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【電力小説】第3章 第4話 競技会

「移動用変電設備 設置競技会」

スズは事務所で競技会の資料を眺めながら、頭を抱えていた。「移動用変電設備の設置競技会……私たちが出るんだよね?」

横に座っていた同期の曽根圭介が、軽快な口調で応じる。「そうそう。こういうの、燃えるよな!」

「燃える? 私はただ緊張するだけなんだけど……。」スズが困った顔をすると、曽根はにやりと笑った。「だからさ、緊張してたら損だよ。いつもの訓練をやればいいんだから。スズだって本番で輝くタイプだろ?」

そこに真壁瑛士先輩が声をかけてきた。「曽根、軽口ばっか叩いてないで資料くらいちゃんと読め。競技会ってのは訓練の延長だが、時間と正確さ、安全性の全てを求められるんだ。」

曽根は頭をかきながら「もちろん読んでますよ~。でも楽しむのも大事じゃないですか?」と笑う。

真壁は呆れつつも、「まあ、曽根の言う通り、楽しむくらいの気持ちでやればいい。ただし、練習はみっちりやるぞ」と締めくくった。

スズは少し肩の力を抜きながら、二人のやりとりを見て思った。「いつもの訓練をしっかりやれば……きっとなんとかなるかもしれない。」


競技会に向けた練習

競技会に向けて、スズたちのチームは繰り返し練習を重ねた。初日の練習でスズは、ケーブル接続の箇所で大きなミスをしてしまう。

「これ、違ってるよ。ここは配線図にこう書いてある。」曽根が指摘すると、スズは「あ、ほんとだ……。配線図、ちゃんと覚えてなかった……」と悔しそうに言った。

真壁はスズに近づき、「最初は誰でもつまずく。配線図を全部覚える必要はないが、次からは確認する癖をつけるんだ」と声をかけた。

その後も、スズは何度か接続ミスや設置順序の間違いを繰り返したが、曽根がさりげなくフォローしてくれた。「スズ、そこは俺がやるから、次の準備しといて!」

「ありがとう、曽根……次はちゃんとやる!」スズは決意を新たに、少しずつ作業を覚えていった。

数回目の練習では、スズの動きが明らかにスムーズになっていた。曽根が笑いながら「お、スズが覚醒してる!」と言うと、スズは照れ笑いを浮かべながら答えた。「何度もやったからね。」

最終練習では、スズが進捗管理を担当。「曽根、次のケーブル接続を進めてください!私は動作確認の準備をします!」と的確に指示を出した。真壁が微笑みながら「立派な現場監督だな」と冗談交じりに声をかけると、スズは少し照れながらも自信を深めていた。


競技会当日

競技会当日、会場には各地から集まったチームが並んでいた。真壁が「今日は練習の成果を見せるだけだ。焦らずにいこう」と声をかけると、曽根が「全然余裕っすよ!」と軽口を叩く。

スズは曽根の態度に少し安心しながら、競技のスタートを待った。

スタートの合図とともに、スズたちは迅速に作業を進めた。真壁がリーダーシップを発揮し、「スズ、水平確認! 曽根、ケーブル準備!」と指示を飛ばす。

スズは指示を受けて機器の設置位置を確認し、「大丈夫、ここでいけます!」と返事をする。曽根はケーブルを持って駆け寄り、素早く接続作業に取り掛かる。

設置作業がほぼ完了したタイミングで、動作確認時にエラーが発生。スズが慌てて配線図を確認し、曽根とともに修正に取り掛かる。

「ここ、接続ミスですね!」スズが指摘すると、曽根が即座に対応。「任せろ、直した! これでテストいけるぞ!」

再テストで機器が正常に動作を始めると、チーム全員がホッと胸を撫で下ろした。真壁が「よくやった。練習通りの動きができてたぞ」と声をかけると、スズは「練習のおかげですね」と答えた。


競技会終了後の問いかけ

競技会が終了し、結果が発表された。スズたちのチームはタイムで上位ではなかったが、正確性と安全性で高い評価を受け、まずまずの成績を収めた。

真壁が振り返りながらスズに問いかけた。「スズ、この競技会が何のためにあるかわかるか?」

スズは少し考えた。「練習の成果を試す場……ですか?」

真壁は微笑みながら首を横に振る。「それもあるが、本当の目的は違う。これは、いざというときに人命や社会を守るための訓練なんだ。」

スズはハッとして答えた。「迅速に設備を設置して、電気を届ける時間を短くする……だから練習してきたんですね。」

「そうだ。だからこそ、お前たちの冷静な対応が大事になる。」真壁の言葉に、スズは責任の重さを感じながらも充実感を覚えた。


新たな決意

スズは、自分の役割を改めて実感し、「いつか本番でもスムーズに設置できるよう、もっと知識と経験を積みたい」と心に誓った。

「次はもっと上を目指そうな!」曽根が笑顔で声をかけると、スズは「うん!」と元気に答え、チーム全員でその場を後にした。

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天乃零(あまの れい)
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