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【DAY12(GOAL)】何者なんかになる必要なんてない。君が持っているものが、君が思いをもってがんばって手に入れたものが、そのままが君というヒトになっていく。
MOUNTAIN BIKE JOURNEY 2020夏
【DAY12】
しまなみ海道大島→尾道にGOAL 62.6km
【レポートとともに、この旅の終わりへの思いを綴りました。】
今日で旅が終わる。最後の朝をむかえる僕らを海からのぼる太陽が照らしてくれた。昨日一緒に遊んだまるじが家からてくてく歩いてくる。しばらくしたらお母さんもやってきた。
「あんたも一緒に途中までついていけば?」
メンバーの準備する姿を見ながら、そうお母さんに言われたまるじの気持ちはどんなだろう。少しだけうつむいて考えている彼に、僕は迷ったけれどひと言だけかけることにした。これは僕のためだったのかもしれない。
「まるじ、大丈夫だ。」そうひと言だけ、かけた。
一昨日までビシッと出発時間に間に合わせていた子どもたちは、今日も少し遅れた。それはゴールまでなんとかしてたどり着かないといけないという緊張感が抜けたからなのか、ゴールしたくないという気持ちなのか、それはきっと聞いたところで分からなくて、こうしてその行動にだけ現れる。
まるじが自分の小さな車輪の自転車を引いて戻ってきた。さあ出発。
グルグルペダルをまわしながら僕らのペースに平気でついてくる彼を見つめる◯◯が驚きの声をあげている。そう、気持ちが定まったときというのは自分が持ってるチカラが出るよ。
すでにしまなみの雄大な景色への感動は慣れに変わり。子どもたちは今日も暑さと向き合う。朝ごはんに立ち寄ったコンビニで旅の最後の1日をどう過ごしたいかということをみんなで話しあった。
「みんなで楽しい思い出をつくりたい」
それが子どもたちから出た言葉。
そうだな、僕らのチャレンジはもう終わってる。
それは持てるチカラを出しきってゴールへ向けて走るということ、という段階は過ぎたということ。もしかしたらこれは、長く走り続けたカラダをゆっくりとそのペースを落としていって、最後その足が止まるまでの、この旅をカタチとして仕上げるものなのかもしれない。
「あと◯時間で旅が終わるよ!」
休憩のとき、ごはんのとき、信号待ちで、そう声をかけた。それぞれに伝わっているはずなのだけれど、それを聞いたときの子どもたちの反応もさまざまだ。どちらかというと静かにそれを噛み締めているような、そんな感じを受けながら走る。
最後のお昼はピザ屋さんがいっぱいだったのでお隣のラーメン屋さん。最後までこうして美味しいものを食べされることができたのも、支援くださったみなさんのおかげです。ほんとうにありがとうございました。
今日も信じたくないくらいに暑い。きっと最後の1日を楽しみたい!と心に決めた子どもたちの心を溶かしてしまうくらいに。ゴールまで残り5kmを切ったところで、◯◯のフロントのバッグが緩んで落ちそうになったのでみんなで止まった。すぐにまわりの子どもが手伝いに駆け寄る。そのタイミングに少し遅れて手伝いにいった◯◯がうずくまって顔を覆ってる。
どうしたかなと見ていると、どうやらもう手伝いが足りているからと誰かがかけた言葉が思いのほか彼のことを傷つけたようだ。うずくまる◯◯に、声をかけたメンバーたちが「傷つけるために言ったんじゃないよ」「ほんとうに手が足りていたからそう伝えたんだよ」とそれぞれ声をかけている。うん、それでいい。このメンバーは誰も誰かをしいたげたり、傷つけたりする気持ちはない。少しのすれ違いでこういうことが起こるから、そのときにはお互いの気持ちをそのまま伝え合えばいい。
「みんな納得したか?」と声をかけうなずいたので、またそこからペダルを踏み込んだ。
しばらく考えていて思い当たることがあった。泣いてしまった◯◯は、オトナが指示を出さない限りは、普段から割と誰かに任せるようなところがあった。昨日の夜にも、途中から料理に加わろうとして、今ごろ?と声をかけられていた。
けどそこに僕がふと思ったのは、もしかしたら◯◯はずっと手伝いたい気持ちがあるんだけれど、どうやって切り込んでいいのか考えあぐねていたのではないか?昨日の夜も手伝わないで、けれどみんなが料理する横で「痛ってぇー」とわき腹をおさえながらアピールしていたときに自分に引っかかってたことが外れた気がした。
少し余裕があるなくらいに思っていた旅の終わりは、時間に追われながら走るようだった。ゴール時間に設定している5時を少し前に、僕らは最後の島から尾道に渡る船着き場に到着した。
さあこれでほんとうに旅が終わる。なんだかスーッと船着場に入ってしまって、最後のひと漕ぎ!という感じが味わえなかったので、みんなで仕切り直して、走ることを終えた。船がついたら、もうそこはゴールだ。
船が曲がりながらやってきて、それに乗り込んだ。小さな堤防をかーぶしながら抜けると、目の前に尾道の街並みが広がった。「さあみんな!お父さんお母さんいるか見てろよ!」そう声をかけながら僕も探すと、船着場のところでたくさん手が揺れている。なんかみんな緑色のものを持ってる、よーく見るとMOUNTAIN BIKE JOURNEYの文字も見える。なんだこりゃ。どうやら派手なゴールがお待ちかねのよう。
尾道側の船着場を終えるとカメラのフラッシュが光る。取材も来られているようだ。そうしてお父さんお母さんが待っているほうへ、最後はみんなで横一列になって歩いていく。目の前に白い一本線が現れた。なんとゴールテープまで用意してあった。(実は親御さんたちが秘密のFacebookグループを作ってどうやってゴールを演出しようかずっとやりとりをされていたそうだ。)
最後の一歩を踏んでゴールテープを切った。おめでとう。君たちの旅がここに生まれた。
お父さんお母さんに最初にかける言葉を考えさせていた。みんなゴールしたままそれぞれの親御さんのところへ向かう。旅の相棒の自転車を持って。
抱きしめられる子、そっとその頭に手を置いてもらう子、それぞれの迎え方がそこにはあった。それを見ているだけで、僕はもうじゅうぶんなご褒美をもらった気がする。そこのあるのは、紛れもない「いまを生きている証」だから。心と心が重なって、お互いが思い続けてきたそのあいだの時間と思いが溶け合っていく。そのことはもう奇跡のようなものだから。
最後のミーティングは、親御さんには離れたところで見守ってもらった。
メンバーひとりひとりに、ぼくたちみんなが語る。それぞれが持つ素晴らしいところ、そして成長したところを仲間が語る。
◯◯は誰かに話しながら涙を流した。◯◯は自分のいいところを聞きながら涙を何度も拭った。
何者なんかになる必要なんてない。君が持っているものが、君が思いをもってがんばって手に入れたものが、そのままが君というヒトになっていく。そして誰かの心に息づいているから。そのことを最後に伝えたかった。だから個別ではなく、みんなの前でぼくもそれぞれのメンバーへの想いを語った。
終わるころには、もう次のことを考えている。
これは僕の冷たさなのか何なのか。けれどこんなにも美しいものを、また僕はできればそばで見たいと思う。そんなことに自分の命を使いたいと思う。
ほんとうにありがとうございました。
この旅に関わってくださったすべたの方に御礼申し上げます。
2020年8月16日 西川昌徳
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