
【電力小説】第3章 第5話 直流所内盤の製作
虻川変電所の老朽化した直流所内盤を更新するプロジェクトが発足した。真壁瑛士先輩をリーダーに、スズ、曽根圭介、他2名の若手メンバーが選ばれた。
「設計から製作まで全部自分たちでやるって、本当ですか?」スズが驚いた表情で尋ねると、曽根が笑いながら答える。「そうだってさ!こういうの、やりがいあるだろ?」
真壁が頷きながら言った。「確かに大変だが、この経験は大きいぞ。ただし、制御盤は動けばいいというものじゃない。扱う人が安全に使えるよう設計する。それを忘れるな。」
スズはその言葉に少し気圧されながらも、曽根の気楽な言葉に少しだけ肩の力を抜いた。「よし、やれることを一つずつやっていこう!」と曽根が声を張る。スズも曽根に釣られるように笑みを浮かべた。
設計フェーズ
プロジェクトの第一段階は設計だった。真壁が全体の進行を指揮し、仕様書を作成する。「直流所内盤は、電源供給と保護機能が命だ。間違いがあれば現場で重大な問題になる。」
スズは部品配置図を担当し、曽根は配線経路図と材料リスト、他2名は制御回路図や電源接続設計を分担することになった。真壁は単線結線図や主要回路の設計をCADで担当し、各メンバーの図面をすべてチェックする役目も担う。
スズが部品配置図を完成させて真壁に見せたとき、曽根が横から指摘した。「この配置、ノイズの影響を受けやすくなるかも。経路をもう少し分けた方がいいんじゃないか?」
真壁も図面を確認しながら助言する。「そうだな。交流(AC)と直流(DC)は配線ルートを完全に分けろ。配線ダクトだけじゃなく、ルートの物理的な距離も意識しろ。」
スズは急いで修正に取り掛かり、完成版を提出した。その後、真壁が細部までチェックを行い、問題のないことを確認。「よし、次は部品の発注だ」と声を上げた。
製作フェーズ
板金加工を請負業者に発注し、完成した筐体がチームに届けられた。金属製の筐体は塗装も施され、ピカピカの状態だった。
「これが私たちの直流所内盤になるんですね……」スズが感慨深げに言うと、曽根が「すげぇじゃん。これが現場で動くんだな」と嬉しそうに応じた。
部品の取り付けと配線作業が始まった。スズは慣れない配線作業で手を止めることが多く、曽根に助けられる場面が増えた。
「スズ、この配線はここだよ。色分け通りにやれば迷わないから。」曽根が指示を出すと、スズは「ありがとう、もっと配線図を確認しないと……」と反省しながら作業を進めた。
真壁も的確な指導を加える。「盤内の配線には白か透明の結束バンドを使え。色分けや線番が見えやすいからな。盤外ケーブルは黒色で結束するのが基本だ。」
スズはその言葉をメモに取り、次の作業に移った。
試験・検査フェーズ
完成した直流所内盤の試験が始まった。曽根がテスターを使って配線の導通試験を進めていたが、途中で問題を発見する。
「ここ、導通がないですね。」曽根が冷静に報告する。スズはすぐに図面を広げ、問題箇所を探し始めた。「この部分、接続が間違っています!」スズが指摘すると、真壁が確認し、「確かにここだな。配線の取り回しを修正しよう」と指示を出す。
全員が迅速に対応し、再試験が行われた。導通が確認され、次に保護機能や動作確認のテストへと進む。
「試験中はどんな小さな異常でも見逃すな。」真壁が注意を促す。「現場ではこれが重大な事故に繋がる可能性がある。」
最終試験で直流所内盤が設計通りの動作を示すと、メンバー全員が達成感を共有した。スズは「無事に動いてくれてよかった……」と笑顔を浮かべた。
現地設置と稼働開始
完成した所内盤は虻川変電所に搬入され、既存設備との接続作業が行われた。スズは安全確認を担当し、曽根は現場での配線作業を進めた。
「動作確認を始めるぞ。」真壁が合図を出し、試験が開始される。結果は良好。所内盤は問題なく稼働を開始した。スズはその様子を見ながら「半年間かけて作ったものがこうして動いているのを見ると、本当に感動します」と語った。
プロジェクトの振り返り
プロジェクトが終了し、振り返りの場が設けられた。真壁が全員を見渡しながら語る。「今回の経験は、今後の現場で必ず活きる。制御盤製作は細部まで気を配ることで全体の信頼性を支える。それを忘れるな。」
スズは「配線作業や設計の奥深さを学びました。これからももっと技術を身につけたいです!」と決意を述べる。曽根も「こういう仕事、やりがいあるよな。自分たちで作ったものが動く瞬間は最高だ」と笑顔を見せた。
半年間のプロジェクトは、スズたちの成長とチームワークを深めるきっかけとなった。次の挑戦へと向かうスズの胸には、新たな決意が光っていた。
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