【スカラーインタビュー#1】「デジタルウォレットを活用したスタンプラリーで地域課題を解決したい」
一人目のスカラーは、東京と長野の2拠点で、フリーランスのエンジニアとして活動する砂金優介さん(27)。デジタルウォレットの仕組みを生かしたスタンプラリーの開発を行っており、観光分野から地域課題の解決を目指します。
会社員を経て独立し、東京と長野の2拠点生活を開始
ーーまず最初に、自己紹介をお願いします。
砂金優介です。東京と長野の2拠点で、フリーランスのエンジニアとして働いています。地元は岡山で、信州大学に進学したことから学生時代を長野で過ごしました。
ーー学生時代は何を専攻していましたか?
専攻は地質学です。「地域ブランド実践ゼミ」というゼミに所属していました。地方の自治体の方々や市長にヒアリングを行い、その地域で具体的にどんな活動ができそうか提案をするような実践的なゼミだったので、地域で働く人々の等身大の姿が掴めましたし、自分も地域の中で何かをやってみたいという気持ちが芽生えました。
ーー現在のお仕事はエンジニアとのことでしたが、地質学の専攻からプログラミングの道を選んだのはどうしてですか?
僕は大学に入ってからスマホを手にしたんですが、さまざまなアプリを使ううちに、「アプリを作るにはどうすればいいんだろう?」と疑問をもち、そこからプログラミングの存在を知りました。
スマホを持っていなかった中高生の頃は、プログラマーやエンジニアという職業自体を知らなかったので、研究者を目指していました。でも、いざ大学に入って研究をしていく中で、研究の内容と、それがどう世の中に貢献していくかには乖離があるなと感じたんです。
研究を極めることにもすごく意義はあると思うんですが、僕は学問の道を極めるよりも、世の中にどう役立てるかというところに面白みを感じるんだと気づきました。そんな中で、プログラミングと出会い、仕事にするなら自分はこっちがいいなと思って、今の道を選びました。
ーー経験を重ねる中で、自分に向いている方を選んでいったのですね。会社員時代はどんなお仕事をされていたんですか?
大学卒業後は東京の会社に入り、主にブロックチェーンを用いたシステム設計を行っていました。昨年、自分で事業を作ってみたいという思いから独立し、そのタイミングで暮らしの拠点を長野の塩尻市に移しました。
ーー独立したタイミングで長野に拠点を置いたのはどうしてですか?
学生時代を過ごした長野は、友人も多く、安心感や愛着のある場所だからです。また、長野の地理や環境も大学時代から好きだったので、東京の仕事をしつつ、長野に暮らしの拠点を置く今の生活スタイルに落ち着きました。
ーー今回、EACH EDGEを知ったのはどういう経緯ですか?
本当にたまたまです。学生時代からの友人であり、EACH EDGEのスカラーでもある原さんという方から案内をいただいて、面白そうだと思ったので応募してみました。ちょうど独立したタイミングでしたし、東京からの仕事を受けるだけでなく長野でも何か自分で事業を作ってみようと準備をしていたところだったので、ありがたい機会だなと。
デジタルウォレットの仕組みを生かしたスタンプラリーで地域課題を解決したい
ーーEACH EDGEを通じて、砂金さんが実現したいプロジェクトについて教えてください。
地域のDX推進に携わりたいと思っています。より具体的にいうと、決済やデジタル資産管理などをアプリ上で行える「デジタルウォレット」の仕組みを観光と絡め、地域経済の中で活用できないかと考えています。今は、観光の施策によく使われるスタンプラリーを、デジタルウォレットの仕組みに置き換えられないかと模索しているところです。
ーーデジタルのスタンプラリーは、紙と違ってどんな効果が得られるのでしょうか。
紙のスタンプラリーでは、どんな人が参加したのかという属性や、どういう経路を通ったのか、所要時間はどれくらいかかったのかというデータが収集できません。しかし、デジタルウォレットの仕組みを使えば、アクティビティを提供しつつ、データを集約することができるので、観光施策に活用できます。
ーースタンプラリーに注目したのはどうしてですか?
スタンプラリーは、自分の体を使って行えるシンプルで楽しい仕組みですよね。デジタルであれば、その体感を生かしつつ、スタンプ用紙や景品などの原価を削減できる。すべてデジタルで完結すれば、コストも低く、かつ効果を得られるんじゃないかと。
ーー砂金さんは、観光分野にも興味があるんですか?
観光というよりは、地方で何かやることに興味があります。地方にはまだ手をつけられてない資産がたくさんあります。その分、テクノロジーを活用して、その資産をどう生かしていくかという可能性がまだまだあるのでやりがいがありますし、事業をする上でののびしろを感じます。
デジタルウォレットの仕組みを社会にどう還元していくかというアイディアを固める時点では、カフェや美容院などの個人店を狙っていく案もあったのですが、メンタリングを通して、壁打ちと思考の整理ができ、自分のしたいこと・するべきことの解像度が上がっていきました。どうしても自分一人でやるとなると自分の発想の外に出れないと思うんです。その中で、今回は観光地をターゲットにすることが決まりました。
ーー既にDX化が進んでいたり、いろんな施策が行われていたりする都心よりも、地方でやっていくところに面白みを感じているんですね。今後は実際にどこかの自治体で施策を行っていくのですか?
長野県上田市にある別所温泉で実際に効果を試してみようと準備をしているところです。EACH EDGEのメンターの一人である滝沢さんが、別所温泉の観光協会の福会長さんで、メンタリングを受ける中で、実践の場も設けてくださいました。かなり親身になって伴走してくださり、とてもありがたいです。
自分のやりたいことと、社会が求めていることを繋げていく
ーーこれまで、今回のプロジェクトのように、自分のアイデアを形にしていくという体験はしたことがありましたか?
今回のように自分のプロジェクトを動かしていくというのは初めてですが、エンジニアという仕事は、まさにプログラミングを通じて自分のアイディアを形にしていく仕事だと思います。今は、自分の思ったことをどう実践に落とし込んでいくかというのが楽しく、やりがいをもって取り組めていますね。
ーー実際にプロジェクトを動かしてみて、思ったより大変だったことや、苦労した部分はありますか?
マーケティング的な発想を持ってニーズを拾い上げ、自治体と自分で認識のずれがないようにするのが、今まさに自分が苦労している点ですね。私としては、このプロジェクトを一回で終わらせずに、ちゃんと何かの事業としてビジネスに繋げていくことを目指したいんです。ただ楽しいだけで終わってしまっては取り組んできた意味がない。そのためには、ちゃんと自治体が持っている課題に対してフィットするのかがかなり重要だと考えています。
ーーただリリースして終わりではなく、これから先を見越してプロジェクトを進めているんですね。
効果検証までしっかりやりきりたいですね。これを導入したことで、どれだけ売り上げが増えるかという分かりやすいか効果を示すことができたら、今後他の自治体に対して、アプローチする上でもかなり説得力あるかなと。
ーーまずは別所温泉でスタートして、そこからもっと広い地域で展開していくために。
そうですね。まずは長野で試しつつ、しっかり事業として育てて、長野に限らずいろんなところでも展開していきたいなと考えています。
ーー砂金さんご自身の今後の展望を教えてください。
私個人としては、これまで仕事で取り組んできたブロックチェーン領域に興味があり、今後もブロックチェーンの仕組みを社会に実装していくことに挑戦していきたいです。ブロックチェーンという仕組みは、まだ難しいものと捉えられていますが、社会のインフラになりえると僕は考えています。
今後も、今回提案したスタンプラリーのように、わかりやすいところから社会との接点を増やし、自分のやりたいことと、社会が求めていることを繋げていくような形で事業を回していきたいです。
ーー今後事業を進めていく上で、自分の中で大切にしていきたい価値観はありますか?
なにかを作る上で、自分の作ったものがどう世の中に還元していくのかは常に忘れないようにしたいです。ただ自分で作って、それで終わりではもったいないし、虚しくなってしまうと思うんです。事業としてやる以上、自分のやりたいことをやりつつ、世の中にちゃんと貢献できるものを作ることは自分の中でこれからも外せないなと思います。
ーー最後に、「やりたいことがあるけど、どうしたらいいんだろう」と思っている人に対して、何かメッセージがあれば聞かせてください。
目的がなくても、まずはなにかをやってみることが一番大事なんじゃないかと思っています。全然自分に興味のないことだとしても、やってみたら案外ハマることがあるかもしれませんし、逆に「これは自分には向いていないかも」と気付けるかもしれない。とにかく飛び込んでみることで、わかることがあるはずです。
取材・文:風音