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木造構造に小さな革命! 森林循環の火付け役「CLT」で市場規模10%をなぜ目指せたのか?

株式会社アースボート代表・吉原ゴウの思考と実践の「今」をお伝えする当企画。

今回は全国展開に向けて、新拠点が続々とオープンしているEarthboatの「プロダクト」としての魅力に迫ります。

LAMP野尻湖での初号機の展開以降、マイナーチェンジを行いながら汎用性を高め続けるEarthboat。その設計には当初からある建築素材が取り入れられていました。

それはCLTと呼ばれる強固で特殊な木質構造材。

最近では大阪万博の巨大木造リングの建設に用いられ注目を集めましたが、一般的なトレーラーハウスの建築材料にはこれまでまったく用いられることがなかった素材です。

CLTとはどのようなものであり、それはいかにしてEarthboatと邂逅を果たしたのでしょうか。

宿泊施設としてのEarthboatに関心のある方はもちろん、事業者としてEarthboatの導入を検討される方も、ぜひ最後までお読みください。

聞き手は前回に引き続き、長野県信濃町在住の吉原の友人で、株式会社Huuuu代表の徳谷柿次郎が務めます。

吉原 ゴウ(よしわら・ごう)/1982年長野県生まれ。2007年-2022年まで株式会社LIGを経営し、IT産業に従事。株式会社LAMPを創業。2022年株式会社アースボートを創業し、代表取締役に就任。アウトドアスクールを経営する家庭で生まれ育つ。長く東京でIT業界に身を置いていたが、田舎の自然の魅力や、アウトドア体験をコアとしたビジネスをするために長野県信濃町にUターン。

聞き手:徳谷柿次郎(とくたに・かきじろう)/1982年大阪生まれ、長野県信濃町在住。株式会社Huuuu代表取締役。全国47都道府県を行脚しながら、あらゆるものを編集する。主な仕事に『ジモコロ』『Yahoo! JAPAN SDG’s』『SuuHaa』『OYAKI FARM』『DEATH.』など。40歳の節目で『風旅出版』を立ち上げ、自著『おまえの俺をおしえてくれ』を刊行。長野市で『MADO / 窓』『スナック夜風』を営んでいる。

CLTの快適性と安全性

CLT木材を使用したサウナ室へ続く階段

柿次郎:ゴウくん、今回もよろしく。今日はEarthboatのプロダクトとしての魅力に迫ります! 

さっそくなんだけど、Earthboatに取り入れている建材CLTについて、初めて聞く人も多いと思うのでぜひいろいろと教えてください!

ゴウ:ありがとう。専門的な話になるんだけど、CLTは「Cross Laminated Timber(クロス・ラミネーティッド・ティンバー)」の略で、複数の板の繊維方向をクロスさせて、ボンドで張り合わせた木質構造材のこと。クロスさせることで強度を高めていて、耐震性・耐久性に優れているのが特徴だよ。

柿次郎:具体的にはEarthboatのどこにCLTを使っているの?

ゴウ:壁も床も天井も全部。CLTはいろんな木材からつくることができるんだけど、Earthboatの場合は国産のスギを使ってる。そのスギの板材を4層に重ね合わせたものがEarthboatが特注しているCLTで、厚さは120mmある。

柿次郎は中に入ったからわかると思うんだけど、ものすごく頑丈な構造物に守られていると感じたんじゃない?

柿次郎:そうだね。重厚で構造物としての安心感がすごくあるなぁと。しかも木の香りがしてめっちゃ癒される。調湿効果もありそうだね。

ゴウ:うん。それでいて、蓄熱性がいいのも特徴。スギ材のCLTは熱の伝わり方が遅く、今の時期だったら外は暑いけど、Earthboatの中に入ればひんやりしてるなぁと感じるはずだよ。逆に冬は中の熱が逃げにくいから、一度温めたらずっとその温かさがキープされる。

つまり、冷やしたら冷えたまんまだし、温めたらゆっくり温まったまんまっていうことだね。エアコンもしっかり効くし、一年中心地よく過ごしてもらえると思う。

柿次郎:Earthboatは鉄のシャーシの上に乗っているトレーラーハウスだけど、躯体の居住性が普通のトレーラーハウスとは明らかに違うなと感じるなぁ。CLTはサウナの方にも使われている?

Earthboat備え付けのサウナ。大人2名でも十分な広さ

ゴウ:もちろん。サウナの中って環境としてはめちゃくちゃ過酷で、使い続ければどうしても木は痩せて割れたりしていくんだけど、EarthboatのCLTはそれも見越して4層構造にしている。数年で使い物にならなくなるような安っぽいものじゃない。

あと木造建築のサウナということで火災を心配する人もいるかもしれないんだけど、CLTは厚みがあるから燃え広がりにくいんだよね。

これは日本のCLT協会もアピールしていることだけど、直接火にさらしても表面しか燃えることがない。Earthboatで導入しているフィンランド製の対流式ストーブ(※1)NARVIの優秀な機能性から考えても、普通に使っていて火災になることは考えにくい。

俺は大切な人と泊まりに行ける宿を目指してきたし、これまでのサウナづくりのノウハウも生かして安全で快適なものをつくった自負はあるよ。

※1 上部のサウナストーンを温めるように設計されており、一般的なストーブのように周囲に遠赤外線を放出しないタイプ。加熱時でもストーブ側面は手で触れるほど。

日本でトップクラスのCLT消費量へ

Earthboatの室内。大開口の窓からは絶景が楽しめる

柿次郎:素材としてかなり優秀だ。CLTをこんなに使ってるトレーラーハウスってあるの?

ゴウ:ないと思う。一般的なトレーラーハウスは軽量鉄骨か、木造でもツーバイフォー工法を取り入れてるものがあるくらいで、日本ではまだCLT自体がぜんぜんメジャーになってない。

実はCLTの活用を進めていくことは国策でもあって、最近では大阪万博の巨大リングに使われたことで知られるようになったよね。

柿次郎:あの巨大リング、めちゃくちゃCLT使ってそう。

ゴウ:単発のプロジェクトでのCLTの使用量ではあの巨大リングが日本一だと思う。

ただ、持続的なプロジェクトで使われるCLTの消費量ということで言ったら、もしかしたらEarthboatはトップになるかもしれない。

柿次郎:え、そうなの!?

ゴウ:というのも、Earthboatはこれまで約30台つくったんだけど、これを近いうちに年間100台の生産ペースに上げようと思っているんだよね。そうなると、CLTの日本での年間消費量の10%をEarthboatが担うことになる。(※2)

柿次郎:すご!(いつの間にそんなことに……?)

ゴウ:万博のリングみたいに巨大な建造物をつくるからCLTが大量に必要です、じゃなくて、うちの場合は「毎月必要です」「来年以降もずっとずっと必要です」っていう持続的なプロジェクトだからね。そういうCLTのプロジェクトはEarthboat以外にまだ日本に存在してないんじゃないかな?

年間100台の生産というとすごい数字に思えるかもしれないけれど、今年4月にオープンしたEarthboat Village Kurohime以降、戸隠、白馬、北軽井沢と拠点も着実に増えている。

そのほかの地域でもどんどんプロジェクトが進行していて、需要の高まりをしっかりと捉えているから、現実的に無理な目標ではないと思ってるよ。

※2 2023年度(2023年4月~2024年3月)のCLT総生産量は19,000立方メートル。EarthboatのCLTパネル使用量は1台あたり19立方メートルであり、年間100台生産した場合の使用量は1,900立方メートル。

CLTを持続的に「量産」する

柿次郎:すごいね、Earthboat。トヨタみたいになっちゃうんじゃない??

ゴウ:なっちゃう……のか!?(笑)わからんけど。

そもそもEarthboatって、全国に宿を展開していくモデルだから量産できるものにしたいというところから始まってる。

ロンドンで活動している建築家ユニットPAN-PROJECTSの高田一正くんがそれを汲んで設計してくれていて、そこにCLTという素材がハマったんだよね。

柿次郎:Earthboatの生産は今どういう座組みでやってるの?

ゴウ:CLTの生産は愛媛の木材製造販売会社『サイプレス・スナダヤ』さんにお願いしていて、そこでつくったCLTを千葉にある工場に運んで、地元の職人さんたちに組み立ててもらってる。

この座組みは、Earthboatを毎月つくり続けるために構築してきたもの。ありがたいことに、それが今どんどん回り始めてる状況だよね。

柿次郎:量産体制が着実に進んでると。

ゴウ:CLTメーカーさんって、巨大な設備投資が必要ないわゆる装置産業だから、工場の機械を稼働させたりさせなかったりというのが一番経営的にキツいんだ。

でも、何度も言うけれど、Earthboatは「量産」が前提のプロダクト。持続的にCLTを使うからメーカーさんもありがたがってくれているし、うちとしてもこの協力体制をどんどん強くしていきたいんだよね。

柿次郎:量産するために、在来工法を使うという選択肢は?

ゴウ:考えたよ。在来工法の良さは手法が確立されてることだからね。日本全国どこの大工さんに頼んでも設計図さえしっかりあればつくることができるわけで。

柿次郎:ガンプラとかミニ四駆みたいなもんよね。説明書見れば、みんな何となく分かっちゃうやつ。

ゴウ:そうそう。材料はどこでも手に入るし、パーツを細々と組み合わせていくから現場での調整もしやすい。ただデメリットは、一つひとつの工程に手作業が発生して、職人さんの手間がかかること。効率があまりよくない。

その点、CLTはまだ日本で生産体制が確立されていなかったけれど、パネル工法で施工が簡単だし、環境さえ整えることができれば、職人さんの専門的な技術だけに頼ることなく量産ができる。

CLTはヨーロッパではメジャーな建築手法でもあるし、システムが安定的に稼働すれば一つひとつの製造コストも下げられる。日本にCLTを普及させるという観点でも、チャレンジする意義があるなと判断したんだよね。

柿次郎:ヨーロッパでは主流の素材なのに、日本ではほとんど広まっていないのが不思議だね。

ゴウ:日本は木材資源に恵まれた地域ではあるけど、山が多くて輸送が困難。製材所への適切な投資もできてないから、生産体制が築きにくかったというのはあると思う。

日本では資材を効率的に生産できないから、大規模に生産される海外の安い木材に頼るしかなくて、その結果日本の林業が衰退し、手を入れられないから森が荒れて……という悪循環が生まれてきた。

俺はそれを改善するためにも、Earthboatという持続的なプロジェクトを進めていきたい。日本の木材を日本でしっかりと消費して、日本にいい経済効果を生み出していきたいと思ってるんだよね。

柿次郎:志たけー!

日本のスギを余すところなく使う

柿次郎:さっきEarthboatのCLTは国産のスギを使っていると言っていたよね。それを使うのは当初から考えていたことなの?

ゴウ:考えていた。俺は花粉症がひどいし、日本中に植えまくられたスギを有効活用した方がいいとは思ってたから。

でも日本のスギって植えられている数に対して、適切に消費されてるとは言えない状況がある。輸入材の方が安いし、伐採しても採算が取れないから伐採されない。建材として柔らかいし、あまり使い勝手もよくない。

でもCLTの技術を使えば、スギは強固な建材に生まれ変わる。生産システムの構築に課題はあるけど、適切に使われていくようになれば、間伐が進んで山は元気になるし、林業も活性化されて経済にもいい影響を与える。

国もCLTに着目しているというのは、そういうことだよね。

柿次郎:なるほど。合理的な理由だし、いいことしかないように思えるな。

ゴウ:あとCLTって、木の太さをあまり気にせずつくることができるっていうのもいいんだよ。

日本のこれまでの木造建築って、一本のでかい木からでかい柱を取って、それをそのまま大黒柱にしたり、巨大な梁にしてきたわけじゃない?

でも、そういうのって樹齢の長い木を選ぶし、歩留まり的に無駄も多い。太い木が育つまでには何十年もかかるわけで、当然ながら安定供給には結びつかない。

でもCLTは製材用としては従来使えなかったような、曲がった樹木や幹が細い間伐材でも原料にできる。圧倒的に無駄が少ないし、効率がいい。

柿次郎:まじでいいことしかない!

ゴウ:しかもすごいんだよ。こないだCLTメーカーさんに話を聞いたんだけど、CLTをつくるときに丸太を削るじゃん? そうしたら木の皮とかの端材が出るじゃない。それを彼らはエネルギー資源として燃やすんだよ。燃やすと熱が出る。その熱で蒸気を起こして、木材の乾燥室を温めてるんだよね。

さらに、その熱でタービンを回してバイオマス発電もしている。工場の電気はそれでまかなっていると。

柿次郎:余すところなく使ってるんだ。めちゃくちゃサーキュラーでいいね。

ゴウ:Earthboatというプロジェクトは、環境の観点からみても意義のあることをやっているし、それをビジネス的なアプローチで日本の経済にも結びつけている。

だから応援してくれる人もすごく多いし、そういう声を聞けば聞くほど、見事に時代にハマったプロジェクトだなって思うよ。

まだまだ課題はあるけれど、みなさんの期待に応えられるように、これからもがんばっていきたいな。

柿次郎:いやー、なんかこの会社、伸びちゃう気がしてきた!?!?

ゴウ:伸びますよ。流れは確実にきている。Earthboat、これからもよろしくお願いします!


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