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ワルイコあつまれ

 NHKの「ワルイコあつまれ」が面白い。
 元SMAPの三人がやっている、NHK版SMAP×SMAPみたいな番組だ。少しとぼけていて、シュールな笑いがあって、でも本家より真面目。

 子ども記者会見というコーナーが特に好きだ。その道の一流の人を呼んで、ワルイコ記者が遠慮ない質問をするコーナーで、過去に東大卒という異色のeスポーツプレーヤーや、ルフィやクリリンを演じた声優などが出演しているが、今回は松岡修造だった。彼流のウザ熱いパフォーマンスが散りばめられていたが、指導者として、またスポーツをする人を応援する人としての言葉は真に迫るものがあって、不覚にも泣いてしまった。

 君たち、たとえばお母さんに姿勢よくしなさいとか、よく言われるでしょう。それも、二回も三回も言われるでしょう。

 記者たちが首を動かすと、修造氏はこういう。そういう人はめっけもんなんだよ。その人は、あなたに対して真剣な人だから。

 反射的に、真剣であることが必ずしもいいことであるとは限らないとは思ったけれど、確かに的を射ている。特に大人になると、普通の人には一回しか言わないし、そもそも、他人にそれおかしいよなんて言わなくなる。前に話したことを忘れて、同じ話を何度もする、なんていうことは増えるけれど。

 世間一般では、今の松岡修造は「松岡修造(笑)」という扱いなのだと思うけれど、そして彼自身が、そういうお笑いテイストを演出しているのだと思うけれど、本当は全然そういう人じゃないのだなということはよくわかって、松岡修造への感情をどう取り扱っていいかわからなくなっている。



 本家SMAP×SMAPを毎週楽しみに観ていた時期があった。特に母はご執心で、ビストロSMAPのコーナーも、コントのコーナーもどれも食い入るように観ていた。
 しかし、彼女の好みはコロコロと移り変わった。最初はたしか王道のキムタクだった気がする。彼は番組内でも不動のポジションを与えられていたし、少なくともシナリオ上は、なんでもうまくこなせたから、心を奪われるのも当然だろう。
 しかし、そのうちに母はキムタクはもう嫌だと言い出した。俺様気質が鼻につくとか、鼻が妙に大きくて実は格好悪いだとか色々理由を付けて、今でいう推し変をしたのだ。次は吾郎ちゃんだったかな。吾郎ちゃんが回転扉の中からいきなり出てくるシュールなコントが母のお気に入りだった。
 しかし、吾郎ちゃんもまた、母のお眼鏡にはかなわなくなった。陰気だとか、よく見ると顔が気持ち悪いとか色々言っていたが、私はそれは本当の理由でないともうわかっていた。

 お察しの通り、次は慎吾くん、中居くんと母の好みは移り変わった。そして最後にはSMAP全員のことが嫌いになり、母はSMAP×SMAPを観なくなった。まだ楽しんで観ている私と妹の方を、まだそんなの観てるのという目で見る時もあった。しまいには森くんがSMAPに居てくれたら良かったのに、と独りごちていた。早くにSMAPから抜けて、おそらくSMAP×SMAPに出演したことすらない森くんが、どんな人物なのか、母は知らないはずなのに。

 そしてそれは、DASH村、ことTOKIOでも再現されるのであった。SMAPほどの執心ぶりではないにせよ。

 今はそういう母のことを面白かったなと思い出すことが出来るが、当時はそういう母が怖かった。好きだったものを、カードをひっくり返すように大嫌いになれることが。好きの移り変わりが早く、嫌いになったらもとに戻らないことが。そうやって母の世界が嫌いばかりになったら、母はどうやって生きていくんだろうと、少女の生真面目さで母のことを心配した。
 しかし、母は自分で嫌いになることを決めたのだということに思い当たった。その世界の作り方が怖かったし、自分もそうやって世界を作る素質があるのではないかということも怖かった。
 もうそれらを怖がることはなくなったけれど。

 私は、キムタクも草彅くんも吾郎ちゃんも慎吾くんも中居くんもまあまあ好きだよ、多分。noteのスキも、既読代わりに気軽につけるし。

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