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【認知症者が行方不明の家族へのアンケート】 残された家族は疲弊、孤立、捜すすべなし、年金も停止

2024/10/10

>社会で起こる事象の中には、警察も社会支援組織も、誰も助けてくれなくなるものが多数ある。例えば、認知症になった家族が行方不明になった場合がそれにあたる。東京新聞がこの事象をとりあげた意義は大きいだろう。


転載 東京新聞

残された家族の疲弊、孤立 認知症で行方不明 当事者アンケート 捜すすべなし 年金も停止

2024年10月10日 08時06分

 外出したまま行方不明となった認知症の人の家族が苦しみを抱えて孤立している実態が、NPO法人「いしだたみ・認知症行方不明者家族等の支え合いの会」(長崎市)の当事者アンケートで明らかになった。警察の捜索が打ち切られた後、多くの家族が捜し方などを相談する場がなく悩みの中で疲弊していた=グラフ。会は「体験を共有することで役に立ちたい」としている。 (五十住和樹)


 「何をすればいいのか、全く分からなかった」「助けを求められず、市役所からの支援やアドバイスもなかった」。アンケートの自由記述欄には、やりきれない思いを打ち明ける言葉が並んだ。 
アンケートは、8月のNPO設立に合わせて、9月10日からインターネット上で実施。同18日時点で11家族が答えた。代表理事の江東愛子さん(46)は「残された家族の実態は、これまでほとんど分かっていなかった」と話す。

行方不明になった坂本秀夫さん(左)。2018年に、妻と撮影した=江東愛子さん提供 

長崎市でレストランを営んでいた江東さんの父、坂本秀夫さん=行方不明時(73)=は昨年4月、散歩に出たまま行方が分からなくなった。軽度の認知症があった。3日目の夕方、警察官に「今日で捜索は打ち切り」と告げられた。アンケートでは6家族が3日以内で捜索終了を伝えられたと回答。終了後に暮らしている自治体からフォローがあったのは2家族だけだった。 

警察の捜索情報の開示も十分でなく、「どう動いてくれたのか分からない」「県外の捜索は『管轄が違う』と状況を教えてもらえない」との声も。携帯電話の通話履歴開示を通信会社に求めたが「契約者(不明者)でないと見せられない」と断られたケースもある。 

「無事を信じている。捜すのをあきらめていない」と江東さん。一方、秀夫さんの妻で江東さんの母(77)は「自分の年齢を考えると、いつまで捜し、待ち続ける日々が続くのか不安。かといって、区切りをつけたくてもつけられない」と話しているという。捜索継続などを巡り意見が食い違い、「家族や親戚との関係が悪くなった」と答えた人も複数いた。 

11家族全てが「金銭的に困ったことがある」と回答。自分たちで捜す費用がかさむのに、不明者の年金支給が止められ保険の解約もできない。「年金が止まるのに介護保険料は引かれる。生活の保障を見直してほしい」と訴える人もいた。 

警察だけでなく地域の企業や住民グループなどが捜索に協力する「見守り・SOSネットワーク」は、国の後押しもあり全国の自治体に広がる。だが、アンケートでは、全員が「行方不明前は知らなかった」と答え、4家族が「誰が動いたか分からなかった」、6家族が「ネットワークが地元になかった」とした。 

認知症介護研究・研修東京センターが2017年度に行った認知症の人の見守り体制構築に関する調査では、回答した1083市町村のうち、行方不明の心配がある人を事前登録する仕組みがあるのは57・9%。こうした自治体では「実際に早期の通報・発見につながった事例がある」との答えが目立った。

調査にかかわり、NPO設立を支援した同センターの永田久美子副センター長(64)は「これまでは当事者の声を聞かずに捜索が行われてきた。当事者が苦しみや経験を訴えることで、自治体格差が大きい現状を変えたい。認知症の人が安心して外出できる安全な街づくりにつながれば」と話している。