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「読みたい」の地層-2020.03-2

「この本が、自分に未知の何かを教えてくれる」「特別な感情を湧き上がらせてくれる」「ここではないどこかへ連れて行ってくれる」「もしかしたら自分を変えてくれる」「あるいは成長させてくれる」そういったポジティブな予感の集積によって、本は積み上がっていくのだ。自分は元々ネガティブな人間ではあるのだけど、世界に対して肯定的でなければその衝動は起こり得ない。だからこそ大事にしたいと思うのだ。」(施川ユウキ『バーナード嬢曰く。②』、p.44)


「読みたい」という気持ちは、積み重なっていつの間にか層になる。その層は、それこそ地層のように、いつか振り返ったとき、その時の自分を知る手がかりになるかもしれない。

今ご覧いただいているのは、読みたいと思った本と、そのときの気持ちを記録する極私的ジャーナルです。


先日、数年ぶりにジュンク堂池袋本店に行った。池袋での用事の前に1時間ほど時間をとって、店内を回ろうと考えていたのだが、浅はかだった。1時間じゃぜんぜん足りない。

COVID-19の影響で街中は人が少ないのではと思っていたのだが、池袋は人がたくさん。ジュンク堂もレジは行列していた。レジの行列に並ぶ時間も惜しかったので、結局何も買わずに出てきてしまった。ばっちり、「読みたい」という気持ちだけ、積み重ねてきた。


向田邦子ベスト・エッセイ(ちくま文庫)

2年ほど前に『新装版 眠る盃』(講談社文庫)で初めて向田邦子を読んで、その軽やかかつユーモアに満ちたエッセイがすっかり気に入ってしまった。『父の詫び状』(文春文庫)などまだ手を出せていないエッセイ集も多いので、オールスター級のエッセイを集めたものなら、ぜひ読みたい。大好きな「水羊羹」(『新装版 眠る盃』に収録)のような、その場面がありありと、生き生きと描かれ、何かせずにはいられなくなるような(この場合は今すぐに水羊羹を買いに行きたくなる)、そんなエッセイを読みたい。

なお、私は「ベスト・エッセイ」と銘打たれると弱いらしく、日本文藝家協会が毎年出す『ベスト・エッセイ』は毎度買ってしまう(私は気に入る作者とそうでない作者がはっきり分かれるので、どうせ全部読み通せないのに・・・)。


源氏物語(下)(角田光代訳、河出書房新社)

池澤夏樹個人編集、日本文学全集のうちの一冊。上巻を読んで、じっくり中巻、下巻と読んでいこう・・・と思っていたのに中巻を読む前に下巻が出てしまった(別にいいのだが)。こういう新訳もので評価が分かれるのはよくあることだけれど、 上巻を読む限り、さすがの読みやすさで、源氏「物語」として楽しむための一冊としては高く評価できるのでは、と思った記憶。

せっかく下巻まで出てしまったので、もう一回上巻から一気に読みたい、と思った(あの分厚い3巻を並べるスペースが、本棚にあるかどうか)。古典の世界に全身浸かって、時間を使うという経験を久しぶりにさせてくれるんじゃないかと、そういう期待を持たせてくれる。


まったくゼロからの論理学(野矢茂樹著、岩波書店)

大学院生時代、まともに文章の一つも書けなかった私が、なんとか修士論文を(それなりに意味が通る文章で)書き上げることができたのは、野矢先生の『新版 論理トレーニング』『論理トレーニング101題』(いずれも産業図書)の二冊に出会ったからだと思っている。

その野矢先生の新刊が出ていた(知ったのは「毎日新刊案内」をTwitterで呟いている編集者・飯田光平さんのツイート)。パラパラと読んでみると、タイトルの通り論理学を基礎の基礎から解説したもので、読者は練習問題に取り組みながら理解を深めていく、という内容のようだ。解説と練習問題のバランスは『大人のための国語ゼミ』(山川出版社)っぽいなと思ったけど、日常的に使われることばを取り上げ、そこから論理学を作っていく、というスタイルは『入門!論理学』(中公新書)に近いと感じる。

こういう本は鉛筆とノートを用意して、しっかり腰を据えて取り組みたいので、時間があるときに購入して・・・(とか思っていると、また買えずに読めずに終わるんだ)。



専門知は、もういらないのか(トム・ニコルズ 著、高里ひろ訳、みすず書房)

我々は現在、さまざまな知にアクセスできるようになった。専門家の知識にも見解にも、過去とは比べ物にならないほど容易に触れることができる。それなのに、今回のCOVIDー19の流行においてもそうだが、我々市民は専門知を軽視してしまうことが多いように感じる。いや、軽視するというよりは、うまく使いこなせず、はては自ら手放してしまう(ように見える)という方が正確だろうか。そうなってしまうのはなぜか、どうしたらいいのか、と考えていたところの本書。

みすず感あふれているのが、またいい(しろっぽくて、分厚い)。

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夢も見ずに眠った(絲山秋子、河出書房新社)

橋本亮二さんが著書『うもれる日々』(十七時退勤社)の中で絶賛していてすごく気になっていた本書。文芸書の階で見つけて、「見つけてしまった!」というか(本に)「見つかってしまった!」と感じたので、これだけは買って帰ろうかと迷った(結果、レジに並んで約束に間に合わなくなるといけないのであきらめた)。


小説すばる 3月号(集英社)

表紙のイラストが、ヨシタケシンスケさんなので、欲しくなりました(ファンです)。



今回はわりとジャンルも、内容も(読んでないけど)バラバラ。大きな書店に行くと、一気に読みたい気持ちが積み上がる。目下の課題は、その積み上がった気持ちをきれいにならして、耕す(読む)ことだろうと、思ってはいるのだけれど。


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