アフターデジタル時代のTECH×REALの融合と、忘れたくない何のために?という意味
今回は、株式会社beBIT 東アジア営業責任者の藤井保文氏にお話を伺った。ビービットは、アフターデジタル社会に対応するためのUX志向のDX支援パートナーとしてコンサルティング及びUXのチーム定着支援を行っている。
1)サービスデザインをする際に読みたい著書
藤井氏は、『アフターデジタル』『AFTER DEGITAL VER2』の著書として話題を集めているサービスデザイナー。藤井氏は、自らの中国駐在経験から今の日本に必要な論点を提示し、もともとUXの考えなどがあまりピンときていなかったビジネス層に「徹底したユーザー視点=デザインを重視すべき」という認識を広めた。以下に参考著書を引用する。サービスデザインをする際にぜひ読みたい2冊。
藤井氏は、2011年にビービットにコンサルタントとして入社し、金融、教育、ECなど様々な企業のデジタルUX改善を支援されてきた。2014年から台北支社に勤務、2017年から上海支社に勤務し、現在は現地の日系クライアントに対し、モノ指向企業からエクスペリエンス指向企業への変革を支援する「エクスペリエンス・デザイン・コンサルティング」を行なっている。2018年下記の書籍を監修・出版。2020年、『AFTER DEGITAL VER2』をコロナ禍に書き上げる。
2)アフターデジタル概論
ビービットは、アフターデジタル社会に対応するためのUX志向DX支援のパートナーとして、UXデザインコンサルティングとUXチームの定着支援を行なっている。なぜ飛躍的に活躍されているのか、それは時代が移り変わってきたからである。時代がどう変わっていっているかについて紹介していく。
▶︎デジタル浸透社会の到来
例えば、日常のこのようなサービスがデジタル化していっている。
・日用品の買い物
・飲食店の注文・決済
・フードデリバリー
・シェア自転車
・タクシー
・信用のスコアリング
▶︎捉えるべきはアフターデジタルの世界観
日本企業は「リアルにくっついたデジタル」として活用しがちだが、オフラインが存在しなくなると、デジタル側に住んでいるような状況になる。デジタルがむしろ起点であり、「リアル接点というレアで貴重な場」をどう活用するかと言う考え方に移行していく。
出典:『UXインテリジェンス アフターデジタル時代のデータ活用スタンダード』
オフラインのリアル(黄色)がなくなり、右側になっていく。とはいえ、リアルが得意なこと(信頼構築・感動体験・一人一人にカスタマイズ)とデジタルが得意なこと(複製可能・便利・速い)は異なるので、感動体験ができるリアルは今までよりも強い価値を持つようになる。例えば、Netflixを見ていると、たまには映画館に行きたくなってくるはず。
3)行動データの時代、体験全体での価値提供へ
顧客×行動データの取得・活用によって、最適なターゲットだけでなく最適なタイミング×コンテンツ×コミュニケーションの提供が可能になり、企業競争の焦点が「製品」から「体験」へ移行した。
企業競争の焦点「製品」から「体験」へ
TOYOTAがプラットフォーマーになろうとしているのもそのためだ。
音楽がCDやライブ等のリアル商品を購入するだけだったことから、気分に合わせた音楽提供をしたり、関心あるプレイリストを再生したりと、体験に重きが置かれるようになっている。
▶︎OMOとは?
「OMO」とは、Online Meages with Offlineの略で、アフターデジタル社会の成功企業が共通で持っている思考法。オンラインとオフラインを分けるのでなく、一体として捉えこれをオンラインにおける戦い方や競争原理から考えるというもの。
▶︎アフターデジタル型産業構造とは?
アフターデジタル型産業構造は、下記の3タイプに分けられることができる。この構造の中でどのプレイヤーになっていくのか、という思考が重要と言う。単にどこに変化する、というのではなく、様々なパターンが挙げられるが、どうしても行動データ取得合戦になりがちだ。
決済プラットフォーマー
決済を軸に顧客の状況を詳細に精緻に理解
サービサー
圧倒的なUXで業界に君臨する
製品販売
メーカーをはじめとする従来型ビジネス
4)アフターデジタル時代のアーキテクチャー設計
藤井氏は、UXの時代が到来していると言い、デジタル融合時代において、テクノロジーとリアル(UX)は、社会アーキテクチャを作る最強能力とされるが、同時に責任と努力が必要であると語る。
▶︎アーキテクチャとは?
クリエイティブコモンズを作ったローレンス・レッシグによる「行動変容をもたらす4つの力」でいう、アーキテクチャに注目すると、UXとは元々ウェブ上の体験設計力に過ぎなかったが、OMOになると「社会における行動モデルの提案」まで可能になり、社会アーキテクチャの一旦を担える。
法 ・ 市場 ・ 規範 ・ アーキテクチャ
▶︎アーキテクチャのDe-Centralization
デジタルとリアルが融合する社会では、テクノロジーとリアル(UX)の力を最大限使うことで企業体が自社ミッションを伴ったアーキテクチャ設計を実現することが可能になる。中国では国主導でないにも関わらず、DX化がかなり進んでいる現状がある。これは起業家の精神性によるものだという。
例えば、中国が実施しているスコアリングとアリババが実施しているスコアリングがある。国の方はユーザーに公表されず、違反した際などの取り締まりに使われる。アリババの方は、犯罪歴などを残せないし、取り締まりなどは行わないが、ユーザーの購入など利用における行動をログすることで、この人は支払いをきっちりするor何度も返品する、などその人のことがわかる。つまり、いい行動をしていると信用スコアとして貯まり、享受できるサービスの質も向上される。その結果、中国の民度が上がったと言われるように、ユーザーの行動も向上していくことがある。
こうしたサービス開発者の思想と実際のサービスが、きちんと普及されると、国主導でないにも関わらず、むしろ国主導でないから、なのか、民度が向上するなどの例も見受けられる。
▶︎同時に存在するリスク① ナッジ/生産力の悪用
他方で、リスクもあるという。従来から生権力と言われるような「構成員をより良く生かすような管理・統治の仕方」や、体験設計上のテクニックともいえる「ナッジ」など、自由を奪ったり誘導したりする能力を発動することも可能とのことだ。
▶︎同時に存在するリスク② データに対する勘違い
デジタルリテラシーの低い日本では、データやAIに謎の恐怖を感じながら、「持っているデータが財産」と勘違いして共有や売買をしようとしたり、XaaSへの潮流を理解せずに、デジタルで「販売のマッチング最適化」や「プロモーション効率化」ばかりを指向する傾向にある。これは企業のデータ利用を制限し、テクノロジーを使った社会発展を止める方向に動かざるを得ないという。
サービス開発者は、どのような顧客体験を届け、その行動が広がった世界を具現化していきたいかを倫理観や哲学的な思慮も踏まえた上で、実現していく必要がある。
「人が、その時々で、自分らしいUXを選べる時代へ」
5)日本が目指しうるアフターデジタルの方向性
中国では「負からの解放」を軸にプラットフォーマーを作れたが、多様化してマスがなくなり、人口も多くない日本においてこの実現難易度は高い。一方で、意味合いを含み、生き方が自己実現を助けるような「Libertyを獲得する方向」を促進することは、日本らしいデジタル社会発展と言えるのではないか、と仰る。
自由の意味を考えてみると、この2レイヤーが現れる。
Liberty to = 自らを由縁とする生き方 ▶︎ 意味レイヤー
Free from = 負や不から解放される ▶︎ 便利レイヤー
最後に、藤井氏は、面倒くさいけどやること、やるからには意味がある。そのことを理解することが重要だし、未来を創造する面白さがあるのではないか?と言う。アーティストやデザイナーなどのクリエイターが、「free」の方の概念や行動も理解しながら、「liberty」に通じるコンセプトを描くようになるし、依頼される。彼らしか描けなかったりするから、と。
私は、DXと相反する側のリアル側の方面、自然のテクノロジーについて研究し、サービス化を試みている。そのことも、どちらの自由の路線に当てはまるのか、どういった意味をもたらすものなのか、時代に合うか、といった点に着目しながら検討を進めていきたいと思った。
情報元:
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第13回 藤井保文氏 2020/08/10