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【スカラーインタビュー#3】「多様なチームメンバーと協力し、火星探査ロボットを作る」

「EACH EDGE」は、長野県在住・出身の高校生から若手社会人を対象とした人材発掘・育成プロジェクトです。テクノロジーを活用して、未来の「当たり前」を半年間で形にします。

この連載では、スカラーに選ばれた参加者の形にしたいプロジェクトや、参加した背景、実際にプロジェクト実現のために取り組んできた手応えをじっくり掘り下げます。

三人目のスカラーは、信州大学工学部に通いながら、火星探査機開発プロジェクト「KARURA」の日本チームリーダーを努める瀬戸晴登(せとはると)さん。2024年6月にアメリカで開催される火星ローバーの国際大会「URC」への出場を目指し、長野、東京、そしてアメリカから集まった多様なメンバーをまとめています。

ローバーの開発を通じて、次世代の宇宙開発を担うコミュニティを作りたい

ーーまず最初に、自己紹介をお願いします。

信州大学工学部3年生の瀬戸晴登です。2カ国3国籍の学生でローバー(火星探査機)を作る火星探査機開発プロジェクト「KARURA」の日本リーダーを務めています。

ーー「KARURA」を立ち上げたのはいつですか?

2022年の9月です。もともと、ものづくりと宇宙に興味があったことから、将来は宇宙開発に携わり、火星探査ロボットを作りたいと思っていました。そこで、学生のうちからいろいろな国の人たちと繋がり、次世代の宇宙開発を担うコミュニティを作りたいと考えて「KARURA」を立ち上げました。

ーーものづくりと宇宙に興味を持つようになったのはいつからですか?

小学生の頃から、なにかを作って人に喜んでもらうのが好きでした。
特に電子工学にハマっていたので、家庭用のセンサーライトや、簡易的な自動販売機を作っていました。そのころに、「キュリオシティ」という火星探査機が火星の映像の撮影に成功したというニュースを見たんです。自分も、自分の手で作ったもので未知の世界を解明していきたいと強く思ったことを覚えています。

ーー自分の作ったものが人の役に立つ・喜んでもらえる、という部分が瀬戸さんにとって大切なのでしょうか。

そうですね。ただ単になにかを作ったり、わからないものを解明していく過程もすごく面白いのですが、その先に人がいた方がより面白いと感じるんだと思います。

ーーローバーに目をつけたのはどうしてですか?

自分の中の大きな目標として、「国や文化の隔たりなく、自由に宇宙開発ができるような社会を作っていきたい」という思いがあったからです。

ローバーの国際大会「URC」は火星ミッションを想定した大会なので、ローバーの動作や技術だけでなく、チームとしての強度が評価されます。プロジェクトチームを立ち上げ、いろんなメンバーを集めてみんなで一緒に成長してくことができれば、自分の目標に近づけるんじゃないかと感じました。

ローバーの動作実験の様子。

ーーローバー自体ではなく、開発チームそのものが評価される大会なのですね。

そうです。国内では2回審査があり、1回目はチーム運営やマネジメント面、2回目は動画での技術的な要素が審査されます。ほかにも、対外的な教育活動や、資金調達の仕方も選考基準になるので、ただ性能のいいローバーを作ればいいわけではないんです。

ですが、大会で評価されるためでなく、僕たち「KARURA」チーム自体が、いろいろなバックグラウンドを持った人を集めて、対外的にも幅広いコミュニティの人たちと交流することを大切にしています。

ーーそれはどうしてですか?

「KARURA」のアメリカチームのメンバー。普段はzoom等でコミュニケーションを取っている

宇宙開発は、工学や化学の技術だけでは成り立たないんです。さまざまな既存の業界の技術が組み合わさって、宇宙に行くための技術が構築されていますし、今後宇宙で生活していくためには、インフラを整えないといけない、農業をして作物を育てないといけない、宇宙で建物を作るための建築やデザイン、さらにはエンタメ的な要素も……。地球上にある、ほぼ全ての業界の知識や力が必要になります。

マネジメント能力をつけるため、EACH EDGEに参加

KARURAチームで展示会に出展

ーーEACH EDGEに応募した理由を教えてください。

今後どうやってプロジェクトを続けていけばいいのか悩んでいたからです。マネジメントや資金面について第三者に相談し、アドバイスをもらいたいなと考えていたので、ぴったりの機会だと思い応募しました。

「KARURA」を立ち上げてから半年ほどが経ち、日本・アメリカの2拠点で参加メンバーが50人を超えました。これまでも、大学内などでなにかしらのプロジェクトを進める場合は、率先してリーダー的な役割を引き受けるタイプでしたが、規模が大きくなった分、今までのやり方ではうまくいかない部分がでてきたんです。

ーーマネジメント面に課題を感じていたんですね。

自分は人になにかを頼む・任せるというのが苦手で、自分でなんとかしようとしてしまう部分がありました。チーム内で解決できないときに、外部の人に手伝ってもらう、知見を取り入れるということもあまりできていなくて。どうしてもブレーキがかかってしまっていたんです。

ーーEACH EDGEに参加してから、マネジメント面の課題は解決されてきましたか?

EACH EDGEに参加してからは、月1回ぐらいの頻度でメンターの方とお話をさせていただいています。自分のしたことを口に出して誰かに話すことで、自然と次にやるべきことが整理されていくのを感じています。さらに、課題に対する的確なアドバイスもいただけるので、大変お世話になっています。今までは、忙しさに追われて振り返る時間を作ることを後回しにしていたので、定期的にそういう機会を作れていることに大きな意味があると思います。

ーー印象に残っているアドバイスや、それによる変化はありますか?

チームだけでなく、僕自身について考えるように言われたことです。これまで、自分がどうやってチームを回していくかだけを考えていましたが、「KARURA」の活動だけが僕の全てではない。自分がいつか抜けた後も自走できるチームになるための方法や、自分の将来についても考えられるようになりました。

ーー「KARURA」プロジェクト、そして瀬戸さんご自身の今後の展望を教えてください。

「KARURA」の直近の目標は、国内の審査を突破し、2024年6月にアメリカで行われる大会に出場することです。また、僕たちはまだ自分達が開発した独自の技術を持っていないので、チームを次に繋げていくために、自分たちの強みとなるオリジナルの技術を開発し、チームみんなで磨いていきたいです。

僕自身としては、将来的には宇宙開発の探査機を作りたいという気持ちは変わりません。ただ、今はそれをどういう形で実現するかを悩んでいる段階です。

今後、研究室に入って宇宙開発分野での研究を進めていくことになると思いますが、研究の中で「もっとこの分野を極めたい」と思うことが見つかるかもしれないし、そこから新しいビジネスを始めるかもしれない。宇宙開発を目標に据えながら興味のある分野を研究していって、次のアクションを起こしていきたいです。

ーー今後さらにチームやプロジェクトは大きく成長していくと思いますが、その中でブレずに大切にしていきたい価値観はありますか?

EACH EDGEの中間報告会でプレゼンをする瀬戸さん

やっぱり一番は、活動を楽しく続けていくことです。一時期、チームマネジメントがうまくいかなくて、そちらに時間をかけるあまり自分のことがおろそかになり、つらくなってしまった時期があったんです。

今は、メンタリングを通じて自分の活動の意義や、目指したいゴールが明確になってきたので、大変なことがあっても「面白くない」、「苦しい」と感じることはなくなりました。子どもの頃から今まで宇宙開発について時間をかけてこれたのは、自分の中の「楽しい」という気持ちがあったからだと思うので、今後もその気持ちを見失わずに活動を続けていきたいです。

取材・文:風音

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