【試合評】違う違う!そうじゃそうじゃな~い!!~5/26○楽天1-0阪神
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得意中の得意技
これぞ銀次印だ!
楽天ファンの誰もがそう思ったのではないでしょうか。
9回表の2死3,1塁、代打・銀次vs左腕・岩崎との対決だ。
1-0からの2球目だった。
仕留めたのは真中高めに入った142キロ真っ直ぐ。
左前へ詰りながら運んだ一打が、長きスコアレスの攻防に終止符を打つ決勝打になった。
この日のTigers-aiの実況は中井雅之アナ。ふだんもっぱら阪神の中継に携わる彼は開口一番「決して良い当たりではないですよ」と実況したが、
「違う違う♪そうじゃ♪そうじゃな~い♪」
と心の中で鈴木雅之ばりに歌い出したのは、決して僕だけではなかったはず。
そう! あの一打は左前を狙い、故意に詰まらせた技ありだった。
9年前の優勝戦線、往時のコンタクトヒッターが何度も披露した得意中の得意技だ。僕らは理想の光景を目撃したのだった。
実際、試合後に呼ばれたヒーローインタビューで銀次は「イメージどおりのバッティングができたと思います。良い詰りが久々にできました」と充実感を告白したのだった。
決勝点以上の効果
銀次の決勝打は、チームに5カードぶりの勝ち越しをもたらす以上の効果があった。
延長戦を回避できたこと。
今年は投高打低でどのチームも延長戦は増えている。そのなか、楽天の44試合で延長戦7試合はパリーグ最多を記録していた。エキストライニングスの合計は9.1イニングにも及んでいたわけだ。
6連戦日程はまだまだ続く。本戦も6連戦のまだ3戦目だった。しかも雨。これらを考えると、9回2死の土壇場で延長戦を回避した銀次の決勝1本は、リリーフ陣の疲弊を防ぐ意味で大きかった。
いっぽう、神宮でBIGBOSSと激戦を繰り広げたセ界の首位ヤクルトは、3試合のうち2試合が延長戦だった。
楽天が3連戦で計8人のリリーフを使用したのに対し、ヤクルトは勝ちパターンを中心に12人を使わざるをえなくなった。ここまで好投を続けてきたマクガフ、木澤らが崩れるなど、不安を残したまま仙台に乗り込むことになっている。
もう1つ。もし岩崎を打てなくても、ベンチの信頼感は揺らぐことはなかったと思うが、僕の胸中にある種の疑念は生まれていたかもしれない。その疑念を払拭する一打になった。
前日の試合評、僕は銀次について「2ストライク以降打率は15打数5安打の.333だ。コンタクト率も93.1%と優秀」と書いた。その槍働きも、じつは右投手特化型なのでは?という疑念だ。
銀次の左右投手別の成績を確認すると、右投手打率.458に対し、左投手は.167。明暗くっきり分かれていた。
毎試合レギュラーを張った往時から、銀次も34歳を迎えてベテランの域に達し、職務も変わりつつある。スタメン出場もスポット起用。ゲームの要所で主に右投手にぶつける左の代打として出ていくケースが多い。
その起用傾向を踏まえて、vs右投手に最適化したパフォーマンスを作り上げているのかな?という仮説なのだ。逆に言えば、vs左投手はおろそかになってしまうのでは?という疑念でもあった。
実際、左投手打率.167だったわけだ。しかし今までの.167はサンプル数が少ないがため結果が偏りすぎて出現していただけだった。そのように僕が僕を納得させることのできる一打にもなった。
阪神バッテリーの不可解配球
前日の浅村7号2ランにも感じたけど、それにしても、この局面における長坂&岩崎の阪神バッテリーの配球は不可解だった。
左vs左で、左腕による最も困難な作業は左打者のインコースに投げ切る行為だ。それなのに、阪神バッテリーは、銀次の初球、2球目、いずれも内角狙いだった。
この日、岩崎は渡邉佳、辰己、マルモレホス、銀次、西川と左打者5人と対戦したが、初球も2球目も内角狙いで入ったケースは、銀次1人だけだった。
岩崎のケースに限らず、広く野球で左vs左のとき、初球、2球と連続で内角を狙う配球は、ほんと珍しいと言える。楽天の左腕の例でいえば、今季は4/22●E0-3L、0-0の2回先頭・呉念庭に対し、早川&炭谷のコンビが実施したその1例だけにとどまっている。
その初球は長坂が構えた内角ミットよりさらに内角へ大きく入るボール球だった。絶対に甘く入ってはならない。そんな投手心理が内角完全ボール投球になったのだろう。
そして2球目も長坂は同じ場所にミットを構えた。
これが銀次には有利に働いた。
塁も3,1塁と埋まっている。もし四球なら満塁ピンチ。後続は5月打撃の調子を落としているとはいえ、本戦で好守連発をみせた西川である。だから投手心理としてはボール先行2-0にしたくない。
初球から一転、今度はストライクを取りにいきたくなる心理に駆られるわけだ。その欲望が真中高めへの制球不如意をみちびいたのだった。
前日の浅村7号2ラン同様、楽天サイドからすれば助かる阪神バッテリーの不可解配球だった。
佐藤輝明vs岸孝之
8回裏の2死2塁、宋家豪が1番・近本に粘られた挙句、左前へヒットを弾き返され、2塁走者・長坂が雨の中、本塁突入。レフト西川から本塁好返球がやってきてアウトにしたプレーは大きかった。
実況の中井アナと解説・湯舟敏郎さんが、ほんと口を揃えて、まさにユニゾンで、笑っちゃうほど「素晴らしかった」と絶賛した今季9個目の補殺劇も見ごたえあったが、ここではその前の7回裏の攻防にスポットを当ててみたい。
この回は、ゼロを並べ続けた先発・岸も球数90球以上に突入する状況だった。
そのなか、阪神の攻撃は3番・大山から始まる中軸対決。
この3連戦バットで存在感を発揮してきた通算89ホーマーの右の強打者に、追い込んだ後のカーブを応戦され、バックスクリーン右のフェンス直撃ツーベースを浴びてしまう。
無死2塁でバッターボックスに迎えたのが、4番・佐藤輝だった。
ここは引っ張られて、ヒットはもとより進塁打で1死3塁を作らせることを防ぎたい場面。必然、岸の投球は外角中心になる。
全6球、このアウトコースの出し入れが絶品だった!
赤=ストレート、青=チェンジアップ、黄色=カーブ
ボール先行3-0からの勝負になった。投手不利のカウントだが、Mr.安定感はそのことを感じさせない精巧ぶりを披露してくれた。
3-0からの1球は是が非でもストライクが欲しい場面。俄然、真っ直ぐの割合が高くなる。サトテルもストレート1本狙いだったはず。ところが岸が投じたのはカーブで、この遅球が制球良く外角に決まったのだから、サトテルも面食らったはずだ。
今季、楽天投手陣による3-0からの投球は56例あるが、78.6%に当たる44球は真っ直ぐだった。いっぽう、カーブを投じたのは本戦の岸だけだった。
3-1から外で見逃しストライクを取ったチェンジアップ。そして3-2から結果球になった外のチェンジアップ。この配球も良かった。
同じ球種を同じコースに2球連続で続けるかたちになったが、今季の岸のチェンジアップは球種別の被打率で最も良い.171を記録。空振り/スウィング率も最も高い31.0%をマークしていた。
左打者へのチェンジアップという条件では、被打率.125とさらに良く、空振り/スウィング率も37.0%まで上昇。最も信頼のおける、最も間違いの少ない球種になっていた。
だから、サトテルも合わせただけの打撃が精いっぱい。伸びを欠いた左飛が西川の守備範囲に悠々収まる雨中のアウト劇になった。
仙台からおじいちゃんおばあちゃんが観戦に訪れていたサトテルを抑えることができたのも、初戦で田中マー君が自身のYouTubeで
と言っていたとおり、岸がコースにしっかり投げ切ることができていたからだと感じた。【終】
・・・というようなデータなどをまじえた試合感想文やコラムを『Shibakawaの楽天イーグルス観戦記2022』で綴っています。
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