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MIYUJI KANEKO - BLUE NOTE TOKYO meets CLASSIC


Blue Note東京でクラシックピアノを聴くという。ブルーノートってジャズの聖地というべきあのブルーノートで間違いないですか!?と衝撃を受けたとても珍しいコンサート。いったい何が起こるのでしょう!

それぞれ違うテーマによるプログラムの2公演で開催され、”ジャズ寄り”の方にクラシックの魅力を紹介するような、クラシックの名曲たちをぎゅっと詰めこんだ1st Showは "The Good Old Classics"。 2nd Showはコンサートの告知で ”挑戦的”や”斬新”と表現されたように、ジャズクラブでクラシック音楽をどう演出するのかというチャレンジをより強く感じさせる "The Modern Approach"。こちらは“クラシック寄り”の方へ、実はクラシックの中に潜んでいたジャズ要素を引き出すという新しさに誘うものでした。場所柄、クラシックファンとも限らない観客を配慮されてのことか、テレビCMなどどこかで聴いたことがある名曲たちが多く選曲されていて、クラシック音楽初心者の筆者にも嬉しいプログラムでした。

筆者は金子三勇士さんの新たな一面を拝見できるこの機会を逃してはならないといつも以上に意気込んでいましたが、すべてを投げ打ってでも行きたい気持ちを必死で抑え(笑)、2nd Showのみ観覧しました。

この記事はクラシック音楽初心者が、勉強がてらコンサートの余韻を味わう目的で残す、備忘録に近いコンサートレポートです。

今回の音源は三勇士さんのSpotifyのプレイリストを中心に、オフィシャルYouTubeなどからも拝借してきました。


プログラム

1st Show -  "The Good Old Classics"

リスト:ハンガリー狂詩曲 第2番
バッハ:プレリュード ハ長調
ベートーヴェン:ピアノソナタ「悲愴」より第2楽章
ショパン:夜想曲「遺作」
ショパン:黒鍵のエチュード
ドビュッシー:月の光
ラフマニノフ:前奏曲「鐘」
ベートーヴェン作曲 / リスト編曲 / 金子三勇士アレンジ:
交響曲第9番より第4楽章「歓喜の歌」"Blue Note Tokyo" オリジナルバージョン

2nd Show - "The Modern Approach"

バルトーク:オスティナート
金子三勇士オリジナル即興演奏 (※テーマは当日発表!)
ドビュッシー:ゴリウォーグのケークウォーク
シューマン:トロイメライ
ウェイネル:変奏曲
リスト:コンソレーション第3番
ラフマニノフ:パガニーニのテーマによる狂詩曲から第18変奏
ガーシュウィン作曲 / 金子三勇士編曲:ラプソディ・イン・ブルー
<アンコール>リスト:ハンガリー狂詩曲第2番
<アンコール>ショパン:夜想曲第2番

公演日:2021年4月16日 Blue Note東京


ジャズクラブ・Blue Note東京

にわかジャズファンとしてはおこがましいのですが、ブルーノートについて少し書いてみます。ジャズが生まれた国・アメリカのニューヨークで開業した世界一有名な高級ジャズ・クラブのひとつであり、今では日本をはじめ世界中にも店舗が広がっています(アメリカ国内に数店とイタリア・ブラジル・中国に店舗があるようす)。ジャズ専門のレーベルも持ち、多くのスターを輩出してモダンジャズの礎を築いたといわれる歴史的なブランド。そのジャズクラブは世界中のジャズ(とその派生のジャンル)ミュージシャンが最も憧れる舞台のひとつであり、このステージに立つことが一握りの世界的トップミュージシャンである証明になるような特別な場所なのです。東京店でもエントランスにブルーノートの歴史を作った錚々たるジャズのレジェントたちの写真が並んでいて、その格式が感じられます。

そんなステージに三勇士さんが立つというニュースは驚きであり喜びでありファンとして誇らしいような、とにかく気分が舞い上がる出来事でした。ブルーノートの洗練された空間、テーブルのキャンドルが揺れロマンティックに照明が落とされた店内で、ブルーのスポットライトに照らされながらピアノを弾く三勇士さんはいつもの何倍かっこいいのだろうと筆者は妄想しながら当日までカウントダウンしていました。実際にブルーノートのテーマカラーである青い照明が三勇士さんによく似合っていて、常々ブルーがよくお似合いだと思っていたので期待通りでした!

ちなみに先日ファンの方のツイートにサザンオールスターズも好きですよとお返事していた三勇士さん。このコンサートの1ヶ月ほど前に桑田佳祐さんもブルーノート東京に初登場されていますね。桑田佳祐さんと同じステージに立つ三勇士さん...なんだかもう凄いことです。

こちら(↓)三勇士さんのTwitterから画像を拝借してきました、エントランスに飾られたその日の公演を知らせる掲示板。もうこれに三勇士さんの名前が入っていることだけで嬉しくてたまらないです。

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ご自身も思い入れのある場所であったようで、おもしろいエピソードがいくつか。ハンガリーから帰国したばかりの高校生のとき、R&BシンガーのEric Benetさんのコンサートで来店し、ご本人とお話しする機会があった際「君はミュージシャンだね?」とズバリ当てられたという。最初はお名前のことを言われたのかと思ったという三勇士さん(笑)その頃からただならぬオーラを放っていたのでしょうか。そしてその時から三勇士さんはジャンルが違う音楽家であったにもかかわらず、いつかこのステージに立ちたいと憧れていたのだそうです。長年抱いていた夢が叶った三勇士さんの嬉しそうなようすも微笑ましかったですが、そんな記念日に立ち会えたことはファンとしてもとても幸せなことです。


2nd Show - "The Modern Approach"

バルトーク:オスティナート

筆者にとってバルトークの作品は彼がハンガリーのクラシック作曲家でありながら民族音楽の研究者でもあったことを強く想起させ、民族音楽寄りに聴こえるのですが、この日はガラッとそのイメージが変わることとなりました。三勇士さんの曲紹介にもあった通り、どこかジャズのリズムが感じられるこの曲が(ジャズアレンジされたわけでもないのに)すっかりおしゃれで都会的なジャズ曲に聴こえてきました。さっそくのブルーノート・マジック!それがとても新鮮で興味深く、これから始まるコンサートへの期待がぐっと高まるものでした。

動画は三勇士さんのオフィシャルYouTubeより、昨年所沢でのコンサート前に撮られたもののようです。


金子三勇士オリジナル即興演奏 

コンサートが始まった時点でもどんな演奏をするか決めていないという!三勇士さんのトークにもあったように、そういえばジャズとは即興が魅力であったりする音楽。ブルーノートならではという、三勇士さんのアイデアが光る演出でした。

過去に三勇士さんが演奏した即興というと、昨年ハンガリーフェスティバルでクラリネットのコハーンさんと演奏したコンテンポラリーなものを想起してちょっと構えていましたが、演奏スタイルの予想は大きく外れ、それがまた良い意味での裏切りであり心を掴むものでした!

なんと聴こえてきたのはディズニー映画「アラジン」のテーマとして有名な「Whole new world」のメロディ。三勇士さんがポピュラーを!!しかも、なんともロマンティックな選曲!!筆者としてはディズニー作品で最も好きな映画のテーマという垂涎もの。ちなみに筆者がどのくらいアラジンに思い入れがあるかというと、残高が増えたり減ったりの喜怒哀楽を長年共にする銀行のキャッシュカードがアラジン柄というほどです(例がわかりづらい 笑) 。思い出すのはアラジンが魔法の絨毯にジャスミンを誘うときのセリフ「Do you trust me?(僕を信じて)」。三勇士さんが乗ったステージが魔法の絨毯に見え、これから続くコンサートは必ず素敵なものになるから僕を信じて、と三勇士さんにキラキラと綺麗な夜空(音楽)の旅に連れていかれているような妄想が止まりませんでした。

さらに聴こえてきたのは前述の、三勇士さんが初ブルーノート来店のときに聴かれたと推察するEric Benet 「You're the only one」(@aktebfさん、情報ありがとうございます!)。これもまた会場の大人なムードと完璧にマッチするロマンティックなメロディのチョイスです!

その後はまたWhole new worldに戻り、夢心地のまま終わるという。即興ということで、ふと何か思い浮かぶものがあったのか、それともその曲のタイトル通り、この日のコンサートがまったく新しい見たことのない世界=Whole new worldであるというイメージが表れたのでしょうか。印象的だったのは、即興演奏は「そのときピアノが教えてくれるはず」と仰っていたこと。三勇士さんはよく、作曲家の声を引き出すために演奏しているといったような表現をされるのですが、この時もやはりピアニストはピアノに先導されるものであり、ご自身の想いを表現する道具というわけでもないという謙虚さが表れているのではと感じさせる言葉でした。

できればそのまま30分くらい続けて欲しいと願ったくらい(即興のソナタ? 笑)すでに2曲目で気分が最高潮でこの先どうしたら良いのでしょう!と、あまりに素敵で夢か現実かわからなくなるひとときでした。

音源は三勇士さんのプレイリスト「Kids at Home BGM」から「Whole new world」の吹奏楽バージョンと、Spotifyから「You're the only one」を。


ドビュッシー:ゴリウォーグのケークウォーク

ジャズに憧れがあったというドビュッシー。そしてケークウォークとはアメリカで生まれヨーロッパで流行ったダンスで、のちにジャズのリズムの起源になったといわれているものだという。なんとドビュッシーがジャズとつながるとは。三勇士さんのコンサートではいつも何かしら新しい知識が増えるのがお楽しみのひとつです!

また筆者は最近、モネやルノワールに代表される印象派というムーブメントが絵画だけでなく音楽にも存在し、ドビュッシーがその中に入ることを知りました。言われてみるとこの「ゴリウォーグのケークウォーク」のメロディは印象派の多くの画家が表現した、浮世絵からヒントを得たというジャポニズムのイメージがぴったり合います

...が(!)、この日聴くドビュッシーは再びブルーノート・マジックにかかって、もうジャズでしかなかったです。浮世絵はどこへやら。

音源はプレイリスト「Baby's Piano」から。


シューマン:トロイメライ

「夢」を意味するトロイメライ。たしかここで「夢」つながりとして、ブルーノートが三勇士さんの夢のステージであったというお話をされていたと思うのですが、即興の余韻が続いているのと素敵な雰囲気に包まれて、夢の世界から帰ってこれずにふわーっとしていたので、トークの内容の記憶が曖昧になっています(笑)。

三勇士さんの優しく温かい音に癒される曲で、なんと素晴らしいプログラムなのでしょう。

音源はプレイリスト「Good night classics」から。


ウェイネル:変奏曲

筆者は聞いたことのない作曲家・作品で、せっかくの演奏を楽しむためにとネットで調べてみようとしたのですが、これはどんな作曲家がどんな想いで作った作品なのかそれらしき情報には辿り着けず、まったく想像がつかないままでした。それもそのはず、この20世紀のハンガリーの作曲家は日本ではほとんど演奏されることのない、三勇士さんの感覚としても日本で初めての紹介になるのではとのことでした。こちらもジャズに憧れがあったといわれている作曲家なのだそうです。2分ほどの短い変奏曲は、馴染みやすい優しいメロディだった記憶です。

音源は海外のものまで調べていないのですが、三勇士さんの仰る通り、日本のApple MusicやSpotifyなどにはなさそうですね!?


リスト:コンソレーション第3番

超絶技巧で有名なリストの作品の中でも、テクニカルで忙しいものだけでなく、ゆったりじっくり味わうものもあるということを紹介されていた三勇士さん。SNSでは三勇士さんが紹介するリストを聴いた方たちが、人物としてのリストの印象が変わったと書かれているのを目にすることがあります。三勇士さんは日本に本来のリストの魅力を伝えている数少ない音楽家なのだろうと想像すると、先駆的な素晴らしい役をこなしていて素敵だなといつも思っています。反対にリストが三勇士さんを通して日本のようすを見ることができているかのようで、リストも喜んでいるのではないかと想像しています。今回おしゃれなジャズクラブに連れてくるという、また新たな旅にお招きした歴史的な日だったといえるのかもしれませんね?

リストの紹介の流れで三勇士さんがハンガリーにルーツを持つことをお話されていたのですが、この日はなんとハンガリー大使も会場にいらしており、トークの中で紹介されていました。(その際ハンガリー語でなにやらご挨拶されていたのですが、会場で何人の方が謎を解けたのでしょうね!)。筆者は会場に入った瞬間にちょうど立ち上がった大使とバッタリと向かい合い、思わず咄嗟に挨拶してしまいそうになるという(笑)。いつもテレビやYouTube動画で拝見する方はこちらはよく存じていても、相手はこちらを知るわけもないので危なかったですね(笑)。しばらく動揺を引きずっていました。

この日は筆者にとって作品や三勇士さんの新たな魅力を発見したり、同じくファンの方とお話できたり、またどこまで公表して良いのかわからないですが三勇士さんと過去に共演された音楽家の方にお会いできるなど、いろいろな嬉しい出会いに溢れていて忘れられない1日になりました。これも大きくなくコミュニケーションが取りやすい雰囲気のホールであるブルーノート・マジックかもしれませんね。

音源は「Good night classics」「The best of Miyuji Kaneko」「Baby's Piano」と、たくさんのプレイリストに登場する大活躍な1曲!


ラフマニノフ:パガニーニのテーマによる狂詩曲から第18変奏

筆者は好きな作曲家をひとりだけ選べと言われたらラフマニノフと答えるかもしれないというほどラフマニノフ好きなので、プログラムを見たときは飛び上がりそうでした。予想通りこの甘くドラマティックなメロディが三勇士さんの情熱的な音で奏でられていて胸がいっぱいになり、日頃の涙もろさを自覚しているため「今日は泣かない、泣かない、泣か...」と危なかったのですが(笑)思い浮かぶ熱情のイメージに陶酔していました(はたして作品のテーマは筆者が想像するようなラブストーリーなのでしょうか…)。

同じ調の「コンソレーション」とはたまたま続くプログラムを組んでいたということで、そういえばスムーズな流れであるように感じるものでした。

こちらはプレイリスト「Telework BGM」から。


ガーシュウィン作曲 / 金子三勇士編曲:ラプソディ・イン・ブルー

日本ではテレビドラマ「のだめカンタービレ」で有名になったこの曲、またその作曲家であるガーシュウィンは、クラシック音楽とジャズの懸け橋になる唯一の存在といえるとのこと。ガーシュウィンはピアノが得意だったために難曲のようで、もしこの作品がもう少し簡単であればもっとピアニストが演奏していただろうと思われるものなのだとか。

実は筆者にとってはドラマの影響もあるのかクラシックでもジャズでもなく、なぜかポピュラーのように認識しているものだったのですが、ブルーノート・マジック...にかからなくてもジャズでしたね(笑) 今まで聴いていたオーケストラバージョンと違ってピアノバージョンでは、よりジャズの要素を感じるものでしたが、三勇士さんはその即興=カデンツァ部分でブルーノートらしさを表現されたようでした。残念なことに筆者は未だ、どこがカデンツァなのか、どのようにアレンジされたのか聴き分けがついていないという…。いつかわかるようになる日まで!

音源はプレイリスト「Kids at Home BGM」から。


<アンコール>リスト:ハンガリー狂詩曲第2番

筆者としてはその日初めて聴きましたが、1st stageで演奏したものをもう一度という珍しい選曲。というのも「ラプソディー・イン・ブルー」を演奏した後の同じラプソディ(狂詩曲)がどういうものになるか、三勇士さんとしても興味があるということでした。定番のレパートリーでもその前に演奏した曲に影響を受けるほど一期一会なのですね。

筆者にはこの曲のときのピアノの音がキレがあるような?うまく表現できないのですが何か冴えているような綺麗な音が、とても心地良く印象的でした。もしかしたら今まででいちばん好きな音だったかもしれません。何の影響でそうなるのか、興味津々です。

音源はプレイリスト「The best of Miyuji Kaneko」「Kids at Home BGM」より。


<アンコール>ショパン:夜想曲第2番

ブルーノートのムーディな空気感にぴったりの曲。(英語的なムーディではなく日本語的に"いい雰囲気"の意味で)熱々のコンサートからしっとりとしたおやすみモードへの切り替えにその興奮を落ち着かせるものを、という選曲だったようですが、この日の演奏が柔らかく甘く、だんだん情熱的にも聴こえてきて、ふわっとした温かい空気に包まれて心を奪われていました。

音源はプレイリスト「Good night classics」「Dinner BGM」より。


最後に

いつものコンサートホールでの演奏があってのことなのですが、今回はブルーノートならではのその空間、プログラム、パフォーマンスなど様々なギャップが楽しめるスペシャルなコンサートでした。

この珍しくて貴重なジャズクラブでのコンサートは会場の狭さといい、客席とステージの高さのバランスといい、いつもと違うプログラムといい、あたかもプライベートなイベントに三勇士さんをお招きしたような贅沢さを感じる時間でした。観客と目線が近くなるようにとトークのときもピアノの椅子に座ってお話された三勇士さんのアイデアも名案で、さらには筆者の席はちょうど三勇士さんと目線の高さが合うようなところだったため、いつものコンサートよりずっと身近に感じられるものでした。(こういうものは皆が自分と目が合うと思う錯覚だったりするのでしょうか 笑)

クラシックとジャズの融合といえば、筆者が知るものでは「サン=サーンス:白鳥」や「ベートーヴェン:悲愴」のジャズアレンジなど、中にはテンションが高くアクティブすぎるスワンだったり(笑)イメージがどうも追いつかないものがあります。1st stageの第九"Blue Note Tokyo" オリジナルバージョンがどういうアレンジであったか気になるところですが、実はもし三勇士さんがレパートリーをジャズアレンジされることがあったら好きになれるだろうかと、ちょっとした心配もありました。実際のところはもともと存在するカデンツァ部分で、またそもそも原曲がない即興でブルーノートらしさを表現されるという。音楽のことは詳しくないのですが、クラシック音楽家はそういうものなのでしょうか。原曲を崩すことがないのは三勇士さんらしい演出だったのかもしれませんね。

筆者は魔法の絨毯からなかなか降りてこれず、いつまでも余韻に浸っています。第2弾があるといいですね。その時にはすべてを投げ打つかどうか迷う状況を作ることなく、清々しく1st Stageから拝見したいと思います(笑)

リハーサル映像(第九)



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