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「当たり前」の生まれるところ

「インスリン4回固定打ち」


私の記事を読む人のうち、そこそこの人がこの言葉の意味するところをイメージできると思います。
食前インスリン3回と、持効型インスリンを1日のうちどこかで1回、決まった量打つこと。
それを理解できるのは、あなたがインスリン注射をしていたり、している患者さんに関わっているからこそでしょう。
インスリンなんて打ったことも処方したこともなければきっと、
(え?4回?えーっと、ご飯は3食だから……おやつ分かな?で、固定…………???)
とか、そもそもインスリンって何?って人もたくさんいるはずだし、居ていいと思います。

ところがどっこい、糖尿病内科ではこの言葉は当たり前で、難しい言葉で強化インスリン療法って言います。
ちなみに私はよく、この強化とインスリンの順番がわかんなくなって都度調べています。ぴぇ。。

学会なんかだと、この言葉を間違えただけでつるし上げられるくらい「当たり前」扱いなんですけど、新規で発症した患者さんに

「それでは明日から、強化インスリン療法を始めますね」
どころか
「明日からはインスリン4回固定打ちですよ!」
とか言っても通じませんよね。

だから通じやすくするために、
「明日からインスリンは1日4回、オレンジのインスリンを朝昼晩ご飯の前の3回と、緑のインスリンを寝る前に1回、決まった量を打ってもらいます」
って言います。

これが必要なのは最初の頃だけで、半年もすれば「朝昼の固定打ち用量を調整して〜」とか、「持効型インスリンを減らしましょう」とかが当たり前に通じるようになっていたりします。


当たり前、はとても便利で効率的です。
多くを語らずとも理解でき、理解してもらえる共通認識。
正しい認識をしていれば伝達ミスも起こりにくいでしょう。

でもどんな「当たり前」も、最初から当たり前だったわけではないことを覚えておかなければなりません。

「インスリン4回固定打ち。こう言ってわからないの?当たり前でしょう?」
なんて患者さんに言う人はさすがに見かけないですけど、こんなことを例えば研修医や、新人看護師さんに対して言ってしまうことがあるのではないでしょうか。
「こういうこと」が世の中ではいくらでも起こっているはず。

初見で、こんなことも知らないのかよwwwと煽る人は、知らなかった頃のことを覚えていない忘れん坊さんなのです。
まあ、何度聞いても忘れてしまうとしたらそれはそれで言われる側の問題なんでしょうけど。

笑ってられないことに、この「知らなかったことを責めたり馬鹿にする姿勢」には実害があります。

実は初めて受け持つインスリン使用患者さんなのに、わかってて当たり前扱いされて聞ける空気じゃなくて、不十分な知識をもって診療にあたる……かなしいかな、それなりによくある話だと思います。
一言教えてあげていれば、聞ける雰囲気なら、防げた事故だってあったと思うんですよ。

これは当たり前だと思いますが、誰かが教えて、身につかなければそれは当たり前にはなりません。

例えば、空が青いのも海が広いのも、子供にとってはなんで?どうして?の対象です。
私たちにとって当たり前みたいな事実だって、知って受け止めて当たり前になるプロセスを経る前の事実は当たり前ではないのです。

特に誰かに教えるなら、
指導する立場なら、
親として子に接するなら、

当たり前なんてものはなくて当たり前だ、くらいの意識で接しないと。
自分にとっての当たり前を当たり前にさせることこそ教育で、自分が指導していないことを当たり前だと押し付けるのは怠慢じゃないですか?

でも実際、
「そんなの当たり前でしょ」?「そんなことも知らないの」?「このくらいできるでしょ」?
とか言ってくるひとはいる。

あなたの中ではそうなんでしょうね。

って応えたいけど、なかなか難しい。
そういう事を言う上司にあたったらハズレですよね。。
当たり前をぶつけられる側になったら、わたしはとりあえずへりくだって「すみません、わかりません、教えてください」って言っちゃうんですけど。
そんなことも知らないんだ、で済まされたらもうどうしようもないですよね。世の中は理不尽だよなあ。

せめて自分だけは、他人に当たり前を押し付けないようにしようと努めているし、そういう人が増えればいいと思う。
あと、仕返しのように当たり前を振りかざすのはやめた方がいい。
「私が新人の頃は〜〜」って嫌だったことを仕返したって、誰の得にもならないのに。

理不尽に対してはパワハラとして訴えるか、せめて「教えてくれなかった」という記録をとっておいていざのミスに備えておくのも自衛の方法になるかもしれない。


当たり前って言葉を使うのが当たり前じゃなくなるといいなって、切に思います。
解決策はまだない。なにかあったら、教えてください。

さて今回はこの辺で。どうも、えあでした。

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