【スカラーインタビュー#6】「生成AIを活用したジャーナリングアプリで、日々の暮らしを豊かに」
六人目のスカラーは、長野県松本市で暮らしながら、東京の会社でエンジニアとして働く原伶磨(はらりょうま)さん。「自分の暮らしに紐づく何かを作ってみたい」という思いからEACH EDGEに応募し、生成AIを活用したジャーナリングアプリを作ろうとしています。
自分の手の届く範囲から暮らしを変えてみたい
ーーまず最初に、自己紹介をお願いします。
原伶磨と申します。29歳です。東京の会社で、エンジニアとしてシステム開発の仕事をしています。フルリモートの職場なので、生活の拠点は地元である長野県の松本市に置いています。
大学では経済学を学んでいました。卒業後は、松本市内のコワーキングスペースのコーディネーターを経て、フリーランスのライターに。ブロックチェーン領域に興味があったので、リサーチをしつつライティング業務を行ううちに、ブロックチェーンに関するメディアを運営している会社から「エンジニアやってみない?」と誘われて、未経験のところからエンジニアになりました。
ーーさまざまな分野のお仕事を経験されていますが、エンジニアという仕事は自分の中ではしっくりきていますか?
昔からものづくりが好きだったので、そういう意味では今までの仕事の中で一番性に合っていると感じます。また、ソフトウェアを作るというのは、現実の課題を理解し、抽象化してコードに落とし込み、いかに課題を解決するかというプロセスではないかと思うんです。
現実をどう捉えるかによって、課題解決を行うプログラムの実装方法は何通りか考えられることがあります。その中で、最適なものを選んでいく過程に面白みを感じています。
ーーEACH EDGEに応募した背景を教えてください。
キャッチコピーの「『ふつう』を超える、未来をつくる。」という一文に惹かれました。自分はそれを、「自分の持つ技術を使って、手の届く範囲から、自分らしく社会を変える。もしくは社会にアプローチする営み」と解釈をしたんです。そういった感性を持った仲間と出会えたら面白そうだなと。
それに、ちょうどエンジニアとしてキャリアを積み始めた中で、仕事とは関係ない文脈でなにかを開発してみたいと思っていた時期でした。自分で開発を進めることもできましたが、同じくなにかを作る仲間がいて、ちゃんと完成に向けた締め切りがあるのがすごく大事な気がして、応募を決めました。
ーー仕事以外で何かを開発してみたいと感じていたのはどうしてですか?
エンジニアの仕事は楽しくてやりがいがあります。ですが、自分の仕事がスキルアップや給料以外の形で自分の日常に還元されているかというと、そうではないなと考えるようになって。もっと、自分の作ったものが、自分や周りの人の暮らしを豊かにするようなアクションをしてみてもいいのかなと。
日常に溶け込み、日常を豊かにするサービス作りを模索
ーー現在EACH EDGEで取り組んでいるプロジェクトについて教えてください。
生成AIの技術を用いて、日常を記録するジャーナリングアプリを開発しています。具体的に説明すると、AIとの会話を通じてその日あったことを振り返ると、日記としてテキストが記録されていく仕組みです。
ーー原さんは「スキル型」での応募でしたが、どのようにアイディアを固めていったのでしょうか。
応募の時点で生成AIを使ってみたいと考えていたので、EACH EDGEに参加してからの最初の1ヶ月は、まず生成AIを触って基本的な使い方を覚えてみたり、サービスの事例を探してみたりすることから始めました。それから、日常に溶け込んで日常を豊かにするような生成AIの使い方を模索していきました。
具体的になにをやろうかという段階になったときに、思い浮かんだのが日記をつけることでした。「日記を書く」って、振り返る行為だと思うんです。毎日その時間をちゃんと確保することで、自分の半年後や1年後を考える時間も設けられる。
ーー日記を書く行為は、先ほどお話してくださった「豊かさ」の追求につながると。
はい。実際に、昨年の一月から日記を書き始めてみたんですが、忙しいとなかなか「書く」という行為が続けられず、日常化するのは難しかったんです。そこで、「日記を書くこと」と生成AIを組み合わせて習慣化できないかな?と考えました。
僕は書くのも好きですが、喋りながら考えるのも好きなんです。最近話題のChatGPTは、チャット形式でレスポンスを返してくれますよね。生成AIに「今日はどんな一日だった?」と聞いてもらい、そこから会話をする。その内容を日記としてテキストでまとめてもらって、記録として残す仕組みが作れたら面白いのではないかと思いつきました。
ーー自分の実体験をもとにアイディアが生まれたのですね。
そこからは、実現化に向けてアプリ開発の仕方を勉強したり、既存のジャーナリングアプリを触ったり、どんな機能が必要になるかを考えてきました。
普段の仕事でもアプリ開発を行っていますが、僕は「バックエンド」と呼ばれる仕事を担当していて、実際にユーザーが使うアプリ画面ではなく、裏側の機能やデータベースの部分を作っているんです。一貫したアプリ開発を行うのは初めてなので、不慣れな部分は外注するのか、全て自分でやるのかを悩んでいました。
11月に行われたEACH EDGEの中間報告会で、「まずは早く、実際に作ってみた方がいい」とアドバイスをいただいたので、現在は一旦機能面の開発を進めているところです。
ーー原さんは、お仕事をしながら今回のプロジェクトにご参加されていますが、自分の時間を使ってプロジェクトを動かしていくのは大変ではなかったですか?
大変です!(笑)まず、アプリ開発にもいろんなプログラミング言語があります。今回のジャーナリングアプリに関しては、仕事とは別のプログラミング言語を使っているので、一から勉強するのは時間がかかりました。また、毎日まとまった時間が取れるわけではないので、「この間はどこまで進めたっけ?」と思い出しながらやる分ロスも多くて。
でも、面白いですね。EACH EDGEでは、自由にテーマを決められますし、全て自分に決定権があるので、うまくいかないプロセスも含めて楽しみながらやれています。
自分の日常を起点に考え、自分や身の回りの人に刺さるものを作っていきたい
ーーEACH EDGEのプロジェクト終了後、原さんが挑戦してみたいことはありますか?
今後も、生成AIを活用して日常を豊かにする方法を模索してみたいです。今回はジャーナリングアプリという形になりましたが、生成AIを活用したアプリは日常生活のパートナーになると思うんです。AI関連のツールは、どうしても物事をどう効率化するかというビジネス文脈で使われることが多く、「自分たちの暮らしがどう豊かになるか」にそこまで目が向けられていない。EACH EDGEの期間が終わった後も、自分の暮らす松本というローカルなエリアで、生成AIを生活に溶け込ませることができるのかいろいろ実験してみたいです。
ーー原さんにとっての「豊かさ」とはなんですか?
はっきりとはまだわかりませんが、日々の日常に目を向ける余白があることだと思います。皆さん、基本的に毎日仕事や家事で忙しいですよね。少なくとも僕は、目の前にどんどんタスクが降ってきて、気づけば「今やらなくても良いけど、やった方が良いこと」が押し流されてしまうんです。
目の前の「やるべきこと」だけじゃなくて、もっと毎日の生活をチューニングして自分自身に寄り添えたら、暮らしがちょっとだけ豊かになる。そうしたら、長い目線で自分の将来を考えたり、そのためのアクションを取れたりするかもしれない。
ーー今後、自分の中で大切にしていきたい価値観はありますか?
自分の日常生活を起点に考えることです。技術が進んだり、世の中でいろんなことが起きても、自分の生活がまず起点で、自分や、手の届く範囲の人にちゃんと刺さるものを作る。これが、開発に限らず今のところブレたくない考え方です。自分は「広くいろんな人に届けたい」という熱量はあまりなくて、それは別の誰かがやってくれればいい。せっかくエンジニアを楽しくやれているので、自分の感覚や日常生活を大事にしながら、自分も含めた知っている誰かにちゃんと刺さるものを作りたいです。
取材・文:風音