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【スカラーインタビュー#5】「行動を起こした人と行動を起こしたい人を繋ぎ、社会問題を解決したい」

「EACH EDGE」は、長野県在住・出身の高校生から若手社会人を対象とした人材発掘・育成プロジェクトです。テクノロジーを活用して、未来の「当たり前」を半年間で形にします。

この連載では、スカラーに選ばれた参加者の形にしたいプロジェクトや、参加した背景、実際にプロジェクト実現のために取り組んできた手応えをじっくり掘り下げます。

五人目のスカラーは、軽井沢のインターナショナルスクール、UWC ISAK Japanに通う高校二年生、上田万葉(うえだまなは)さん(17)。社会問題解決のために行動を起こしている人と、行動を起こしたい人とを繋ぐ社会問題解決型SNS「Change Ring」の開発に挑戦しています。

多様性を生かす方法を知るために、インターナショナルスクールへ進学

ーーまず最初に、自己紹介をお願いします。

上田万葉です。生まれ育ちは福岡で、現在は軽井沢にある全寮制のインターナショナルスクールUWC ISAK Japanに通っています。日本でいうと高校二年生です。

ーーインターナショナルスクールに進学したのはどうしてですか?

きっかけは、中学生のときに出会った英語の先生でした。その先生は、青年海外協力隊として海外で活動した後、世界7カ国を旅して、社会活動に貢献してきた方でした。その先生に出会って、「世界は広いな、面白そうだな」と感じたんです。それから、海外や異文化、社会問題に目を向け始めました。留学も考えましたが、さまざまな文化が集まった環境下で、どのような対立が起きて、どんな解決がなされるのかを体験したいと思い、インターナショナルスクールを選びました。

ーーEACH EDGEに参加した理由を教えてください。

EACH EDGEでのメンタリングの様子

長野県発のプログラムであることが一番大きいです。せっかく長野県にある学校に進学したのに、全寮制なこともあり、ほとんど長野との繋がりがなく、「私は長野でなにをしているんだろう?」というモヤモヤがあったんです。

EACH EDGEでは、県内で活躍する他分野の方からメンタリングを受けられますし、他のスカラーとの交流の機会もあるので、EACH EDGEをきっかけに多様性のあるコミュニティができるのではないかと感じ、応募を決めました。

社会問題を解決するために行動を起こした人と、行動を起こしたいと思っている人を繋ぐ「Change ring」

ーーEACH EDGEで取り組んでいるプロジェクトについて教えてください。

社会問題を解決するために行動を起こした人と、行動を起こしたいと思っている人をつなぐ、「Change ring」というプラットフォームを作ろうしています。

「Change ring」は、「ストーリー」を立ち上げる人と、参加する人で成り立ちます。自分が抱く課題と、みんなが取り組めるような簡単な解決策を一緒に投稿して「ストーリー」を立ち上げ、賛同し、アクションする人を増やしていく仕組みです。

たとえば、「脱プラスチックのためにマイボトルを持ち歩こう」と「ストーリー」を立ち上げ、マイボトルの写真を投稿します。共感した人が、この「ストーリー」にエントリーし、マイボトルの写真を投稿します。100人の投稿が集まると、「ストーリー」の完成です。

ーーアクションを起こした人が「Change ring」上でつながって、増えていく。

名前に「リング」と入っている通り、「つながる」部分を大事にしているので、誰でも参加できるようにするのではなく、まずはエントリーをする仕組みにしました。エントリー後、選ばれた人には通知がきて、ストーリーに参加できるようになります。それからストーリーを投稿し、エントリーしている人の中から次の参加者を選びます。一人ひとりの繋がりが見えるようにするためと、選ばれるうれしさ、そしてコミットしようという責任感を生むしかけです。

ーー「Change ring」のアイディアは、どんな背景から生まれたのですか?

福岡の公立校に通っていたころは、周りに社会問題に興味がある人がほとんどいなくて、社会活動に興味がある人は「なんかいい子ぶってるよね」、「真面目ぶってるよね」という風潮がありました。授業でSDGsについて学習する機会があっても、SDGsの17つの目標をテストのために暗記するだけ。自分ができることを考える時間があっても、「ポスターを作って呼びかける」くらいに落ち着いてしまう。

勉強をするにつれて、マイクロプラスチックの問題や地球温暖化など、「なにかをしないといけない」という気持ちは高まっていくのに、アウトプットする方法がないし、1人でなにかを始めるには気が重すぎると感じていました。

いろいろな団体に参加してみて、「アクティブな子」も存在することもわかりました。でも、いいことをしていてもなかなか社会に広まっていかない。アクティブじゃない層とアクティブな層を両方見たことで、なにか行動している人と、当時の私のように「行動したいけれど行動できていない」という両者をつなげられたら、社会はもっとよくなるんじゃないかと考えました。

ーー現在、EACH EDGEでは「Change ring」実装に向けてどのような活動をしていますか?

EACH EDGEでは具体的なマネタイズの仕方を考えています。また、メンターの先生にアドバイスをいただきながらプログラミングも勉強しています。プロトタイプが完成したら、改めて今の社会にニーズがあるのかも検証し、調整を加えていこうと考えています。

ーーEACH EDGEに参加してみた感想はいかがですか?

EACH EDGE中間発表会での集合写真

これまで参加してきたプログラムと違い、EACH EDGEの参加者には、自分と同じような高校生もいれば、大学生、既に起業してる方、年配の方もいます。今まで自分にはなかった視点での意見をいただけるのが勉強になります。

「Change ring」の、スマホを使うというアイディア一つに対しても、比較するSNSが全く違いますし、さまざまな切り口からの意見が出るんです。それぞれの専門分野があると同時に、その人たちの持つ人生のバックグラウンドがある。その多様さに触れられてとても面白いです。

「当たり前」から幸福と感謝を見出すことが、社会問題に目を向けるきっかけになる

EACH EDGEの中間報告会でプレゼンをする上田さん

ーー今後も事業を育てていく中で、大事にしていきたい価値観はありますか?

初心を忘れないことです。一番最初に、自分がなにを見て、なにを感じて、なにがしたかったのか。プロジェクトが広がっていくほど、自分が一番最初に解決したかったものを見失っていく気がするんです。やればやるほど解決しないといけないことが増えてくるし、できることも増えてくる。その中で、自分の初心を思い出して、物事に優先順位をつけて、しっかり取捨選択をしていきたいです。それを地道に積み重ねていくことでしか、インパクトは起こせないと思っています。

ーー上田さんにとっての「初心」とはなんですか?

中学校のときの周りの環境です。私は、小学生の頃は人生に漠然と不安を抱いていたんですが、中学生になったら勉強が楽しくなってきて、生きるのが楽しくなりました。でも、その一方で、同じ環境にいても、生きることを楽しめていない子たちも周りにいました。それがもったいないなと思ったのが、原体験な気がしています。今通っているインターナショナルスクールでは、みんないきいきして見えるんです。日本の公立の学校で自分が抱いていた課題感が薄れてしまう気がしていて。

ーー誰もがいきいきできる社会を作ることが、軸にあるんですね。

私たちの世界は確かに豊かになってきてるけど、それと同時に失われているものもたくさんある。その中で、自分の好きなこと、解決したい課題や、大切にしていきたいもの……、自分の軸になるものを一つでも見つけて、それに向かって行動できるような社会になったら、きっと一人ひとりが、もっといきいきと生きられるんじゃないかな。

学校でもさまざまな取り組みを行っている上田さん

そのためには、「当たり前」だと思っていることの中から、感謝を見出すことが大切だと思います。例えば、学校に通えること、好きなことを勉強できることが、当たり前じゃない人もいる。私たちの「当たり前」は、本来「当たり前」じゃないはず。

幸福感は、人から与えられるものではなく、自分でどんどん気づいていくことでしか得られない。だから、それにどれだけ気付いていけるかが、自分の人生を豊かにすると同時に、周りの課題についてもう一度振り返るきっかけになるはずです。「当たり前」のものから幸せや感謝の気持ちを見出すことが、なにをする上でも大切だと思いますし、私の忘れたくない「初心」です。

取材・文:風音

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