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【電力小説】第10話 発電所緊急対応


第10話「山奥の発電所緊急対応」


突然の電話

「佐藤、星見川第二発電所でシーケンサーが故障した。すぐに来てくれ。」

スマホから聞こえる上司・古川の声は、緊張感を帯びていた。スズはソファに半ば倒れ込むように座り、飲みかけのハイボールを見つめた。休日の夜、ようやく自分の時間を楽しんでいた矢先の出来事だった。

「すみません……飲んでしまったので、対応できません。」スズは申し訳なさそうに答えた。

古川の声が少し低くなる。「タクシーで構わないから来い。お前が担当者だろう。」

その一言がスズの胸に突き刺さった。飲酒している自分を理由に断ることは、確かに正当な判断かもしれない。それでも、自分が担当している発電所の設備が危機にあるのに動かないのは、技術者として恥ずかしいことだ。

「わかりました。すぐに準備します。」


タクシーで山奥へ

夜の山道をタクシーで走る中、スズは星見川第二発電所の水調装置の重要性を考えていた。

星見川第二発電所は、上流の星見川第三発電所と下流の星見川第一発電所と連携し、水量を調整する要の設備だ。たとえば、星見川第三発電所の取水量が最大になるように第二発電所の発電量を調整することもあれば、星見川第一発電所の発電量を考慮し、全体のバランスを取ることもある。これにより、河川全体の水量管理と発電効率の最適化が図られている。

「この装置が止まると、全体に影響が出る……。」スズはその責任の重さを改めて感じた。


現場での対応

発電所に到着すると、すでに古川と先輩の加藤が作業を進めていた。懐中電灯の光が薄暗い発電機室を照らしている。スズは慌ててヘルメットをかぶり、現場に駆け寄った。

「佐藤、ラダー図を確認しろ。」古川が指示する。

スズはシーケンサーのラダー図を手に取り、動作の流れを追っていった。ラダー図はシーケンス制御の回路図で、接点の状態や動作の順序が示されている。大学でフローチャートを学んだ経験はあったが、ラダー図はそれとは異なり、スズにとってまだ難解だった。

「この接点は閉じてるから……次は……。」スズは必死で動作を追い、可能性を整理していく。

「プログラムや配線には異常がなさそうです。」スズが報告すると、古川が頷き、「原因はハードウェアかもしれない」と加藤に視線を向けた。


原因の特定

「ここに使われている部品、かなり古いな。」加藤がシーケンサー内部を調べながら言った。

やがて、故障の原因が判明した。シーケンサー内のコンデンサーが経年劣化を起こしており、正常に動作していなかったのだ。

「容量抜けだな。これはメーカ対応だ。」古川がコンデンサーの状態を確認しながら言うと、スズは安堵と同時に自分の未熟さを痛感した。

「お前、よく追えたな。もう少しで的外れになるところだったが、方向性は悪くなかった。」加藤が声をかけてくれたが、スズは喜ぶ気になれなかった。「もっと早く原因にたどり着けるようにならないと……。」


復旧と成長

後日、メーカによるコンデンサー交換が行われ、シーケンサーが正常に動作を再開した。交換作業を見守りながら、スズは技術者たちの手際を観察し、設備の構造や仕組みを学んでいた。

「これで水調装置も安心だな。」加藤が笑顔で言うと、スズは少しだけ自信を取り戻したように思えた。

「でも……もっと知識も技術も磨かなきゃ。」スズは設備の重要性を改めて感じ、次のトラブル対応では迷わない自分を思い描いた。


星見川第二発電所は、再び静かに稼働を続けていた。スズの胸には、小さな責任感の種が、少しずつ芽を伸ばし始めていた —。


次回、第1章最終話です

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天乃零(あまの れい)
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