「読みたい」の地層-2020.03-3
「この本が、自分に未知の何かを教えてくれる」「特別な感情を湧き上がらせてくれる」「ここではないどこかへ連れて行ってくれる」「もしかしたら自分を変えてくれる」「あるいは成長させてくれる」そういったポジティブな予感の集積によって、本は積み上がっていくのだ。自分は元々ネガティブな人間ではあるのだけど、世界に対して肯定的でなければその衝動は起こり得ない。だからこそ大事にしたいと思うのだ。」(施川ユウキ『バーナード嬢曰く。②』、p.44)
「読みたい」という感情は、積み重なって層になる。その層は、いつか振り返ったとき、その時の自分を知る手がかりになるかもしれない。
これは、ある本を読みたいと思ったときの感情を記録しようとする極私的ジャーナルです。
『韓国 現地からの報告 ─セウォル号事件から文在寅政権まで』(伊東順子著、ちくま新書)
3月某日。家にいる機会が多いからか、それゆえ人の動きを感じる機会が少ないからか、最近iPhoneでFacebookアプリを立ち上げることが多くなった。時間を浪費してしまうのでなるべく無目的に見ないようにしているFacebookだが、高松にあ「本屋 ルヌガンガ」さんのポストが流れてきた。
セウォル号事件、シャーマンに取り込まれる朴槿恵、Me Too、疑惑のタマネギ、徴用工問題… ここ数年、韓国の動きは日本でも高い関心が寄せられてきたけど、その取り上げ方はワイドショー的だったり、感情的だったりで、しばしば「韓国ってこういう国だよね」というステレオタイプに押し込めてきたのも確か。
韓国語の学習をしているのは、最近日本での紹介数も増えてきた韓国文学を原文で読みたいとか、飛行機数時間で行ける韓国になら、旅行で行きたいとかそういう理由があるのだけれど、そもそも、学んでいる韓国語が話されている韓国ってどんな国だっけ、ということはよく分からないままだった。いや、ニュースやワイドショーなどで様々な情報が入ってくるが故に、なんとなくわかった気がしていただけかもしれない。
近年の韓国文学にはセウォル号事故の影響(ポスト・セウォル号の文学、などというらしい)が強いと聞くし、アカデミー賞作品賞をとった映画『パラサイト』も、韓国における「半地下」というものの持つ意味がわからなければ、この映画のポイントのひとつを味わう機会を逸してしまうだろう。
ワイドショー的な断片的な知識を洗い流し、隣国をちゃんと知るための一歩として、韓国語学習のモチベーションを燃やし続ける手段として、本書が気になる。
こういう思いがけずにおもしろそうな本とであうことがあるから、FacebookもTwitterも見てしまう、というのは無目的SNS閲覧の言い訳です。
なお、この後YouTubeとTwitter、Facebookに閲覧時間制限をかけた。
チェルノブイリの祈り(スベトラーナ・アレクシエービッチ著、松本妙子訳、岩波現代文庫)
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、外出自粛要請が出ている中、さまざまな人が自宅で楽しめるコンテンツの紹介をしてくれている。おもしろそうだなと思いPrime Video(のスターチャンネル)で見始めたのが、アメリカの放送局・HBO制作のテレビドラマ『チェルノブイリ』だ。1986年に起きたチェルノブイリ原子力発電所事故発生時の様子から、事態をなんとか収束させようとした現場の人たちの努力、事故の原因を明らかにしようとする科学者と隠蔽しようとする政府の闘いなどが緊迫感とともに描かれている。チェルノブイリ原子力発電所事故のドキュメンタリー的な側面や、事故原因を追求するサスペンスドラマとしての要素もあり、エンターテインメントとして優れていると思う。
チェルノブイリの事故について表面的なことしか知らないなあ、と思った。事故がどれだけ悲惨だったのか、という知識だけでいえば、このドラマや、それこそWikipediaを読むだけでもなんとなくわかる。ただ、この事故に直面した人たちが何を思い、その後どう暮らしているのか、そういうことは何を見るのが読むのがいいんだろうか、と考えたときに『チェルノブイリの祈り』が頭に浮かんだ。2015年にノーベル文学賞を受賞したアレクシェービッチの本作は知っていたけれども、今まで興味を持ったことがなかった。これを機に、読んでみるもいいかもしれない、外出自粛だし。
あ、でもアレクシェービッチの本、一冊くらい持っていた気がする、『戦争は女の顔をしていない』だったかなと思って本棚を探すと、あった。『チェルノブイリの祈り』が。「今まで興味を持ったことがなかった」という認識は、数分後に否定された。
外出自粛といえども、そもそも私はインドアな人間なので、外出自粛が要請されようとも元々自宅で過ごす時間が長く、結局土日の使える時間が長くなったわけではないので、ドラマを見て本を読んで・・・とやっているとあっという間に月曜日なのだが。