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【電力小説】第3章 第6話 周囲柵修繕工事

「変電所を囲む柵って、こんなに重要なものだったんですね。」

スズは、真壁瑛士先輩の説明を聞きながら現地調査をしていた。変電所を取り囲む周囲柵は、ただの境界線ではない。外部からの不正侵入を防ぐだけでなく、高電圧設備に触れられないようにし、安全性を確保する役割を果たしているのだ。

「特にこの特高部分だな。使用電圧が160kVを超える場合、周囲柵と充電部の距離は6メートル以上、さらに10kVごとに0.12メートル追加する必要がある。」真壁が柵と変電設備の位置を指し示しながら説明する。

「離隔距離を守らないと、感電や事故の原因になりますもんね。」スズはメモを取りながら頷いた。

老朽化した周囲柵は錆び、傾き、部分的に破損していた。特に斜面側では土砂が流れ込んでフェンスが埋もれている箇所もあった。真壁が地図を見ながら続ける。「斜面部分はフェンスじゃなくてブロック塀にする。基礎を強化すれば、土砂災害にも対応できる。」

スズは図面を手に、補強箇所を確認しながら答えた。「ブロック塀なら耐久性が上がりますね。基礎工事が重要になります。」


修繕工事の準備

修繕工事が始まる前、業者との打ち合わせが行われた。スズは、工事の具体的な手順や役割分担について話し合う現場に同席した。

真壁が業者に向かって指示を出す。「支柱はすべて交換。斜面部分はブロック塀を設置して、コンクリート基礎の厚みを確保する。A種接地工事も並行して進める。」

スズは質問する。「A種接地工事って具体的にはどんなことをするんですか?」

真壁は簡単に説明した。「接地抵抗を10Ω以下に抑えるのが目標だ。雷や漏電が発生したとき、電流を安全に地中へ逃がすための重要な作業だ。」

「接地抵抗を抑えることで、設備全体の安全性が確保されるんですね。」スズはその言葉に納得し、次の工程の準備に取り掛かった。


修繕工事の実施

既存柵の撤去
工事が始まり、錆びたフェンスや腐食した支柱が次々に撤去されていった。「こんなに老朽化していたんですね……」スズはその光景に驚きを隠せなかった。

新設工事の進行
新しい支柱が設置され、フェンスの張り直しが進む。スズは進捗状況を確認しながら、特に充電部からの離隔距離が基準通りかを確認していた。

「離隔距離は何メートル必要だ?」真壁がスズに問いかける。「この箇所は160kVなので、最低6メートル以上です。測定したら6.3メートルでした。」スズは自信を持って答えた。

真壁は頷きながら、「いい判断だ。基準を守らないと感電や短絡事故につながる。絶対に妥協するなよ。」と声をかけた。

斜面部分の施工
斜面部分では、ブロック塀の基礎工事が進んだ。コンクリートの厚みと配筋が基準通りか確認し、スズが業者に修正を依頼する場面もあった。「ここ、間隔が少し広いので直してください。」スズの指摘に業者がすぐ対応する。


接地工事と測定

接地極の設置
最後の工程はA種接地工事だった。地中に接地極を埋設し、新しい周囲柵に接地線を接続する作業が進められた。

スズは接地抵抗値の測定を任された。「測定結果は8.5Ωです。基準値以下ですが、もう少し抑えられるといいかもしれません。」

真壁が笑いながら答えた。「その通りだ。余裕があるならさらに下げる方法を検討することもある。例えば接地極を追加するか、埋設深さを増すなどだな。」


工事完了と振り返り

修繕工事は予定通り完了した。新しい周囲柵は変電所全体をしっかりと囲み、充電部との離隔距離も基準を満たしていた。斜面部分のブロック塀も耐久性の高い構造で完成。

スズは完成した周囲柵を見上げながら、「これで感電や外部からの侵入リスクが大幅に減りましたね」と感想を漏らす。

真壁がスズに向かって言った。「周囲柵は単なる境界線じゃない。変電所全体の安全性を支える重要な設備だ。離隔距離や接地工事の意味を学べたのは大きいな。」

スズは頷きながら、「次の仕事に活かせるよう、もっと勉強していきます!」と笑顔を見せた。

こうして、スズはまた一つ大きな経験を積み、新たな目標を胸に刻んだ。


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天乃零(あまの れい)
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