#44「宝石の絵の具」に思うこと

皆さんは、「顔料(がんりょう)」と言う言葉を聞いたことはありますか?

学生時代に美術部に所属していたり、アート好きな方だったら一度はどこかで目にしたことのある言葉だと思います。

今回は、その中でも「宝石から作られる顔料(がんりょう)」にについて、思ったことを綴っていきたいと思います。

まず、改めて「顔料(がんりょう)」という言葉について調べてみました。

○顔料(がんりょう)とは・・・
粉末状の着色剤。絵の具のように水や油に溶けるものではなく、使用の際は着色する土台にその粉を密着させるための「定着剤(接着剤)※ニカワなど」を使用して着色する。

というものらしいです。

宝石を専門としていて、絵画が好きな私としては長年気になる画材の一つでした。しかし悲しいかな、絵や彫刻などアートを"観る”ことはとても好きですが、自分で描いたり削ったりする能力や、何かを一から生み出す才能は皆無。「好きこそものの上手なれ」という言葉がありますが、私はどちらかというと「下手の横好き」。でも、この言葉も違いますね。そもそも「やってみよう!」と思っても、たいてい一度手をつけてどういうものかが見えた段階で、飽きて二度とやらない(笑)

そもそも「顔料(がんりょう)」なんて、一般的に手に入る画材だとは思っていませんでした。

そんなこんなで、宝石(鉱物)から作られる「顔料(がんりょう)」というものには、昔からとても興味がありました。
例えば、

○紀元前の洞窟に描かれた「壁画の赤色」
○クレオパトラの目を彩った「アイシャドウの緑色」
○フェルメールが愛して絵画に使用した「布の青色」

どれも色鮮やかで、宝石の時の色にも増して私たちを魅了する美しさです。

ちなみに、「顔料(がんりょう)」として使われる鉱物(宝石)にはどのようなものがあるか、少しだけ例を挙げてみます。

○赤色→赤土、辰砂(しんしゃ)
○緑色→マラカイト(孔雀石)
○青色→アズライト(ラピスラズリの構成成分の一つ)

この他にも「無機物」としての顔料はたくさんあるようですが、「宝石」という印象で知られているのは上記3つが主だと思います。

この「顔料(がんりょう)」というものに使用される鉱物には、絶対的な条件が一つあります。それは

「粉末になっても色があること」

です。

ほとんどの宝石は、「他色性(たしょくせい)」といって、結晶構造にわずかに含まれた不純物が光に作用して、"色"として私たちの目に見えるというしくみになっており、それぞれの宝石を砕いて粉々の粉にしてしまうと、「無色(白色、カラーレス)」になります。
(例えば、ルビー、エメラルド、サファイア、トパーズ、アメシストなど色鮮やかな宝石たちも無色になる)。

当然ですが、粉末になってもその「石自体に色がついているもの」でないと、顔料としては使用できません。

たとえば、更に顔料として使用される可能性があるものを考えると、

○パイライト(黄鉄鉱)
→"愚者の金”の別名を持つように、見た目は金色に近い真鍮色だが、粉にすると「緑っぽさのある黒色」。
○ヘマタイト
→光沢のある金属質のメタル・ブラックの色だが、粉にするとなんと「赤色」!
○ジェット
→見た目は真っ黒だが、粉にすると「チョコレートのような茶色」。

・・・のようなものもあります。(すでに顔料として使用されているかもしれませんが、そこは専門外なのでご容赦ください)

いまは「顔料(がんりょう)=画材」としてピックアップして語っていますが、実はこの「顔料になりうるもの」は、私たち宝石鑑別士にとっても「宝石を"鑑別"する際の重要な指標の一つ」になることもあります。

「条痕(じょうこん)」といって、見た目が似ている宝石(鉱物)を見分ける手段として使うことができます。

※条痕(じょうこん)とは・・・
引っかいたり、素焼きの白い陶板の上でこすりつけた際に出る、対象物質の粉。特徴的な色を見せるものがある。

たとえば、

○ゴールド(金)とパイライト(黄鉄鉱)
※どちらも金色の見た目
→条痕が、金は「ゴールド」、パイライトは「黒色」
○ラピスラズリとソーダライト
※どちらも不透明の青色の見た目
→条痕が、ラピスラズリは「青色」、ソーダライトは「白色」
○ジェットと黒いプラスチックやオニキス
※どちらも不透明の黒色の見た目
→条痕が、ジェットは「チョコレートのような濃い茶色」、黒いプラスチックやオニキスは「白色」

ここでいきなり「黒いプラスチック」を出したのは、ジェットやオニキスの模造品として黒いプラスチックやガラスが使用されることがあるので、宝石鑑別の視点から例に挙げてみました。

実際にはこの方法は、大なり小なり対象物を傷つける"破壊検査”になってしまうので、一般的には行いません。でも、加工のために空けられた穴口やちょっと磨耗した面や縁を拡大して観察したときに、その痕跡の色で鑑別の一助となることがあります。

話を戻します(笑)。

そもそも、一番最初に「石を粉にして色を出し、それを使って絵を描こう」と思ったのは誰だったのか、そこにまで思いを馳せると原始人にまで遡ってしまうみたいなのでちょっと置いておきますが、本当に興味深いですよね。

そして、なぜ今回いきなりこの話題を持ち出したのかと言いますと・・・。

実は、手に入れていたのです!

その名も・・・

「石の絵の具」!

先日ふらりと立ち寄った、上野の国立科学博物館のお土産コーナーで見かけて、迷うことなく即購入しました。

ちょっとだけ、お写真を載せておきますね。


顔料として粉にする前の石たち

セット内容は、もうすぐに絵の具として自分で挑戦できるように、絵筆や研磨剤や定着剤など全て入っています。

セット内容によってお値段は違ったと思いますが(興奮して覚えていない)、2,000円~3,000円台くらいのお手頃なものだったと思います。(多分そもそも、小学生の自由研究的なためのセットっぽい)

入っている宝石(鉱物)は、以下のとおり。

○アズライト(藍銅鉱)→青色
○マラカイト(孔雀石)→緑色
○石墨→黒色
○ジャスパー(潜晶質の石英の一種)
→今回は赤色(いろんな色ある)
○ピクチャーストーン
→黄土色(この石知らない)
○サハラ砂漠の砂
→淡肌色(サハラ砂漠・・・!?)

さてさて・・・。
本当だったら、手順を追ってどういうものかレポをするべきこの状況。
入手してから1ヶ月ほど経つと思うのですが、まだ悩んでいます。

何故なら

①、美しすぎて、粉にするのはもったいない(そもそも鉱物好き)
②、不器用で、巧くできる気がしない。
③、諦めずに最後までできる気がしない
④、そもそも何を描くの?
⑤、写真撮るのが苦手だから、いざ手を付けても伝わるレポができる自身がない
⑥、①に戻る

これを繰り返しています。

さて、私はいつか、みなさんにこの「顔料(がんりょう)」を作って何かを描いてみたというレポができるのか・・・?

期待せずにお待ちいただけたら幸いです。

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