
文化が継承されるか、自然淘汰されるかは市場が決めること。でもだから、自然消滅する前に価値を顕在化させる。
今回は、モノの取り扱いとモノづくり、情報(体験)の取り扱いを行なっている、地域文化商社うなぎの寝床 代表 白水高広氏に、地域文化とは何か、どうビジネス化して価値を編集していくのかについて、お話を伺った。
うなぎの寝床の方では、地域文化を顕在化し、既にある工芸品をりブランディングしたり、リメイクしたりして、土地性を紐解き、流通を担い、交流を生み、風景をつなぐ地域文化商社である。詳細は下記より。
UNAラボラトリーズは、九州の文化を深く探究し、訪れる人と共に九州の更なる魅力を生み出すトラベル・デザイン・ファームである。詳細は下記。
1)地域文化とは何か?
ある一定地域における土地と人、人と人が関わり合い生まれる現象の総体。
よって地域文化というのは、ある一定の地域における文化と言えるそうだ。白水さん曰く、文明から取り残された地域資源と文化はどんどん消滅していくという。他方、地域の方々や産業、物と出会った時に「面白い!」と思えるものや「素晴らしい!」と感じることはたくさんある。しかし、その情報や体感は潜在化しており、誰にも知られないまま「いいのにねぇ。」で終わってしまっていることが多くある現状。うなぎの寝床は、その潜在化した地域文化を、広く知ってもらうために顕在化させることが大きな仕事だと考えているという。
2)うなぎの寝床の理念と取り組み
「もの」と「ひと」を介した本質的な地域文化の継承と収束
その在り方を思考し、行動し続ける生態系をつくる
うなぎの寝床は、生態系をつくることを理念およびミッションとしている。そのため、無理に文化継承したり、残そうとはしない。時には、収束と、辞めることもあるという。むしろどう収束させていくかを一緒に議論しながら作っていけたら良いと思っている、と白水さんは語る。非常に、納得した。
個人的に、ダーウィンの進化論という摂理の説明はわかりやすいなと考えているが、その理にかなっていると思った。私は日本文化が好きだが、地域のどれもの文化を継承していくのは色々な事由から難しいこともある。それを体現されている貴重な方だと思った。
▶︎うなぎの寝床の取り組み
ただ商品を作るだけでなく、地域の職人を撮ったり、インタビューして、それらを記事化したり、アーカイブしている。
では、具体的にどのように地域文化商社としての機能を果たされているのだろうか。まず、地域を定めるよう。その後は、下記5つのアプローチをとっているそうだ。
地域文化商社としての5つの実行項目
1)地域文化の探求・研究
2)地域文化の経済循環
3)地域文化支援顧客の創造
4)地域文化のアーカイブ
5)地域文化間の交易の促進
このような発想で、地域文化を紐解き循環させているようだ。そうして関係した地域は188、取り扱い商品は4000点にもおよぶ。
ただモノづくりをしたのではなく、仕入れの基準として、経済が回るかどうかを重視しているそうだ。これは、文化の担い手にかけがちな視点ではないかと個人的に感じる。白水さんも、商社は、経済意識は高いが、文化意識が低かったり、美術館は、文化意識は高いが、経済意識が低かったりすると仰る。上記の公式サイトに掲載されているが、「ものを選ぶ3つの選定基準」について引用する。
3)うなぎの寝床をなぜオープンしたのか?
まず、白水さんは学部卒業後、厚生労働省の公募事業であった、九州ちくご元気計画に参加した。
その際に、「なぜ東京や福岡で買えて、地域に買う場所がないんだ!?」という疑問を抱き、作り手と使い手をつなぐ、アンテナショップとして機能させるべく、うなぎの寝床をオープンした。
最初は何もないところからのスタート、古民家を自分自身の手で改装し、棚や暖簾も全て手作りで用意した。初期資金は、218万円だったとか。しかし今では、売上は3億円弱もあるそう。
その後は、情報発信ツールなどを駆使しながら、PRしていったそうだ。
また、お店を3つ開き、役割と位置付けを変えていると言う。なお、上で話した"アンテナショップ" という言い方は辞めようとしているそうだ。
1つ目の店「NATIVESCAPE STORE』は、作り手が作っている生のものを紹介する。
作り手が作ったものをそのまま使い、比較をする。例えば、値段では500円〜5,000円まであったり、地域文化を起点に、色々なものを混ぜている。下記のように、作り手の作品を400字で紹介し、手にとってもらったり、背景を伝えやすくしている。
作り手の作品を400字で紹介している様子
4)地域文化と生活を融合させる「衣・食・住」
地域文化というものは、消費者からするとわかりにくいので、「衣・食・住」で分けることで、理解してもらいやすい工夫をしているそうだ。こうして、地域文化と生活を融合させている。
2つ目の店『UNA PRODUCTS』は、自身でセレクトし、商品化している。
3つ目の店『OHAKO』というギャラリーでは、地域の特性等を汲みして、生活文化ではないけれど、地域文化から新たなものを見出して、形にしている人を紹介している。
▶︎日本のジーンズを目指して
そうしてまず初めに生み出したのが「MONPE」。モンペとは、火垂るの墓の時代から続くもの。純粋に使いやすかったので、それを現代版にリメイクしたそうだ。ここにも意味はある。地域生産者ができないことを請け負うメーカーとして、また全国のテキスタイル産地のフォーマットとして。
これの発端は、もんぺ型紙が最初だそう。フェーズ分けして、商品化していったそうだ。商品化してからは爆発的に売れたそうだ。TVにもとりあげられ、ちょっと履き方どうだろう・・・と思いつつも訂正はしないとのこと。笑
▶︎なぜもんぺが受け入れられたのか?
それは、機能的要素・文化的要素・視覚的要素の3拍子が揃っているからだと言う。機能的要素があると、一般消費者のリピート・口コミにつながり、文化的要素があると、新聞・テレビなどメディアに効果的、視覚的要素があると、一般にもメディアにも効果的、とのことだ。
1)人によって、重視しているタグが違う
2)どれかのタグに主観的に接触するようにしくむ
3)結果継続性は、機能的タグに集約する
4)なぜなら、服は生活用品だから
※タグとは、機能的・ファッション的・無意識的信用・意識的信用・歴史背景・用途汎用性・言語付加価値・製造背景的付加価値・ノリ/雰囲気的がある。
5)ツーリズムまで始めた理由
▶︎UNA ラボラトリーズをつくった訳
ものを通してでは、なかなか人の意識は変わらない。体験をすることで、人の意識や行動が変わる。すると、自分ごとにしてもらえるだろう、ということでツーリズムを実践しはじめたのがきっかけだそうだ。なお、サービスに変えて、換金していかないと成り立たないということも、サービス開発をするきっかけだったよう。
6)今着手中の取り組み3つ
1:九州の地域文化をより深く知ることができるメディア
2:九州の文化ツーリズムのプラットフォーム
3:物も文化も含めて体感できる宿泊拠点
それらを、知的好奇心が高い文化層をターゲットに、インスピレーションツーリズム「地域文化×体感×発想」として創り上げていくそうだ。
本当に首尾一貫して面白い取り組みと、思いと文化と仕組みが詰まった取り組みをされている。お話を何度も伺っているので、今度は体験をしにいきたい。
情報元:
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第10回 白水高広氏 2020/07/20