先進的な報告が結集したEACH EDGE中間報告会
2023年11月3日、長野市でEACH EDGEの中間報告会が開催されました。
EACH EDGEプロジェクトのスカラー(支援対象者)に選ばれた若者たちが集い、これまでの成果を共有しました。彼らの報告内容は、EACH EDGEの審査を通過するだけあって、どれも先進的で画期的な取り組みばかり。ここではその報告会の模様をご紹介します。
どのような社会を実現したいか
スカラーの報告に先立ち、特別ゲストの上村遥子さんがオープニングトークを行いました。上村さんは、デジタル広告業界でのキャリアを経て、国内最大級のものづくり支援スペース「DMM.make AKIBA」のコミュニティマネージャーに就任。そこで数多くのスタートアップ企業の支援に携わりました。2020年には「パラレルキャリア」となり、新産業の創出・共創を支援する企業の株式会社サンドレッド、衛星ビジネスの事業開発などを行う宇宙ベンチャー企業の株式会社天地人など、複数の企業で活躍しています。
そんな上村さんが基調講演で伝えたのは、組織の枠を超えて活躍する「インタープレナー(越境人材)」という存在について。組織を越境して「共創」しようという考え方を持つことが、新しい産業を生み出す原動力になると語りました。
また、上村さんは、「目的思考」の重要性も強調しました。自分がどのような社会を実現したいのかをイメージし、その理想とする社会に対して、自分がどのように貢献するのかを考えていくことが大切だというメッセージを伝えました。
報告会に参加したEACH EDGEのスカラーたちにとっては、これからの働き方や社会との関わり方を考える良いきっかけになる基調講演だったのではないでしょうか。
実際の質感を仮想空間でリアルに再現
その後、スカラー同士のグループディスカッションなどで親睦を深めた後、いよいよ本題となる中間報告が始まりました。口火を切ったのは、池野太心さんです。長野大学企業情報学部の学生である池野さんは、質感の再現技術に関する研究を進めています。特に化粧品の質感表現に最適な技術で、仮想空間でのメイクシミュレーションに活用できる技術を開発中です。
池野さんの研究は、単なるリアリティあるCG映像の作成ではなく、実際の質感をCGで再現することを目指しています。この技術を活用すれば、ECサイトで化粧品の効果をリアルにシミュレーションでき、消費者が納得して購入に進めるようになるでしょう。
9月には「技育展 2023」という国内最大級の学生エンジニア向け事業プレゼンコンテストで優勝しました。今後は、この技術を美容品だけでなく医療分野にも応用し、大学発のベンチャーとして活動していきたいと語りました。
人々の行動と社会を変えるSNS
続いて登壇したのは、軽井沢にあるインターナショナルスクール「UWC ISAK JAPAN」に在籍するUさんです(未成年につき匿名で掲載)。Uさんは、「Change Ring」という社会課題解決型SNSを提案し、EACH EDGEのメンターに選ばれました。
Change Ringは、「社会問題の解決に関与したいけれど、何をしたらいいかわからない」という人々の後押しするSNSです。例えば、脱プラスチックのために何ができるか、日本の米農家を支援するためにどんな行動が必要なのか…。具体的なアクションを起こしている人とまだ行動していない人がつながることで、具体的な問題解決の方法に導くことができるのではないか。Uさんは、そんなプロジェクトの背景を説明しました。
Uさんは現在、Java ScriptやPHPを学び、データベースについての学習を進めており、最終報告会に向けてプロトタイプの完成を目指しています。
文化祭の行列を可視化
続いて登壇したのも高校生のグループ。染谷ヶ丘高校に在籍するKさんたちです。Kさんたちは、文化祭の展示ごとの行列を可視化するサービスを提案し、EACH EDGEのスカラーに選ばれました。文化祭での混雑状況がわかりにくいといった悩みから生まれたアイデアで、スマホを使い、展示ごとの待ち状況や飲食物などの在庫状況を手元でチェックできるようにしたり、校内図をデジタルマップで確認できるようにするようなサービスを考えているそうです。
また、Kさんたちは、自分たちの考える技術が文化祭以外にも応用できるのではないかと持論を展開しました。例えば地元である上田市のレジャーマップをデジタルで作成し、混雑状況をリアルタイムに表示できるようなサービスを展開できれば、地域貢献にも役立つのではないか…。そうした展望を語りました。
諏訪湖の水草を分析し分布要因を探る
次に登壇した斉藤諒さんは、信州大学理学部付属の湖沼高地教育センターに所属する修士1年生。現在、諏訪湖の水草の分布状況とその要因について研究しています。
報告によると、現在諏訪湖にはさまざまな水草が生息していて、中にはボートのモーターに絡まってトラブルを引き起こすケースがあると言います。水草の分布要因を研究することで、こうした問題の解消をはじめ、諏訪湖の周りに住むさまざまな人々の生活に貢献できると考えているそうです。
今年は7月と10月に調査を行い、水草の分布状況や水温、水の透明度、水中内の酸素濃度など、さまざまな情報を収集しました。今後は、収集した情報をどのように分析して要因を見つけ出すのかといったことが課題になると斉藤さんは語っています。
火星ローバーの国際大会に挑戦
信州大学工学部の瀬戸晴登さんは、火星探査機(ローバー)の開発に挑戦しています。米国で開催される火星ローバーの学生向け世界大会への参加を目指し、「KARURA」プロジェクトを立ち上げました。このプロジェクトは日米合同の学生チームとして拡大し、瀬戸さんは日本チームのリーダーとして、開発とプロジェクトマネジメントを受け持っています。
大会は6月に開催され、その前段階として12月と翌年3月に書類審査があります。試作2号機のテストもすでに行われており、プロジェクトは着実に進展しているとのこと。並行して、EACH EDGEではクラウドファンディングの活用、資金管理の方法などでメンターのアドバイスを受けていると報告しました。
地域に密着したデジタルウォレット
砂金優介さんは、信州大学理学部卒業後、ブロックチェーン企業での勤務を経て、現在は個人事業主として活動しています。報告会で砂金さんが紹介したのは、独自のデジタルウォレットの開発です。
スマホで決済できるデジタルウォレットは、支払いをデジタル化できるだけでなく、プッシュ通知や顧客分析が可能になる点など、さまざまな発展性を秘めた技術だと砂金さんは語ります。すでに競合が存在する分野ですが、砂金さんは地域の飲食店など小規模事業者をターゲットに据え、少額の投資で導入できるようなサービスを目指しているそうです。
開発は順調に進んでおり、2023年中には一部の企業への導入開始を目指しているとのことです。
暮らしを振り返るためのジャーナリングアプリ
最後に登壇したのは、松本市在住のエンジニア、原伶磨さんです。原さんは普段、ブロックチェーン技術を活用したトレーサビリティ・サービスの開発に従事しています。EACH EDGEで取り組んでいるのは、日々の暮らしを振り返るためのジャーナリングアプリです。このアプリは音声認識やAIを使用し、文字入力不要で日々の振り返りができるよう設計されています。
原さんはフルリモート勤務で、日々誰とも話さず過ごすことがきっかけで、このアプリの開発を思い立ちました。現在は、アプリの方向性や技術選定を進め、アルファ版の完成を目指しています。
お互いの取り組みを共有する貴重な機会
報告会の後には懇親会が行われ、参加者たちは軽食を楽しみながら交流を深めました。この場は、他のスカラーとの意見交換に最適な機会となったことでしょう。
約半日のイベントでしたが、内容の濃い報告会になりました。EACH EDGEのプログラム期間は約半年ですが、期間終了までにどのような成果が生まれるか、楽しみです。
取材・文:小平淳一