「男子幽霊祭」感想

ある程度まで見た上での感想。

  • PetiteVignette

記憶を失ったイルとニルヴァの三人での逃避行。ユーザはイルを助けた恩があり、奇妙な災厄から逃げていく物語、ではなかった。時間経過イベントでメニューに急転直下な展開が出現する。彼らに情が湧いたところで一気に主観を塗り替えに来るので、初見時は驚くこと間違いないイベント。ユーザを揺さぶりにいくという点が非常にうまい。インタフェースである専用バルーン名がこれというのも納得。

  • PickAxe

実際にあるリアル(2020年の総データ容量が59ゼタバイト)と、それらを一括管理するストレージでデータ圧縮した結果奇妙なプログラムが生成されるというフィクションを交えていて、まさにSFと言った感じの世界観がよい。異質なプログラムがAR越しに結晶化されて見えるという点も面白い。

このゴーストでの特筆すべき事項は、イベント進行の丁寧さと、チュートリアルの充実にある。出会いからゲーム要素の解説までが行われる初回起動では区切りごとに中断が出来るようになっているし、ゲーム要素であるマインスイーパに関してもゴーストではそうそう見ない丁寧な説明が過不足なく行われる。
また、UIも非常に丁寧で、ストレスなく遷移できるメニュー画面、バルーンにスクロールを出さないよう配慮された文章量など、かつてはあまり重要視されていなかった要素をこれでもかというほど綺麗に作り込んでいる。

  • Pseudo

キャラクターと触れ合うデスクトップマスコットとしての部分に、探索ゲームと農作物シミュレーションが組み合わさっており、インタフェース面でもゲーム要素としてもボリュームがある。出会って須藤と名乗った彼はあからさまに何かを隠しているし、そしていくら降りても底につかない井戸という不気味さが一体何があるのかと期待と不安を高めてくれる。

システム面について、探索部では、井戸のサーフェス部分を利用してアイテムがランダムに配置されクリックして取得するという組み合わせも、底知れない井戸を降りながらの探索であることを示す揺れる足のアニメーションもゴーストという媒体を最大限に生かしていて良い。
シミュレーション部ではミニマップ表示となり、操作が直感的にわかりやすくなっている。どうしてもバルーンに選択肢をずらずらと並べがちであるが、そういった選択肢をバルーンとシェルで分割して見やすく、分かりやすい表示ができている点が特記したい点。

  • Select

重苦しい雰囲気を持つ独白から始まるこのゴーストは、悪を許せない独善的な天才ハッカーと、清濁併せ呑む巨大企業の重役が出会うシーンが描かれる。ハードボイルド感があり、洋画あるいはスパイ小説を読んでいるかのような気分になる。この雰囲気はシワのひとつひとつまで描きこまれた重厚な絵柄も大きく貢献している。どこか乾いた目をした彼らが廃ゲームセンターでぽつりぽつりと言葉少なに語り合う様子はシニカルな雰囲気がある。

  • おっとり系狐ショタジジイしかいない島に遭難してしまった

タイトルからして狙ってきている感の通り、ショタジジイの人化した狐とワイワイ過ごすもの。ショタジジイ二人に褒められて甘やかされつつ、珍しい人の子を見に別のショタジジイもやってくる。みんなしてしっぽをぶんぶん振ったり、はわわしたり、表情豊か。このユーザもユーザで揚げ物を作ったりしてスキルが高い。ネズミの素揚げも用意するのだろうか。

  • グレゴリオ

この企画に去勢歌手カストラートをテーマに持ってくるセンスが素晴らしい。子孫を残せなくなるという人権無視も甚だしい重いテーマだが、悟っているというか擦れているというか、そのせいでどこかカラッとしたところがある。嘲笑しながらも金に執着し、コーヒーや紅茶、そのお茶請けを愛することで救いを求めているかのようですらある。

  • ちいさなニコ

どこかレトロさと懐かしさを感じるドット絵シェル。二頭身デフォルメなので表情豊かである。セリフも昔の作品のように、ひらがなと空白の組合せであるところも懐かしさがある。セリフはこちらが理解できるようにゆっくり喋ってくれているようで、メニューの「ニコ」からは素直な思いが聞ける。少し見栄っ張りで可愛いところもある。ニコからはユーザ側がドットのような状態で見えているようで、困惑している様子も見て取れる。旅人として生活する彼の話からは世界の様子や旅してきた国々の特徴など、ファンタジーらしいトークもまたシェルによくあっている。

システム面ではシェル側にメニューをもたせているという点が特徴的。通常であれば、ダブルクリックでバルーンを開いてメニューを表示してそこから選択肢を選ぶという手順を踏むが、このゴーストのように短文トークが多いものであればワンアクションで聞けるボタンを配置するというのは操作性もよく理にかなっている。

  • ぱぱとあるばむ

静かで恐ろしい夜に目覚めてしまった子供が、同じく眠れない父親とゆっくり話をする心温まるシーンが描かれる。子供の視点から見た大人というのはこういうものだった気がする。無条件の慈愛と安心感、ちょっと抜けているところも愛嬌。ぱぱは完全じゃないとしても、子供からは絶対の信頼をおけるもの。こんな柔らかく優しい大人になりたかった。

  • ヒースとオリーブを籠に入れて

商人ゆえにしっかりもののリカルドと、ちょっと抜けているサイラスのコンビで、どたばたコメディ感のあるバディといった感じがする。しかしリカルドも大人の本を読んだり酒癖が悪かったりと抜けてるところがあって憎めない。またそれぞれが別の国の出身のため、身近なものや風習がちょっと違うという地域差あるあるのようなテーマも扱っており、これらもあわせてちょっとした話を作ろうと思ったらいくらでもエピソードが作れそうな組み合わせである。

  • ミサネグチさま

初回起動が1行にしてインパクト抜群。異形の怪異に気に入られ執着されるというのはなかなか恐ろしい。人外の何者かに好かれ付きまとわれて、そして破滅させられることもほぼ確定している。その愛は人間に近いようで異なる、苦悶の姿を求めるもの。猶予が先延ばしにされているだけで、近い将来に愛の名のもとに永遠の苦痛が降りかかるのだろう。シェルの暗くおぞましく、そして美しいほどの姿が雰囲気を盛り上げる。

  • ヨウセン

中国の神に使えるものなのだろうか。初回起動でめちゃくちゃな理由で弟子になってしまったが、そもそも仙人というものは下界の民にしょうもない問答や試練をふっかけたりするものだったと思い直した。中国に伝わる神々のエピソードに一段オチをつけたトークが親しみやすさを増している。昔の神々が現在の下界に降臨してしょうもないことをするトークが面白い。神もLoLで遊ぶいい時代になった。

  • 坊ちゃんの愛馬

史上初かもしれない馬の着せ替えがあることに驚いた。ぼんやりとしか認識していなかった馬の話、馬具の話は江戸の時代に詳しい作者ならではで、非常に興味深い。トークにも納得や驚きが得られるものが多い。知識トークの性質上、それを読み理解し咀嚼するのにカロリーを消費するという点があるが、各トークで選択肢トークで補足したり軽妙なツッコミトークをしたり、緩急がついて読みやすいものとなっている。

システム面では、メイリオの絵文字をボタンにしているのがとても分かりやすくて良い。また、\1バルーンをユーザのリアクション専用バルーンとしている点が分かりやすくさらに操作の勝手もよく、トークに対してお気に入り、いいね、別ランダムトーク開始など様々な機能が綺麗に\1バルーンにまとめられている。アンカーの使い方に工夫が見られ、クリックして別トークが始まるのではなくて、ツールチップにすることで元のトークも見つつ解説も読める作りになっている。専門用語を元のトークを見ながら確認出来るため、トークの理解のしやすさに一役買っている。

  • 天使と悪魔と

ナチュラルに煽っていく天使セジュと小動物みたいな悪魔ゴートのコンビ。天使のほうがよっぽど策略家かつ傲岸不遜で、これ天使と悪魔逆じゃないかと感じさせる凸凹感が非常に良い味を出している。歯の浮くようなセリフを連発したりするセジュに対して、生活に馴染んでテレビ見ようとするゴートに癒やされる。ことあるごとに「やっぱり逆では?」と暗黙の天丼を行っていて面白い。

  • 櫻の木の下には■が埋まっている

狂い咲く桜の木の下、初対面の男から心中を申し込まれる奇妙な出会い。彼はやたら不穏な話を続け、妙にこちらに好意を寄せ、その狂ったような愛情にまさかと思ったら、その通りだった。でもそこで持ちかけられた条件が意外。一目惚れというのは本当だったのかもしれないと思わせる。しかし彼が見えている時点でユーザも訳ありである可能性もある。彼はいつからそこにいて、そしてどうしてユーザを待っていたのだろう。そんな不穏さと同時に、いっそ流されてしまおうかと思うような色気が彼にはある。

  • 猫カフェかいねこ庵

忘れ去られた猫達が集うカフェでゆるく時間を過ごす感じが良い。猫たちの多くが人々からの畏怖を失った空想上の存在にもかかわらず、話の内容は現実の猫とそう変わらない。確かに猫カフェのようであるが、とは言え店としての形をなしておらず、客もユーザしかいない不思議な場所だ。猫又に招き猫に、ポイントが貯まると新たな幻想の猫達が加わるのは起動の楽しみがあってよい。猫ごとのトークも個性豊かで面白い。

システム面では、シナリオの進行条件につけられがちな「起動回数」「起動時間」を、ポイントカードにより来店時に3ポイント、30分利用ごとに1ポイントつくという形で世界に落とし込んでいるのが良い。こういうシステムチックになりがちな要素を違和感なく落とし込む設定作りが美しい。

  • 真夜中零時の御伽星

夢の中の案内人というファンタジー感が良い。綺羅びやかな装身具で身を固め、様々な実験を繰り返し、不思議な道具を操るフェリスは、おとぎ話の魔法使いのようである。研究に没頭し星を眺め過ごす日々は心穏やかなものなのだろう。幻想的なトークにたまには星空を見上げてみようかと思える。そういえば夢の夜空に輝く星の味も知らないまま、ただ忙しなく夢もなく生きているなと思い出させてくれる。

  • 砂漠の一夜

自作品のため割愛。

  • 縁側探索キット

好々爺然とした先代幽霊と縁側でのんびり話をし、のんきにやっていてほのぼのするトークが多い。かと思いきやどうも先代引退後に本当に組になってしまったなど、きな臭い話もあり、一体過去に何があったのか気になる。隣で眠る娘を起こすとつんつんしながらも比較的好意的に接してくれる。なぜかパパを名前呼びしようとするがスキンシップは嫌がらないし、パパを浄化しようと脅しつつもしないので信頼はありそうな気がする。このゴーストがスピンオフとのことで、本来のゴーストで語られる内容なのだろうか。

  • 赤い陽暮れ落ちれば

無垢なる人造兵器といった感じの無邪気さが少し人外感を醸し出してる。とは言え、本人は施設から出て以降はずっと他社との交流を制限していたようだし、久しぶりの対話ゆえの高揚感もありそうだ。100年以上生きて何も無い日はただ寝転がっているなど、精神的にはだいぶ擦り切れてしまっているところもあったのかもしれない。それを奮起させたユーザという存在が、彼にとってはどれだけありがたかったのだろう。ただ無邪気さゆえの悲劇が思い浮かんでならない。

  • 隣のヤンキー兄と往く!

隣のヤンキー、といいつつも性格は非常に素直で優しい。ヤンキーとは名ばかりで、髪を染めて走り屋をしていただけなのかもしれない。呼ばれればついてきてくれるし一緒に作業もしてくれる。面倒見もよくて、ちょっと抜けた話をしたり、愛嬌があって怖いイメージはまったくなく、信頼できそうである。

システム面では、里々製のタスク管理ツールとは、なんと恐ろしい修羅の道を歩もうとしているのか。タイマー付き、トーク付きで、一緒に作業しているような気分になれる機能があるという点は、伺かという媒体ならではだと思う。

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