新郷村にあるキリストの墓へ行った話
2024年春、私は青森県三沢市および新郷村を一泊二日で訪ねた。これは、旅行の際の道程や出来事、心情の記録である。
【一日目】
まずは羽田空港へ。電車に乗り込むと、そこには――
イケメンが、いた。
背が高く、髪型はハンサムショートで、色白の女性だった。クリーム色のトレーナーと、灰色のズボン。黒の革靴と革リュックを身につけていた。こんな装いが似合うのは、ハンサムしかいない。韓国のアイドルと見まがうほどの美形だった。
目が離せないでいると、彼女が近くにいた赤ちゃんへ微笑んだ。心臓を撃ち抜かれた。彼女はスマートフォンを二台持っていた。カッコ良い。薬指に指輪が見えたのだが、既婚者だろうか。
***
無事、羽田空港に到着した。エアポート快特は速くて快適だった。幸先の良い旅だ。思い返せば、昨夜の夢見も良かった。夢の中で私は、推しと熱烈なハグをしていた。この調子で旅行を進めたい。
手荷物検査をつつがなく終える。PCすら鞄から出す必要がないのは、国内線だからか。待合スペースで適当に時間を潰し、ほぼ定刻で飛行機に搭乗する。この間に、メールチェックをしたり、旅の記録をメモしておく事が多い。今回も例に漏れず、こうした作業を行った。メモの段階ではタイピングが面倒なので、録音&文字起こしアプリのNottaを使用して記録する。
このデータがいつどのように活用されるのかは、神のみぞ知る。
1時間ちょっとのフライトを経て、青森県は三沢空港に着陸した。フライトは往復とも羽田⇔三沢のJAL便である。それしか無い。座席間も広く、飲み物も出るので何の文句も無い。
到着ロビーに出た。送迎バスを頼んだはずが、見当たらない。ホテルの予約と同時に、送迎も予約していたはずが。スマートフォンで今一度予約を確認したが、私のミスではなさそうだ。その時、私と同じく到着ロビーに佇んでいた女性二人組がたまたま目に入った。
「すみません、星野リゾートへ行かれる方ですか?」
「違います」
不発。怒りとやるせなさで暴力的になりかけたところで、タクシーの運転手さんが私に声をかけてきた。
送迎バスは、タクシーだったのである。
***
私の予約したホテルは、星野リゾート青森屋である。一泊二食送迎付きで、料金は23000円。三沢周辺には他にもホテルが数軒ある。その中で星野リゾートを選んだのは、以前note上で星野リゾートへの批評記事を見たためである(現在、その記事の発見に難渋している。見つけた方はご一報を)。
薄い記憶で要約を試みる。その記事は、星野リゾートに対して批判的であった。記事の作者は高級ホテルに何度も宿泊し、高級ホテルのサービスがいかなるものかに精通していた。作者曰く、星野リゾートは高級ホテル路線を取っているものの、実際のサービスの性質が高級ホテルとは異なるらしい。すなわち、星野リゾートには歪みがある、という批評であった(記憶違いであれば、この部分は削除する)。
私は記事の作者とは異なり、高級ホテルには馴染みがない。累計一人旅回数は人並みよりも多いと自負しているが、毎度高級ホテルに泊まるほどの金銭的余裕は無い。時たまドミトリー泊や空港泊(その辺の椅子で寝る、ラウンジですらない)だってする。そんな人間は、星野リゾートをどう評価するのだろうか。記事の作者の批評に共感する部分が出てくるのか、はたまた出てこないのか。これを検証するのが、私の旅の目的の一つであった。ゆえに、一日目の任務は星野リゾートを隅から隅までチェックし、評価することである。
***
まず、送迎。バスと書いてあったのにタクシーが来たのには首を傾げた。この程度のこと、海外であればクスリと笑って受け流すだろう。しかし今回の場合、プラスにならない。私は人数の都合で送迎タクシーの助手席に座ったため、少しだけ狭苦しい思いをした。これもプラスにはならない。ただ一方で、運転手さんや同乗者の方々の機転により、車内では穏やかで楽しい会話が繰り広げられた。三沢には米軍基地があるため、街中では頻繁にアメリカ人を見かけるらしい。そして彼らは、日本人よりもおしなべて運転が荒く、車に傷を付けても日本人ほど気にしないとか。アメリカでなら、免許を取れる自信が湧いてきた。ともあれ、空港から宿までのひとときは、それなりに楽しい時間であった。評価:〇
宿に到着しチェックイン。フロントの方の手際はとても良かった。星野リゾート青森屋には宿泊以外にも様々な機能の施設が付随している。例えば広い庭園スペース、温泉、足湯、演芸ホール、物産店等。元々私は、それらを利用する気が無かった。仕事を終わらせて、TVで「岸辺露伴は動かない」の新作を見るために、部屋に缶詰になる心づもりだったからである。その上、温泉に入れない特殊事情もあるった。これら遊興施設の説明を、私は半ば聞き流していた。しかしフロントの方が次のように言った時、心が揺れた。
「夜にホールでお祭りのデモンストレーションがあります。僕も出るのでぜひ」
二言目に、彼は出し物に自分が出演すると語った。この発言に、私の決意は揺れた。
むろんフロントスタッフの方は私にとって、初対面の人間である。しかし彼の一言は、私たちの距離を確実に縮めた。その上、この自己開示はホストとゲストという枠組みを壊さない、絶妙な塩梅だった。彼の自己開示の程度は私にとって、最も心地の良いレベルだった。時に旅において、他者の自己開示、すなわち自分語りは何物にも代えがたい愉悦をもたらす。評価:◎
部屋の鍵はオートロックでなく、普通の鍵だった。木彫りの林檎形の番号札に、鍵がついている。カワイイ。そして部屋は、とても広くて綺麗だった。床は畳で、掘りごたつ風のテーブルも備え付けられている。ウェルカムスイーツとして、りんごのラングドシャが置かれていた。美味しかった。トイレも広くて使いやすい。シャワールームもついていて、とても清潔だった。アメニティの一部は食堂近くのスペースにまとめて置かれているとのことで、食事を兼ねて取りに行った(食事に関しては、別途評価する)。特に不便を感じた部分は無かったが、備え付けのコンディショナーのせいで髪がキシキシ。これ以外が良かっただけに、少し残念。評価:〇
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宿泊プランには、一日目の夕食と二日目の朝食がついていた。いずれもホテル内の食堂が会場である。部屋から食堂までは徒歩5分ほどかかったが、道中は趣向の凝らされたデザインに彩られ、楽しむことができた。
夕食、会場は混雑していたが、すぐに席へ案内された。土地の名産品を使った料理が数多く提供され、メニュー総数も豊富だった。そんな中、私は鶏肉のクリーム煮とポテトグラタンをひたすら腹に詰め込んでいた。偏食ゆえ、名産品はことごとく食べられないのである。翌朝も同様、数多くの品目の中からミートグラタンを選び、かき込んだ。自分に食事の制約が多いのは当然自覚していたし、もとより食事付きのプランを選んだのは飲食店選びの手間を省くためにすぎなかった。特に文句はない。評価:○
総評:宿泊タイミング(5月、金〜土)や付帯サービスを鑑みれば、価格は適正だと感じた。一方で高級ホテルとは呼べない、という意見については、一定程度の妥当性があると感じた。アメニティを自分で選び取るスタイル、ビュッフェスタイルの食事、浴室内設備および送迎のクオリティなど、高級ホテル経験を積んでいない私にも馴染みのあるスタイルや、疑問符を浮かべるシーンがあったためである。
ともあれ、私は星野リゾート青森屋に宿泊したことを後悔してはいない。このポジティブ評価は、送迎時やホテル内で会話をした人々に依るところが多い。結局は、人である。
【二日目】
ホテルの前に予約したタクシーが来てくれた。チェックアウトを朝10時に済ませ、私はそれに乗り込んだ。
***
たわいもない雑談をしながら、目的地である新郷村へ向かう。私のような人間は珍しいらしく、運転手の方も困惑気味である。途中で眠気に襲われ記憶を無くしているが、タクシーは晴れ空の中無事にキリストの墓へ到着した。
墓は思いのほか小さかった。賽銭箱と思わしき小箱が、十字架の前に置かれている。小銭を入れ、神道とも仏教ともキリスト教ともつかない奇妙なやり方で祈った。面白い人間関係に沢山ぶち当たりますように。
墓の隣には小さな伝承館があった。入場料を払い、見学した。写真は禁止。ちょっとしたお土産コーナーがあり、観光客の存在を匂わせていた。レジではなんとpaypayが使える。
この場所では、毎年6月にお祭りが行われるらしい。私が訪ねたのは5月の中旬でお祭りの時期とはズレていたが、場所の広さと人の往来を考えると、混雑や交通の問題も予測されよう。この時期で正解だ。
聖墳墓に満足したのち、私は大石神ピラミッドへ向かうことにした。伝承館の方が、新郷村のパンフレットをくださったので、それを参考にしつつルートを確認した。
しかし。
道に迷ってしまった。
林道を進む車は激しく揺れ、運転手さんと私の不安を煽った。結局、道は途中で行き止まりになり、引き返すことに。引き返した道中で出会った地元の方が、ピラミッドの所在地を教えてくれた。どうやら私たちは行き過ぎていたようだ。貴重な経験。
大石神ピラミッドはデカい石と謎の鳥居を備えた、不思議な場所だった。大きな石群の周りを一周し、説明を読み、気が済んだので退散。さて、ここからはショッピングのお時間だ。
私がお土産等を買った店は、次の三つである。
①道の駅しんごう
大石神ピラミッドを離れ、車で十分ほど。国道454号線のステッカーを購入。道の駅の対岸に記念碑があり、心躍った。
②キリストっぷ
キリストの墓の近くまで戻ると、キリストっぷという小さな土産物屋がある。開店は土日のみ。店の方は優しいが、見事に巾着と飴を買ってしまった。私のような人間は少しだけ物珍しいのかもしれない。
③道の駅とわだ
空港までの道中、トイレ休憩を兼ねて立ち寄った。広くて綺麗で色々なお土産が買えた。有難い。
そのまま空港へ行く……はずだったが、運転手さんの勧めで急遽三沢航空科学館へ行くことになった。運転手さんとはここでお別れである。星野リゾートから新郷村、十和田を経由し航空科学館へ。4時間ほど独り占めすると、金額は約3万円だった。フライトよりも、宿泊代よりも高い。が、後悔は無い。いま金を節約したとて、いつかは金欠になる運命なのだから。
科学館への訪問は、疲れていたこともあり、正直大して気乗りしていなかった。しかし結論から言えば、行って良かったしお土産を買ってしまうくらい魅了された。外にも中にも飛行機がたくさんあり、それらの仕組みや歴史などが分かりやすく解説されていた。子連れも多く、子供が楽しめるような科学実験ゾーンもたくさんあった。
そして、1時間に1本ほどと記憶しているが空港や三沢駅までの無料送迎バスがあり、私はそれを利用して空港へ向かうことができた。
バスに乗って空港に到着。ここからフライトまでは自由時間。お土産屋を見て回った後、ぼんやりと読書したり、録音内容を確かめたりしながら旅行を振り返ってみる。フライトまでかなり時間があったので、空港のレストランで夕食。マウスピースをつけたままフライドポテトを食べたら、マウスピースが黄色く染まった。皆さんは真似しないように。
夕食とチェックインを終え、手荷物検査場の前で待っていると、TVで名探偵コナンのアニメが流れ始めた。音声はあまり聞こえなかったものの、内容は大体分かった。諸伏高明、好……
***
羽田空港着。帰りの飛行機で前の席に座っていたのが、行きに三沢空港で話しかけて不発だった女性二人組だった。こちらから話しかけることはせず、電車に乗って帰路についた。
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何度も旅行しておきながら、このような形式で記録を残すのは初めてである。他の旅行についても、ためになる情報がありそうなら書いてみても良いかもしれない。ベラルーシ旅行とか。
記録を残すよう勧めてくれた先生、数多の参考文献たち、旅行先で会話した運転手さん、従業員の方、すれ違った方、そして諸伏高明と岸辺露伴に、SPECIAL THANΧ。
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