【考察】ラピュタで営巣していた鳥の種類について
夏休みにはアニメ映画が多く放映されますよね。
ディズニーや細田守監督作品も多いですが、やっぱり定番はジブリアニメですね。
スタジオジブリの映画は動植物の描写に定評があります。
架空の動物であっても、走り方や羽ばたき方にいささかの違和感も感じさせないアニメーターさんの技量は、芸術の域に達しています。
最新作の「君たちはどう生きるか」にも多くの鳥が登場しますが、「となりのトトロ」や「風の谷のナウシカ」に出てくる昆虫も印象的ですね。
そんな中でも、私の印象に一番残っているのが「天空の城ラピュタ」のワンシーンです。
海賊ドーラ一家が操る飛行船「タイガー・モス号」から切り離された偵察用グライダーに乗ったパズーとシータは、巨大な低気圧「龍の巣」の中央にある天空の城・ラピュタの一角、草の上に軟着陸します。
すると、どこからか、地上の要塞でも目覚めて大暴れしたロボット兵の同型機が歩いてきて、グライダーに手をかけます。
その後、2羽の茶褐色の小鳥がやってきて、巣の上を飛び回ります。
あの恐ろしいロボット兵が、小鳥の巣を守るために見回っていたのだ、という事に気付く、心優しいシーンです。
までが作中のシーンです。
ここでわかるのは、
・シータははっきりと「ヒタキの巣」と断定的に言っている。
・巣は、丈の低い草の生えた地上にあった。
・鳥のつがいは雌雄とも全身茶褐色で、雌雄差はないように見えた。
・パズーは解説役
以上です。
ヒタキとは、広義にはスズメ目ヒタキ科の鳥全て、ということになりますが、一般的には標準和名が「〇〇ヒタキ」「〇〇ビタキ」と、種名にヒタキと入る種のうちのどれかだと推察されます。
が、しかし、です。
ヒタキの仲間のほとんどは、繁殖期には雌雄異色、オスはカラフルな色です。
さらに言えば、ヒタキの仲間のほとんどは樹木のうろや裂け目、岩の隙間などに巣をかけます。
地上営巣性で繁殖期でも雌雄同色のヒタキ。日本に常在する仲間には、残念ながら該当する種はいません。
シータが言ったのが「ヒバリの巣だわ!」であれば、雌雄同色で地上営巣、という条件を満たしますが、作中ではシータの利発さや聡明さが繰り返し描写されているので、「シータ誤同定説」は棄却します。
というわけで、世界規模で探しましょう。
地上営巣、という条件に該当するのはサバクヒタキの仲間くらいのようです。が、種サバクヒタキは雄の頭部や翼に黒い斑紋が入るため不採用です。
サバクヒタキの仲間のうち、雌雄ともに茶褐色、ヒタキと名の付く種はこちらくらいです。
イナバヒタキ。
中央アジアからウクライナ、トルコにかけての草原で繁殖し、冬季はアフリカに渡るヒタキです。草原生活に特化しているため、足が長いのが特徴です。
日本では最初に記録されたのが鳥取県であるためこの名前が付き、以降はごくごく稀な迷鳥として観察されます。
以上から、ラピュタで繁殖していたヒタキはイナバヒタキとしたいと思います。
めでたしめでたし。
……しかし、若干の矛盾点に気が付きました。
飛行石の指した光を目指してムスカ大佐を乗せた飛行戦艦ゴリアテが出発したあと、タイガー・モス号で後を追うドーラが、シータに飛行石の光が指した方角を聞くシーンです。
ドーラがシータの利発さに感心しつつ、ラピュタ一番乗りに闘志を燃やすシーンです。
続いてドーラは航路と速度を計算しゴリアテに追いつけるかを検討します。
というシーンです。手にしているのは算盤(そろばん)です。
貿易風は北半球でも南半球でも吹きますが、ドーラが日本や中国のことを「東洋」と呼ぶということは、ドーラの住む世界は中央アジアよりも西ということになります。緯度的にも北半球と見ていいでしょう。イナバヒタキの繁殖地と矛盾がありません。
さて、シータは今が「最後の草刈りの季節」だと言っています。この草、牧草が中世から一般的だったチモシー(オオアワガエリ)という種類だとすると、種を捲いて最初に刈り入れる一番刈り、その切り口から生えてきた柔らかい二番刈り、更にその切り口から生えた三番刈りまで三回刈るのが一般的です。
一番刈りが一番栄養価が高くて草体が固く、二番刈り、三番刈りの順に細く柔らかくなっていくので、動物園では動物の種類や体調によってあげるチモシーの種類を切り替えていますが、それはさておき草刈りの季節です。
一番刈りは6〜7月、二番刈りは8〜9月、三番刈りは9〜10月がシーズンです。
「日の出は真東からちょっと南」とシータは言っていますから、秋分の日(9月22~23日)を少し過ぎたあたり、ということで、ここは辻褄が合います。
となると、イナバヒタキが9〜10月に営巣・産卵している、それは流石に遅いんじゃないか?という問題がでてきます。
この辻褄を合わせる追加情報は作中には登場しませんので、私なりに考えた屁理屈を言いますと、
「ラピュタに数百年~千数百年閉じ込められている以上、渡りをすることができない(する必要がない)上に日照時間の変動が不安定なため、年中が繁殖期となるように局所進化した」。これです。
ラピュタで局所進化したとか言い出したら、もうそんなのイナバヒタキじゃなくてガラパゴス的なラピュタ固有種でいいじゃないか?となって元も子もないですが我慢してください。
この問題を解決する描写を見つけました。
タイガー・モス号とゴリアテは、ほとんど真東に向かって飛び続け、ラピュタを目指します。
ずっと真東に向かって飛んでいますから、ラピュタは「同じく真東に向かって飛んでいる」か、「真西に向かって飛んでいる」か、「静止している」か、の何れかです。
そして話が進むと、巨大な低気圧「龍の巣」が現れ、タイガー・モス号に迫ってきます。
この「龍の巣」の中心にラピュタがあるのですが、真東に向かっていた飛行艇が「龍の巣に追いついた」のではなく「龍の巣が向かってきた」、ということはつまりラピュタは西に向かって飛び続けていたということです。
西に向かって飛び続けるとラピュタの日照時間はどうなるでしょう?
地球の自転に逆らうように動いている訳ですから、当然昼間の時間は長くなります。
分かりやすい例で言うと、沈みゆく夕日に向かって地球の自転と同じ速度で飛べば、夕日はずっと沈まない、ということです。
そして、鳥の発情ホルモンは主に日照時間によって左右されます。昼間が長くなると繁殖期が開始し、昼間が短くなるにつれて終了して換羽期に入るのです。夜も長くなりますが、連続した日照時間の長さが重要なのです。
よって、
「ラピュタは西に飛び続けていたので夏至を過ぎても日照時間が長い状態が続き、イナバヒタキの繁殖期は9月下旬まで延びた」。
これです。
考察おしまい。
最後に別件ですが、例の名セリフのシーンについて一言物申します。
いやいやいや、「みんな元気で」じゃない!
飼育している生き物は家畜であれペットであれ、最後まで責任を持って面倒を見るのが飼い主の責任です!
パズーがあのシーンでドーラに言うべきセリフは
「40秒では無理です!」
です。
※動物愛護法違反のうち愛護動物(牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと、あひる)を遺棄または虐待した場合は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。
まあ、時代が時代ですし、映画の最後にシータと二人であの家に帰っているかのような描写もありますので、ハトは回収できたものとして許してあげましょう。
おしまい。