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あつ森からわかる世界の姿について

 先日、あつまれどうぶつの森というゲームに再びハマっているという話をした。このゲームを知らない人にもわかるようにざっと紹介すると、無人島に移住して、その島を自分好みに開発するゲームで、通信を使えば、このゲームをしている友人の島に出掛けたり来てもらったりすることができるし、インターネットを介せば、知らないゲーマーの島に行ったり来てもらったりも出来る。
 私は通信でしか手に入らない品(しかも、かなり初歩的なアイテム)が欲しくて、七日間(ニンテンドーオンラインの無料体験が七日間なのだ)の期間限定でTwitterアカウントを作り、Twitterで「#島開放」「#あつ森フルーツ交換」などといったハッシュタグがついたツイートを探し、必要な手続きを経て、いくつかの島にお邪魔した。

 私の島は、子供にほぼ開発を任せているせいで、そして子供には特にタブレットなどを与えていない=攻略法を知らないせいで、無人島に毛が生えた程度の開発しか行われていない。しかしTwitterで島を開放している人たちは、追加の別ソフトもやり込んで、島を思い思いに構築した人達ばかりだった。たとえば島全体をヨーロピアンに整えたり、煉瓦の道に好きなゲームキャラのドット絵を(おそらくひとマスひとマス、画面上で作業して)ずらっと並べたり、竹や城壁、鳥居など和風で統一したり……。川の灌漑工事すらまだ出来ておらず、アネモネが雑草のように大地を覆う我が島とは雲泥の差である。ここまで加工するのに、どれだけ時間と労力をどぶに捨てたをかけたのだろう。でも、私が通信で感心したのは、それとは別のことだった。

 人の島にお邪魔するのには定型化されたルールがある。たとえば、その島にある品物について、無償であげると言われているもの以外は取ってはいけないとか、海産資源の乱獲目的ではないという表明のため、水着での来訪はしないとか。不用品をくれる代わりに何かお土産(ゲーム上のアイテム)を欲しいと言うユーザーもいれば、お土産は(悪意あるユーザーに魔転用されるらしいので)置いていかないでと言う人もいるので、その島でのマナーをしっかり頭に入れなければならない。
 それらのルールはジャーゴンになっていたので、いちいちネットでその言葉の意味を確かめてから島に向かったのだけれど、最初の数回はおそらく挙動が怪しかったんじゃないかと思う。なにせ、全員ではないのかもしれないが、「これをしていい」と言われたこと以外は、ただ島内を散策するだけでも嫌われるという言外のルールさえあったのだ。自分は怪しくないと主張するために挨拶したいのに、通信をやってこなかったからチャットもうまく出来ないし、間違えて怒った表情をアバターにさせてしまう。リアルだけではなく、ゲーム上でも挙動不審でコミュ障の近寄りがたいヤツになってしまっている……とおそれおののいた。

 Twitter上で島を開放してくれている奇特な人達は、それだけ提供するものや島そのものに価値があり、自信を持っている人達だ。しかも、しょっちゅう開放しているので人気が高い。最初は、マナーの悪い人がいるかもしれないのに、なぜ開放するのだろうと疑問に思っていたが、おそらく沢山の客が来てくれると、ゲーム内マイルが貯まるからなのだと思う。そういう人達の島に行くと、開放時間中はしょっちゅう他の客が登場する。他の客が来ると、「誰かが遊びに来たようです」といった画面表示に変わり、その度にセーブなどするので数分動けない。他の客は、アイテム収集のライバルでもあるし、お土産を島の持ち主に差し出さなければならない場合は、お土産渡しの行列ができることもあるしで、色々邪魔である。ちなみに島の往来で彼らと出会っても、会話もせず行き過ぎるだけである。
 日本の、あるいは世界のどこにいるか分からないこのアバターを持つ人は、ゲーム上では同じ場所にいるはずなのに、おそらくゲーム上の視点も違う。我々は何か膜のようなものに覆われていて、見るもの、感じたものを共有することは絶対にできない。その人とゲーム上のキャラがどんな会話をしているのかも、分からないことになっているのだから。そんな中、また誰かが遊びに来て、手が止まる。来訪と帰還だけは強制的に時間を共有させられ、しかし去った人、来た人の為人はまるでわからず仕舞いである。その感じが、この島の上だけでも、パラレルワールドが複数あるように思えて、空恐ろしいような気持ちになった。

 しかし、それは現実の生活でもそうなのだ。私達は、身体性があることで、家族や友人、恋人などと何かを共有できている気になっているけれど、Nintendo Switchという、絶対に出られない境界の中からモニター越しにやり取りしているのと同じで、肉体とこれまでの学習と経験という出られない檻を介した、頼りない交流しかしていないし、我々は全員、自分の心だか脳だかに、自分だけの世界を持っていて、それはお互い不可侵である。相手の世界は私の世界のパラレルワールドであり、相手の世界に入り込んで、相手の感じ方を本当に知ることなど出来ないのだ、なんてことを思ったのである。

 っていうか、パラレルワールドの使い方、これで合ってますかね?


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紅茶と蜂蜜
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