アートディレクションとプロンプト
デザインという仕事の中に、アートディレクションという分野があります。これには職域という見方もあれば、技術という見方もあるのですが、振り返って考えてみるとこれは、技術や技法と捉えることが適切なのではないかと思っています。
古いところでは葛西薫さん、少し前だと佐藤可士和さんや森本千絵さん、最近人気なのは、吉田ユニさんなどが有名ですが、広告業界においてその技術を仕事にしている人はたっくさん存在しています。
かくいうぼくも、アートディレクターという肩書を中心に仕事をしていた期間は比較的長く、現在もその技術を有効に活用しています。
ここで、アートディレクションとは何なのか?
商業的な範囲であればこれを説明することは意外と簡単で、クライアントさんがターゲットに向けて伝えたい情報やイメージを、ビジュアル表現に置き換えてアウトプットする上での管理監督作業です。
ただこれけっこう訓練の必要な作業で一筋縄ではいきません。なぜなら多くの場合それは、情報をイメージに置き換えて最大化した上で、情報として受け取ってもらうという、人の左脳と右脳を冒険するような作業だからです。
そんなアートディレクションという作業の中で、ぼくが最も難しいと感じて、最も失敗が多かった作業は、イラストのアートディレクションです。
例えば、クライアントさんとの打ち合わせで『混沌とした未来都市の中で、一人の少女が立ちすくんでいるが、雲の切れ間から一筋の光が差している』そんなシチュエーションをドラマチックなタッチで描こう。
と決まった内容を、クライアントの頭の中、クライアント担当者の頭の中、ぼくの頭の中、イラストレーターの頭の中を経由して、ターゲットの頭の中に届けなくてならないからなのです。
アートディレクターは、そのイメージをイラストレーターに伝えなくてはならないのですが、資料を集めたり、自分でラフを描いてみたり、イラストレーションはその雰囲気が描き手の個性で縛られていたり、構図など含め後からの修正が困難なことから、ひとつ間違えると、ゼロから描き直しというリスクや、イラストレーターさんにとって本意でない、余計な手間をかけてしまうこともあるのです。
そんな仕事のプロセスを乗り切るために、アートディレクターは阿吽の呼吸で描いてくれたり、柔軟に複数のタッチを描き分けたりすることの出来るイラストレーターさんを何人か抱えていたりするものですが、なによりアートディレクターに必要とされる能力それは『対話力』なのです。
昨今、画像生成AIによる、イラストレーションの再現は日に日に進化し、ぼくも企画書段階の挿絵レベルであれば頻繁に使用するようになりましたが、これがけっこう面白いのは、プロンプトを書くという技術がアートディレクションの技術と良く似ているところなのです。
そういうことから見てみると、その範囲に制限はあるまでも、優秀なアートディレクターは巧みにAIを使うのではないかと感じるのです。(アートディレクターに限らず全ての管理監督者)
あくまでも相手は機械ではありますが、プロンプトを書く行為はそのもの対話であるとするならば、ぼくは将来AIと付き合うことを避けられなくなっている子どもたちに
人と対話することはその訓練でもある、
ぜひ人から距離を取らないで欲しい。
と思うのです。