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【スカラーインタビュー#4】「質感と色彩を再現する技術エンジンを開発し、大学発のベンチャー起業を立ち上げる」

「EACH EDGE」は、長野県在住・出身の高校生から若手社会人を対象とした人材発掘・育成プロジェクトです。テクノロジーを活用して、未来の「当たり前」を半年間で形にします。

この連載では、スカラーに選ばれた参加者の形にしたいプロジェクトや、参加した背景、実際にプロジェクト実現のために取り組んできた手応えをじっくり掘り下げます。

4人目のスカラーは、長野大学企業情報学部の3年生の池野太心(いけのたいしん)さんです。

池野さんは、質感と色彩の再現技術エンジン「The SHITSUKAN」の事業化を目指しています。EACH EDGEの活動期間中に行われた、「エンジニア学生のためのピッチコンテスト”技育展”2023」では、見事優勝。大学発ベンチャーの立ち上げを目指して活動する池野さんにお話を聞きました。

質感と色彩を再現する技術エンジン「The SHITSUKAN」

ーーまず最初に、自己紹介をお願いします。

池野太心と申します。長野大学企業情報学部3年生です。長野大学の田中研究室に所属し、CGと色彩工学をかけあわせた技術研究を行っています。

ーー情報系の学部を選んだのはどうしてですか?

情報機器の開発に興味があったからです。僕は野球が好きなんですが、近年日本でメジャーリーグにも対抗できるような選手が育ってきているのは、野球関連の情報機器が発展してきた要因が大きいんです。

例えば、「ホークアイ」という機器を使うと、フォームがどれぐらいズレているのかを観測できます。実際に「ホークアイ」を導入した球団は翌年優勝しました。情報機器の発展によって、これまでは不可能とされていたことが可能になっていくのがとても面白いと感じ、情報機器やソフト開発が学べる学部を志望しました。

ーー池野さんがEACH EDGEを通じて達成したいことを教えてください。

質感と色彩を再現する技術エンジン「The SHITSUKAN」の事業化です。「The SHITSUKAN」は、色彩や光沢陰影を3DCGで再現する技術エンジンです。具体的に説明すると、分光ベースで物理的に実在の物体を計測し、人が物体を認識するメカニズムをコンピューターが同様に認識できるようデータ化して、3DCGで物の質感を光沢陰影まで再現します。

EACH EDGEでは、研究開発のさらにその先、新たな産業の創出を目指しています。今のところ考えているのは、B to Bのビジネスモデルで企業と提携し、技術とノウハウを他分野に応用して提供していきたいと考えています。

ーー「The SHITSUKAN」の開発は、大学の研究室としてではなく池野さん個人のプロジェクトとして行っているのですか?

大学2年生のころから、田中研究室と化粧品メーカーKOSEが共同開発を行っている「メイクシミュレーター」のプロジェクトに携わっていました。「メイクシミュレーター」は、化粧品を肌に塗った場合の色彩から、ファンデーションのマット感や、アイシャドウのラメ感のきらめきなどの光沢陰影までを再現できる技術です。

この技術を化粧品以外にも応用し、技術エンジンとして売り出すことができれば産業の発展につながるんじゃないかと考え、個人で「The SHISTUKAN」の研究開発を始めました。

ーー池野さんは、新しい技術を開発することに興味があるのでしょうか。

開発というよりは、新しい技術を社会に応用していくことに興味があります。たとえば、通販で買った服が、届いてみたら思っていたものと違った、という体験はありませんか? 「The SHISTUKAN」がパソコンやスマホのOSに搭載されるようになれば、服の手触りや色味が画面上で確認できるようになります。そんな風に、自分の開発した技術によって、これまでの「当たり前」が変わっていくことが面白いと感じます。

大学発のベンチャーとして、事業展開を目指す

池野さんは積極的にコンペに参加している

ーーEACH EDGEに応募した背景を教えてください。

正直なところ、研究開発のための資金繰りに苦労していたからです。「The SHITSHUKAN」の開発は、もともと活動費がほぼゼロの状態で始めたプロジェクトでした。アルバイトをして研究費用を賄おうとすると、肝心の研究にかける時間が無くなってしまうので悩んでいたところ、長野大学の地域連携の窓口となっている「地域作り総合センター」の職員の方からEACH EDGEのことを教えていただき、応募をしました。

ーーメンタリングでは、どういった相談をされてますか?

「The SHITSUKAN」の事業化に関しては、田中先生をはじめ長野大学にも支えてもらっており、あとはもう僕が迷いなく活動を進めていけるか次第だと思っています。EACH EDGEのメンタリングでは主に気持ちの部分を支えてもらっています。前回のメンタリングでは、「大きい会社を作ろう!」と励ましていただき、勇気が出ました。

ーー現在、「The SHITSUKAN」のプロジェクトはどういった段階ですか?

今は「The SHITSUKAN」をどうマネタイズまで持っていくかのストーリーを描いているところなので、あとは自分が踏ん切りをつけてゴーサインを出し、大学発ベンチャーとして起業をする段階です。まだ起業後の具体的なアクションがアイディア段階過ぎるという体感があるのですが、一方で、まずは一度会社を興してそこから動いていくことがベストなのではないかと思っています。

ーー「大学発ベンチャー」となることがキーポイントになるのですね。

そうですね。もともと大学の研究技術を移転して扱う話ですし、また大学発のベンチャーとして後押ししてもらえることは、企業からの信頼にも繋がってくると思います。

ーープロジェクトを進めていく上で、池野さんご自身の「学生」という立場はどう捉えていますか?

「学生でよかった」と思うことが多いです。まず、この研究成果は学生だから得られたものですし、学内でも活動を後押ししていただいています。それに、「The SHTSTUKAN」の大元となっている「メイクシミュレーター」の開発は、ゼミの仲間と一緒に進めているのですが、彼らはもう僕なんかいらないんじゃないかと思うくらいなんでもできちゃう人たちで、日々刺激を受けています。そんな環境の中で、学生という立場を生かして日々研究に携われることをとてもうれしく思っています。

ーー学校側との関係性がしっかりとある中で進められているプロジェクトなのですね。

実は、僕が「大学発ベンチャー」を目指している理由はもう一つあるんです。今後、僕が活動を続けて「The SHISTUKAN」を大学発ベンチャーに持っていけたら、長野大学内、ないしは県内や国内の学生の研究活動がもっと活発になるんじゃないかと思っていて。特に地元上田の産業発展に貢献したいですね。

研究室の田中先生が、「アメリカでは、優秀な学生は開発した技術をビジネスまで持っていく」とよく仰っているんです。学生のうちに産業に貢献するような活動をしていくことで、より成長できると。でも、日本の大学ではまだまだそういう文化がない。僕自身、昨年までは自分が学生のうちに起業を目指すようになるだなんて考えていませんでした。

自分の技術で世界がどう変わるかを見届けたい

ーー自分が事業化を成功させることで、ほかの学生たちの研究や事業化も活発になると。

そうなったら、もっとおもしろい技術が生まれてくると思うんです。僕は「エンジニア学生のためのピッチコンテスト”技育展”2023」で優勝し、ある審査員の方に「世界を変えられる技術だね」って言ってもらったことが自信に繋がりました。

正直、この技術が世に出ないのは何かもったいないような気がしています。ただ研究だけで終わらせるのではなく、自分の開発した技術をうまく産業に落とし込んで多くの人に使ってもらうことで、この技術がどう展開していくのか、そしてそこからどんな影響が生まれるのかを僕はすごく楽しみにしています。

ーー今後事業を大きく育てていく上で、池野さんの中でブレずに大切にしていきたい価値観はありますか?

EACH EDGEの中間発表会でプレゼンをする池野さん

大事にしているのは、「研究・技術に敬意を払う」ということです。研究の世界では、よく「僕たちはみんな巨人の肩の上に立っているんだよ」と言われるんです。つまり、今ある研究というのは、これまで研究をしてきた人たちの積み重ねによって可能になっている、と。

新しい技術を開発した自分がすごいのではなく、田中先生をはじめ、色彩工学の研究をされてきた方々がいてこそ、僕の「The SHISTUKAN」があります。これからも、過去の研究に敬意を払うという芯がブレないように、自分の研究を扱っていきたいと思っています。

取材・文:風音

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