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野田秀樹にハマった

野田秀樹作品に最初に触れたのは2022年。杉原邦生演出の『パンドラの鐘』、その年のNODA・MAP『Q: A Night at the Kabuki』を鑑賞。

『Q』観劇の翌週に『解散後全劇作』以降の単行本化された戯曲集を全作衝動買い。
WOWOWにも加入し『フェイクスピア』『THE BEE』試聴。

何かのコンテンツにこれほどしっかりハマったのは久しぶりです。劇場に行ったり戯曲を読んだり公演映像を観たりする喜びと、まだ享受していないものがあることへの焦りにも似た不安と享受への衝動。過去作の映像や戯曲が絶版等で容易には入手できないことへのもどかしさ。入手し、手元に置いた時の安心感。もっと早く知っておけばよかったという後悔と、自分に必要な時に出会ったのだという正当化の往来。それらすべてが、ひとことで言ってしまえば楽しいのです。

言葉遊びを豊富に用いながら散りばめられた伏線に、多様なモチーフが複雑に絡み合って時空も虚実も飛び越えていく。言葉の茂みを掻き分けるように観ていても今ひとつ捉えきれなかった本筋が後半になるにつれ明らかになっていき、主題の重みがダイレクトにのしかかってくる。
そんな戯曲を練り上げられた俳優の声と肉体、息もつかせぬ演出展開で見せられます。

正直、戯曲を読み返してもほどき切れない比喩も多く、完全に理解したというには程遠いのは確かですが、”理解した”と言えた段階でその作品は自分にとって終わってしまう気もする。完全な理解を追い求めて悩みすぎるよりも、いい感じのところで消化を止めて、あるいは緩やかにしてゆっくり味わっていく、ということをしがちです。
すべて一貫しているわけではない、というのは野田さん本人や演者からも語られていることで、その矛盾すら面白さなんだろうと思います。
また、深い意味を咀嚼しようとしなくても台詞のリズムや音韻、視覚的な動きや演出でも楽しめるところも野田演劇の好きなところです。


野田さんが東大在学中に結成した夢の遊眠社時代の戯曲もいくつか買いつつ、NODA・MAP作品で単行本化された分の戯曲は全て読了して臨んだ新作『兎、波を走る』の当日、7月29日。
生きてきた甲斐がありましたね…。重いテーマに正面から向き合いつつ、新たな試みも感じさせる劇に感動しきりでした。
櫻坂46のライブに持っていく10倍の双眼鏡を持って行って良かったです。周りの席の方はこぢんまりしたオペラグラスを持つ中、バードウォッチングでもできそうな双眼鏡を持っているのは少々恥ずかしかったですが、演者の汗も涙もしっかり観ることができました。
精緻な劇評は他の方にお任せしますが、今作に限らず野田さんは”フェイクとリアル”という部分にとてつもなく向き合っておられる方なんだろうと思います。


戯曲が掲載された雑誌も購入したので何度か読み返しましたが、公演から1ヶ月近く経った今もやはり難しい。1回の公演きりでもうチケットはないためWOWOWで放送されることを祈りつつ、消化しきれない部分をゆっくり味わう段階に移ろうと思います。

やはり野田作品でしか味わえないものがあることを感じた今回の観劇体験。新作に行ける日を、積読となっている過去戯曲を読みながら心待ちにしています。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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