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見えざるもの⑤

コラム「冒頭から暴投」で2024年7月から連載中の物語です。
最新話のみを読まれた方が「意味わかんねー」とならないように、バックナンバーを読めるようにしようかと・・・。
ちなみに・・・
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
それではどうぞ^^


「海老塚さんは、霊の存在を証明したっていう論文って読まれましたか?」
 普段あまり感情が表情に出ない三浦さんのサングラス越しの目が少しだけ険しさを帯びた。
 「読んでないわよ、どうせ読んだってわからないし、そもそも英語なんでしょ?」
 「はい、英語で書かれています。三浦は少しだけ英語がわかるので、読んでみたのです。でも、正直何を言っているのか全くわかりませんでした。素粒子物理学とか量子力学とかの知識が無いと理解は難しいと思われます。ネット等でわかりやすく解説しているサイトもいくつか読みましたが、正直文系の私には理解不能でした」
 「でしょうね。でも読もうと思うだけ凄いわ」
 「いえ、結局理解できなかったので、読んでいないのと変わりません。でも、たとえば、ニュートンの万有引力の法則自体は理解できなくても、その現象に関しては日々目にすることができるので、イメージしやすいし、否定する気持ちにもなれませんよね」
 「そうね、地球に引力?重力?どっちか知らないけど、それがなければこうしてコーヒーを飲むことだってできない訳だし」
 「そうなんですよ。今回の憑依禍…私たち一人ひとりが、その現象を目にすることもできなければ、実感する事もできないのです。そんな中、TVや新聞では、憑依の恐ろしさばかり喧伝しているんです」
 「そうよね、『本日の憑依死は何名です』とか毎日TVでやってるわね」
 「はい、事故や病気で亡くなった方は、死亡直後にIBT検査をして陽性反応が出た時点で、本来の死因に関わらず、『憑依死』と認定され、それが本日の総憑依者数とセットで毎日TVで報道されているのです」
 「そんなのおかしいじゃない!事故死は事故死でしょ?」
 「三浦もそう思います。そして、そもそも、IBT検査自体もあやしいと思っています」
 「サーモグラフィーでどうのこうのってやつでしょ?知ってるわ」
 「当初、MRIの設備のある病院でのみサーモグラフィーとセットでIBT検査が行われていたのですが、『憑依担当』の蟋蟀大臣が『1日100万件のIBT検査を目指す』と言い出してから、補助金目当ての民間の検査場が激増したのです。でも、民間のIBT検査は、検査数を増やすために、MRIの使用義務は除外され、サーモグラフィーのみでよしとされました。なので、その正確性にすら疑問を感じざるを得ません」
 「ってゆうか、そもそも、そんなんで霊の憑依ってわかるものなの?いや、もっと根本的な話よ!霊の存在を科学で証明って事自体どうなのよ!100歩譲って霊が本当にいたとして、それが人に憑依するもので、厄災の原因だとしても、そういう状態で人間は何万年も生きてきた訳でしょ?科学で証明される以前の霊と一緒に」
 「海老塚さん、さすがです、やはり三浦が思っていた通り、海老塚さんは懸命な方です」
 「ところで、予防憑依が危険って話は?」
 「はい、そもそも、霊の存在証明の根拠がブラックボックスなので、一時が万事なのですが、どうも予防憑依を受けた後に、体調不良を訴える方が増えているようなんです」

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