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【野菜の日スペシャル!】『転生しました、サラナ・キンジェです。ごきげんよう。③~婚約破棄されたので田舎で気ままに暮らしたいと思います~』特別試し読み

今日は野菜の日! というわけで、サラナがつくる野菜たっぷり美味しいストーリーを本編から特別公開! 冒頭ストーリーは公式X(旧ツイッター)にて公開中!

スローライフを目指していたのにビジネスチャンスが次々と……!

今度は素敵なお姉様たちと”芋”令嬢を救うべく
“美”と“食”でひと儲け!!

試し読み続き

 ミンティ家の皆様にご好評いただき、ほっとしています。サラナ・キンジェです。ごきげんよう。
 今さらですが、女主人たる伯母様を差し置いて、お食事会の采配を振るってもいいのでしょうか。
こういうお役目は、家内を取り仕切る伯母様のお仕事なはず。
 なんて心配事は、秒で解決しました。伯母様が鷹揚に頷いて、『細かい事は気にせずに続けなさいな』というお顔をしていらっしゃいます。
 私が考えている事が、どうして分かったのかしら。伯母様。そして、伯母様が考えている事を、どうして分かるのかしら、私。伯母様はいつもと変わらない、美しい笑みを浮かべていらっしゃるだけなのに。言葉を発さずに悟らせる、、、、なんて、伯母様って、やっぱり凄いわぁ。
「こちらはミンティ芋を使ったシチューでございます」
 気を取り直してご紹介したビーフシチューもどきは、ミンティ芋、大きめのお肉とその他の野菜を、ブイヨンとトマトと赤ワインで煮込んだ料理。
 何故もどきかというと、使っているお肉が牛肉ではないからです。使ったのはモーヤーンの親戚みたいな魔物で、モーヤーンよりは比較的大人しいギューロスのお肉。いいえ、牛ロースではなくてギューロスです。私も初めは聞き間違えましたが、ギューロスです。牛肉みたいな美味しいお肉ですよ。ギューロスシチューですね。まぁ、紛らわしい。
 このシチューの味付けには、大変苦戦しました。どうしても納得のいくコクが出なくて。
 そこで、あの絶品タンシチューのレシピを参考にできないかと、『こもれび亭』に聞いてみたのだけど。
 ええ、分かっていますよ。ソースの味はコックの命。それを聞きだすなんて、『こもれび亭』からは、なんて非常識なんだ、貴族の横暴だと怒られてしまうかもと思ったのだけど。コツだけでも聞けないかしらと、ダメ元で、手紙で問い合わせてみたら。
 なんと。『こもれび亭』の女店主、ジョアンさんとその夫であるロッホさんが、王都からわざわざモリーグ村まで馬で駆け付けてくれたのだ。馬に乗れるのね、ジョアンさん。え。女騎士の役作りのために乗馬まで覚えたの? なんてすごい役者魂!
「サラナ様! ようやくお役に立てる事ができて、光栄です」
 長身のジョアンさんが、見違えるような綺麗な所作で騎士の礼をビシッと決めてくれました。騎士服でもないのに、ときめいちゃったわ。王都の女性たちが惑わされたのも、納得だわ。
 それにしても、ホールの主力であるジョアンさんと、料理長のロッホさんが抜けて、『こもれび亭』の営業は大丈夫なのかしらと心配したのだけど。コックは元料理長であるジョアンさんのお父様がいるし、最近はジョアンさんの従妹やアルバイトの子も女騎士役を務めているらしく、ジョアンさんに負けず劣らず人気があるので、数日抜けるぐらいなら、大丈夫なんですって。
 そして。ロッホさんにコツどころか絶品タンシチューのソースの作り方を直々に教えていただき。
 いいの? コックの命のソースレシピよね? と戸惑っていたら、ロッホさんに、にっこりと微笑まれ。
「我らの全ては、主たるサラナお嬢様に捧げておりますので。いかようにもお使いください」
 捧げないで。そして勝手に主人にしないで。
 あくまで私たちドヤール家と『こもれび亭』は、経営コンサルと顧客の関係で、ただの業務提携ですから。そんな、全てを捧げられても困ります。
 そう申し上げたら、ジョアンさんとロッホさんが、この世の終わりみたいな顔をしていて。
「そんな。それでは何一つ御恩を返すことができないではないですか……!」
「いえいえ。ちゃんと契約通り、売上と、お店で販売している『騎士と姫君』関連グッズの売上から数パーセント、いただいておりますわ」
「そ、それぐらいは当たり前です! それだって、私どもの借金返済に配慮していただいて、最低限に近い率の設定です! 我らはサラナお嬢様がいなかったら、今頃どこかで野垂れ死んでいたかも分からない身の上だったというのに!」
 そんな大げさな。ジョアンさんたちって、こんな感じの人たちだったかしら? 前は食堂の気のいい肝っ玉店主と寡黙で朴訥なご主人だったのに。ちょっと会わない間に、ものすごく感激屋さん? になったみたい。最近、私の周りはこんな目をしている人が多いのよね……。
 これ以上断ると2人が絶望しそうだったので、とりあえず、タンシチューのソースのレシピは有り難く教えていただき。それを参考に、ギューロスシチューは出来上がったのだけど。
「このシチューは素晴らしい。肉もですが、一緒にミンティ芋を煮込むことで味に深みが出ている。ぜひ、『こもれび亭』のメニューにも加えさせてください!」
 と、ロッホさんが絶賛されたので、ついでに『こもれび亭』のメニューに、『ギューロスとミンティ芋のシチュー』が加わることになりました。
 お店で出すときはもっと仕上げます、、、、、とロッホさんがにんまり笑って仰っていたので、素人料理とはまた違った、洗練された味わいになりそうね。『こもれび亭』に行く楽しみが増えたわ。
 その後は、ジョアンさんがわざわざお店の制服騎士服に着替えて、『こもれび亭』と同じように給仕をしてくれたり、それを見た侍女さんたちから黄色い悲鳴が上がったり、伯母様とお母様が女性騎士に目覚めたりと色々あったのだけど。お2人が凄い勢いで王都の女性騎士ファンクラブに入会したとかは、長くなるので割愛です。
 来た時同様、颯爽と馬で帰っていくジョアンさんたちを、すっかりファンになったドヤール家の女性陣全員でお見送りしましたよ。ああー! 今思い出しても、素敵だったわぁ。女性騎士様。
「あ、あの人気店『こもれび亭』のメニューに、う、うちのミンティ芋がっ」
『こもれび亭』に一番反応していたのは、王都の学園に通うフローリア様。やっぱり、学園のご令嬢たちの間でも、よく話題に上るらしいのよ。予約が取れない超人気店ですものねぇ。
「ええ。『こもれび亭』のメニューに、しっかりと『ミンティ芋』と表記していただけるよう、お願いしておきましたわ」
「本当ですか? 王都の人気店のメニューに、ミンティ芋を、使って、もらえるのですか?」
 フローリア様のお兄様であるレザック様が、涙ぐんでいらっしゃる。なんでも、いくつもの王都の有名なレストランに足を運んで、ミンティ芋を使ってもらえるよう売り込んでいたけど、全然相手にされなかったのですって。
「周囲からは男爵家の嫡男が平民のような真似をして、と馬鹿にされましたが。それでも、ミンティ芋の良さは、絶対に分かってもらえると信じていました……。ああ。俺が出来なかったことを、貴女様は……」
 目元を拭いながら、レザック様まで、私に向かって両手を合わせ始める。やめてください。祈らないで。フローリア様! お兄様と並んで一緒に祈らないで!
 慌てて次のお料理を侍女さんに合図して、ミンティ家兄妹のお祈りの時間を華麗に阻止する。これ以上、妙な宗教がミンティ男爵家に広まっては困ります。侍女さんたち、急いで!
「次は、思い切ってミンティ芋の色味を全面に出してみました。ミンティ芋を油で揚げて、トマトソースとチーズソースを添えてみました」
 厚めに切ったミンティ芋を油で揚げた、非常にシンプルな一品。手抜きと言うなかれ。芋はフライドポテトにしてこそ、真価が発揮されるのよ。
 ミンティ芋にはほんのり甘みがあるので、お塩を振っただけでも十分美味しいけれど、私はディップするフライドポテトが大好きなので、わざわざソースを添えてみました。
 予想通り、その特徴的な色彩に、皆が目をみはる。ええ。見た目のインパクトは重々承知しております。揚げたために黒色が増したミンティ芋は、まるで木炭が皿の上に載っているみたいだし、赤いソースと白いソースとのコントラストといったら。ホホホ。美味しそうとは言い難い。
 先ほどとは違って、皆様、恐る恐る口を付けたが。一口食べるとアレッという顔をして、パクパクと食べ進める。トマトソースもチーズソースもお気に召したようです。特に男性陣は、お酒が進んでいらっしゃるわ。お酒に合いますよね、フライドミンティ芋。くぅぅ。私も飲みたいっ。どうして私は未成年なのかしら。
「……サラナ。この料理は、食べてみたらとても美味しいんだけどね。やはり見た目で敬遠されてしまうのではないかな? 我々はサラナが出してくれる料理に間違いはないと分かっているから、手を付けたが。初見でこの見た目だと、難しいのではないかな」
 お父様がワイン片手に辛口批評。他の皆様も気まずそうに頷く。でも味には問題はないようで、お皿は空っぽだ。お代わりも男性陣は全員断らなかったし。
 まぁ、見た目はねぇ。煮物とか漬物とかイカスミとか、普通に食べていた前世日本人の私には、それほど気にならないけど、こちらの世界ではやっぱり抵抗があるのかしら。
 でも、色を隠して料理するとなると、料理のレパートリーが広がらないのよ。コロッケみたいに包んで隠すか、色の濃い料理で誤魔化すか。
 出来れば色味なんか気にせずに、普段から気楽に使える美味しい食材として、皆の意識に浸透してくれたらいいのだけど。
 フライドミンティ芋を『こもれび亭』で出してもらったら、受け入れてもらえるきっかけになるかもしれないけれど。でもねぇ、あの店の客の大半は貴族、しかも女性客が8割。あまり客層的に合わない感じがするのよね。
「っでも、味はっ! とても美味しいですっ! スープや蒸して食べるだけだったのに比べれば、油で揚げると格段に美味しいです! これなら、どこかの店で採用してくれるかもしれませんっ!」
 レザック様が期待に目を輝かせて、力説していらっしゃる。凄いわ、辛口批評にもめげず、全く諦める気配がない。さすが、ミンティ男爵家の宣伝部長。
「そ、そうだなっ! 俺はそれほど悪い見た目ではないと思うぞっ! ほら、この灰色の芋とチーズの白、トマトの赤。まるでカルボーみたいじゃないかっ!」
 レザック様の熱意につられて、伯父様が精一杯フォローしてくれたのだけど。
 でもそれ、全然、褒め言葉じゃありません。カルボーって、魔物じゃないですか。
 カルボーというのは、濃いグレーの巨体に、白い角、真っ赤な口の、誰もが知っている凶悪な魔物だ。『悪い子はカルボーに食べられるよ』などといって𠮟られるぐらいポピュラーな、怖い魔物の代名詞だ。
 確かに私も、フライドミンティ芋にチーズソースとトマトソースを添えた時点で、『カルボーだわ』と思ったけれど。料理人さんたちも何か言いたそうにしていたけど。敢えて口には出さなかったのよ。だって。そんな事を口にしたら。
「カルボーか」
「あら。確かに、この色の組み合わせは……」
 なぁんて、皆様の間からチラホラと声が上がる。
 ほらー。ミンティ芋がカルボー色だと、刷り込まれてしまったではないですか。
 魔物の色の料理なんて、余計に敬遠されてしまうわ……。やっぱりダメかしら。
 どうにかカルボーのイメージを払拭出来ないか考えていると。ぽつりと、アルト会長が呟いた。
「面白いかもしれません。この揚げたミンティ芋を、『カルボー』の名で売り出してみてはいかがでしょうか?」
 ええっと。何を仰っているのかしら、アルト会長。誰が食べたがるんですか、魔物の名前の料理なんて。
「例えば、そうですね。ドヤール家の護衛や、兵士たち、それと冒険者などにこの料理を振舞ってみてはいかがでしょうか。この味は病みつきになる美味しさですし、一度食べれば、十分リピーターを見込めると思います。兵士の宿舎、冒険者たちの集まる酒場や食事処などで出せば、一気に広まると思います」
 ウチの護衛さんたちや、兵士たちや、冒険者に? まぁ、男子受けする料理だと思いますけど。
何故そんな限定的な相手なのかしら。
「こういった職種の方たちは、ジンクスや縁起を大事にします。危険な討伐や遠征の前に、『カルボーを喰らえば、どんな敵にも負け知らず』と触れ込んで、食べてもらうのです」
 つまり、『とんかつを食べて勝負に勝つ』みたいな感じかしら。
 まぁ。ミンティ芋は栄養価が高いから、討伐のように体力を使う仕事の前に食べると、たしかに効果的かもしれないけど。ジンクスって、勝手に作っていいものなの?
「はっはっは! それはいい! あのカルボーを食べてやるというのは、確かに爽快な気分だな」
 伯父様がお皿を覗き込んで愉快そうに笑い声を上げた。伯父様にとってはカルボーなんて、脅威でもなんでもないはずだけど、先ほどよりも楽しそうにフライドミンティ芋を食べ始めた。さすが脳き、いえ、勇敢な騎士だわ。
「ですが、この案はミンティ芋より、カルボーの名で知られてしまうという欠点がありますが……」
 アルト会長が冷静にデメリットを告げる。確かに。芋の名前が、ミンティ芋よりカルボーとして広まりそうよね。
「いいえ……! 領民たちが作った折角のミンティ芋が、食べられずに破棄される悔しさに比べたら、魔物の名で呼ばれようと、皆に食べてもらえる方が、よっぽどマシです!」
 レザック様がギラギラした目でそう仰るのには理由がありました。ミンティ芋、収穫量はかなり多いのだけど、なかなか売れず、自領で消費出来る分以上の物は、泣く泣く廃棄をしているのだとか。家畜の飼料にしても、なお、余るそうで。うう、せっかく作った物を捨てるなんて、辛いわね。
「では、まずは実験的に、この料理はドヤール領で広めてみようか。我が領には、命知らずの屈強なつわものが多いからな。カルボーなど、喜んで喰らうであろうよ」
 屈強な兵の頂点であるお祖父様が、ワイルドな笑みを浮かべる。
 確かに。我がドヤール領は、よそ様に比べても、脳き、いえ、屈強な兵士や冒険者が多いですわね。魔物が多いから、強く勇ましい方々が集まるのよ。
 縁起担ぎでもなんでも、一度口にしてくれたら。きっとリピーターは多いと思うの。前世でも、太ると分かっていても手を伸ばさずにはいられなかったもの。私も、居酒屋では絶対頼むメニューだったわ。
「それにしてもっ。こ、これほどのレシピを考えていただけるなんて。もちろん、レシピの利益登録の使用料はお嬢様のものですが、我がミンティ領からは、どれほどのお礼をすればよいのか……」
 ミンティ男爵が感涙にむせびながら、そう仰ったのですけど。
「ミンティ芋のレシピについて、使用料は取らない予定ですわ。出来るだけ多くの方に、ミンティ芋を食べていただくために作ったのですから。あ、『ギューロスとミンティ芋のシチュー』について、『こもれび亭』に支払う協力費はこちらで負担しますので、お気になさらずに」
 受け取ってくれなかったんだけどね、ジョアンさんたち……。『いただけませんっ』って涙目で固辞されちゃって。ダイレクトには無理でも、どこかで還元させてもらうしかないわね。
「そ、それでは、ドヤール家の益がないではありませんか……!」
 困惑するミンティ男爵に、私は首を振った。
「いえ。ミンティ芋のレシピは、副次的なものというか……。美味しい食材なので、活用しないのは勿体ないと思って考えただけなので、私の趣味のようなものですわ」
 折角いただいたミンティ芋ですもの。芋は使わない、、、、、、からといって、捨てるなんてもったいないし。
スープだけじゃ飽きるわと思って、色々作っちゃっただけなのよね。
「しゅ、趣味……」
 ミンティ男爵が、呆然と呟かれる。これが趣味の範疇なのかと言いたげですが、事実ですから仕方ありません。

「ここからが、本来の目的商談ですわ」


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