も多い。
 人は元来勝手なもので、多かれ少なかれ他責思考があるものである。自分の身に降りかかる厄災の原因がそもそも自分であるとは考えたくないものだ。それが、霊のせいであると、自分に都合よく考えてしまうのが人間というものだ。
 特に日本に於いては、平安時代の陰陽道に起源があるとも言われる厄年の風習があったため、厄災を厄年のせいにするかの如く、厄災の原因=霊という思考に陥り易かったのかもしれない。
 一方、政府からの公式発表として学術的な観点からの「霊の振る舞い」についても、マスコミ報道等を通して人々に共有された。
 人に憑依する霊は、複数の霊体で構成されている複合霊と呼ばれる種類のもので、人間に憑依した時点でその人の精神内で主霊と副霊に分裂する。そして人々の「目」を媒介として、他者への憑依を繰り返すとされていた。
 つまり被憑依者A(霊が憑依したAさん)が未憑依者Bと視線が合う事で、Aに憑依後に分裂した副霊がBに憑依し、Bの精神内で主霊となり、分裂して別の副霊を生み出す。その副霊は、次に目があった未憑依者Cに憑依をする・・・。このように、霊は人を媒介としてウイルスが感染を繰り返すかの如く、憑依を繰り返すというのだ。
 ただ、一人の人間に複数の主霊が憑依する事はできないらしく、既に守護霊がついている人に新たに霊が憑依する事は無いとの事だ。守護霊持ちの人間へ憑依しようとして失敗した副霊は「浮遊霊」となり、人への憑依をやめ、無人の建物を見つけて憑依する。
 無人の建物には複数の副霊が憑依する事ができるようで、よく「霊の溜まり場」と呼ばれたりもする。そして、建物内の副霊数が一定数を超えると、それらが合体し複合霊(主霊)となり、その建物の中に入ってきた人間を標的にして憑依をする。ちなみに、無人の建造物に憑依できない「浮遊霊」は、ひとつの場所に縛られ、所謂「地縛霊」となる。
 人から人へと憑依を繰り返し厄災の原因となる霊の存在が明らかになった今、やり場の無い不安と恐怖が人々をあらぬ方向へと突き動かす。

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