#45 「ラピス・ラズリ 12月の誕生石」に思うこと

北国の長い夜を覆う、静謐を伴った深い藍色。
そこに煌めく無数の星々から降り注ぐ、淡く幽き光の瞬き。

いつも私はこの宝石を見ると、オリオン座が浮かぶ真冬の夜空を思い浮かべます。

上京してからはそういえば夜空に星座を探すこともなくなりましたが、今でも地元に帰ると、冬は「オリオンのベルト」を探しながら夜道を歩きます。

前置きが長くなりましたが、本日は12月の誕生石の2つ目「ラピス・ラズリ」について思ったことを綴っていきます。

この宝石は、まさに先に述べた冬の夜空のように、「藍色の不透明な地色に金色のパイライト・インクルージョンがパラパラと煌めいている」宝石です。
不透明の理由は、通常ダイヤモンドやルビーなど透明な宝石は「単結晶」であるのに対して、複数の結晶がぎゅっと集まって形作られているいわゆる「岩石」とよばれる鉱物の集合体であるからです。

主に、「ラピス・ラズリ」を構成している鉱物は以下の通り。

○ソーダライト
○ラズライト
○アウイン(アウイナイト)
○パイライト(金色のインクルージョンとして)

などなど、実際にはもっと多くの鉱物から成り立っている複雑な組成を持っている鉱物です。

鋭い方はピンとくるように、キラキラを添えるパイライト以外は、ほとんどが「青色」をした鉱物で構成されていますよね。

それぞれの鉱物の単体の青色の色合いがまた微妙に異なることで、混ざり合って一つの「ラピス・ラズリ」という宝石になったときに、あの絶妙なコクのある麗しい「藍色」が生まれ出ているのだと思います。

通常の「宝石」は、インクルージョンがない方が望ましいですが、ラピス・ラズリはこの金色のパイライト・インクルージョンが存在することでよりその価値が高くなる珍しい宝石種の一つ。
真っ青一色のラピスラズリはそれはそれで珍しいので価値はあります。

ここは好みにもよると思いますが、カットした後にまんべんなく金の粒が散らばっていたり、あるいは天の川を思わせるようにそのきらめきの粒が模様を描いていたりする方が個性があり、表情豊かでとても美しいです。

白い筋のようなインクルージョンが見えることもありますが、これは構成している鉱物の一つ、ソーダライト由来のカルサイト・インクルージョン。好みにもよりますが、基本的には金色のパイライト・インクルージョン以外の不純物は無いほうが良いとされています。

そしてこの宝石で厄介なのは、なんといっても「染色」と「イミテーション(模造石)」の存在。
簡単な見分け方は、以下の通り。

○染色
→青い染料で他の鉱物を青色に染めたもの。アセトンや除光液を湿らせた綿棒で柔らかくこすると、染料がつくので看破可能。

○イミテーション(模造石)
→プラスチックに金色の箔を混ぜたもの。パイライトに似せた金色の箔の形が天然のものよりも整っているので、拡大検査で看破可能。

○再結晶ラピス
→細かい粉末状のラピスと他の鉱物の粉末をラピスに似せて固めたもの。屈折率など光学検査で看破可能。

ラピスラズリは不透明な宝石なので、基本的には拡大検査による表面の状態と色の入り具合、インクルージョン自体の形が整いすぎていないかで看破することになります。特に染色は多いので、安価なラピス・ラズリは注意が必要です。

今までも何度か書いているのですが、私は元々はダイヤモンドが専門でしたが、自分自身が好きな宝石は不透明で、あまりキラキラしていないものが多い。

不透明な宝石は、その表面模様や構造による光学効果(スターやシラー)の出現で、その結晶までの成長の裏にある何億年もの時間に思いを馳せられるロマンがあり、個人的にはより魅力的に感じられます。

マラカイトのグリーンの濃淡の縞模様。
ラリマーの青と青白と白の斑模様。
カルセドニーの中で縦横無尽に枝を伸ばす風景画。

・・・そしてこのラピスラズリも、一時期そんな理由ではまっていた宝石の一つです。

そして私はこんな仕事をしていますが、自分で購入するラピス・ラズリには「染色」「イミテーション」「再結晶」のどれにもあまりこだわりがありません。(もちろん、仕事で扱うときはこだわりますが・・・)

何故なら、その「模倣された宝石」たちにも、それぞれの物語を感じるからです。

「染色」は、基盤になる石によって同じ染色の仕方でも生まれ出る色は変わる。

「イミテーション(模造石)」は、ラピス・ラズリに魅せられてそれを模倣しようとした制作者が、"一番どこに魅力を感じて再現しようとしたのか”の結果を感じられる。

「再結晶」は、SDGsだなという思いもありますし(笑)、どんなに小さな粒になっていても一つ一つはラピス・ラズリの名残をはらんでいて、それが固まって一つの作品になっているわけだから、そこにも宝石の「息づかい」を感じる。

・・・そんな気がするのです。

宝石に重要なのは、「情報の開示」とそれに「見合った価格」です。

それがクリアされていれば、人間の知恵と技術とで生み出された"宝石”たちも、きっと上手に棲み分けしていけるのではないかと思っています。

また話が逸れましたが・・・。

私事ですが、この冬、北の大地にこの「ラピス・ラズリの空」を見に行くことができることになりました。本来の目的は違うところにありますが、そこは雪が深く、夜はとても美しい夜空が見られると聞きます。

果たしてそこに広がる夜空は、ずっと思い描いていたこの「ラピス・ラズリの空」と同じ輝きなのか・・・。ラピス・ラズリは、果たして私の思い描いてきた北の大地に広がる「夜空の輝きの宝石」なのか・・・。

実際にこの目で確かめてきたいと思います。

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