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【スカラーインタビュー#8】「水草を研究する大学院生 新たな一歩を踏み出すためのチャレンジ」

「EACH EDGE」は、長野県在住・出身の高校生から若手社会人を対象とした人材発掘・育成プロジェクトです。テクノロジーを活用して、未来の「当たり前」を半年間で形にします。
  
この連載では、スカラーに選ばれた参加者の形にしたいプロジェクトや、参加した背景、実際にプロジェクト実現のために取り組んできた手応えをじっくり掘り下げます。


今回ご紹介するスカラーは、信州大学大学院で水草に関する研究をしている斉藤諒さんです。今回は、斉藤さんがEACH EDGEに参加した思いをじっくり伺っていきたいと思います。

諏訪湖の生態系保全につながる、水草の研究


ーーまずは自己紹介をお願いします。

信州大学大学院総合理工学研究科の修士1年です。大学院では水草の研究をしています。
 
ーー水草というと、具体的にはどんな研究をされているんですか?

諏訪湖という湖に船を出して、事前に設定した各地点の水草を採取したり、その周辺の泥や湖の水などを採取して実験室に持ち帰って、分析したりしています。

諏訪湖での調査の様子

 ーーということは、諏訪湖の水草の分布を調べているということですか?

水草は水深によって分布が違うので、その分布要因を調べています。例えば、水草は植物なので、光合成をします。その光合成をするのに必要な光の強さが水草の種別に違っていて、光がたくさんあるところではないと光合成ができない水草がいる一方、水深が深くて暗いところでも光合成して成長できる水草もいます。
 
今後、諏訪湖の生態系を管理していく上で、どんな水草種が、なぜそこに存在しているのかを調べておく必要があるのですが、私自身は化学成分を調べて、「この化学成分が強いところにはこんな水草種がいる」といった分布要因を研究しています。
 
ーーそれぞれの水草が生育している要因を科学的に説明できるようになるということですね。ちなみに、諏訪湖の生態系にとって、水草はどういう存在なんですか?

諏訪湖において、水草はメリットもデメリットもある存在なんです。メリットとしては、湖の水質汚染の要因になるリンや窒素を吸収してくれるので、水質浄化につながります。デメリットとしては、夏の諏訪湖に来ていただくと見られるのですが、沿岸部にヒシという水草が増えていて……。

諏訪湖に繁茂するヒシ

 ーーヒシというと、忍者が使っていたといわれるマキビシになるものですか?

そうです。ヒシは種の横にトゲがあって、間違って触ると手が傷ついてしまうくらい危険なんです。そのヒシが諏訪湖の沿岸域を一面に埋め尽くすくらい大量に繁茂しているんです。そうなると景観の悪化もあるんですが、諏訪湖の漁業にも悪影響があります。船を沖に出そうとすると、ヒシが船のプロペラ部分にからまってしまうなど、人間生活への影響が出ています。

あとは専門的な話で言うと、ヒシは水面に葉っぱを浮かべる水草なので、その下には光が通らないんですよ。そうすると、他の水草や植物性プランクトンが光合成できなくなってしまうので、生態系にも悪影響を及ぼすことになります。
 
ーーなるほど、増えすぎると困ることもあるんですね。 斉藤さんの研究が進めば、水草が減りすぎたり増えすぎたりしたとき、その原因がわかって対処がしやすくなりますね。

将来に向けて、ITスキルを身につけたい


ーー斉藤さんが諏訪湖の水草に興味を持ったきっかけは何だったのですか

高校生のときに地球環境に関する研究をしたいなと思って、地元の北海道から信州大学に進学しました。学部3年生の後期に研究室に配属されるのですが、その時に諏訪湖の水質全般を扱っている研究室を選びました。

諏訪湖の水質浄化に貢献できるような研究がしたいなと考えていた時に、研究室の教授に「水草なんてどう?」と勧めてもらって、そこから水草の研究を始めました。 

ーーそんな斉藤さんは、なぜEACH EDGEに応募してみようと思ったのでしょうか?

ITスキルを身につけたいと思ったことが一番大きな理由かと思います。私が所属している学部は情報系ではないので、ITスキルを学ぶことができる授業があまりないんです。データ分析をよりレベルの高いものにしたいと思った時に、独学するか、それに詳しい研究室の教授や先輩を捕まえるかしなくてはいけなくて……。新たな切り口からITスキルを伸ばしていきたいなと考えた時に、ちょうどEACH EDGEの募集を見かけて、応募したんです。

 ーーEACH EDGEのプログラムでは、どんなことをやりたいと思われているんですか?

一つは、大学院でやっている水草に関する研究のデータを分析して、その結果をメンターと壁打ちしながら、よりよいものにしていきたいなと思っています。あとは、修士を卒業したら就職する予定なんですけど、I T企業への就職を目指しているので、様々なI Tスキルを身につけてスキルアップできたらいいなと考えています。 

――将来に向けたチャレンジでもあるんですね。プログラムでは、実際にメンターと壁打ちの時間などを持ってみてどうでしたか?

ここまでは湖に出てデータを回収する作業をやっていて、これから本格化するところではあるんですが、メンターの方に自分の研究の課題になっているところを指摘してもらったりしました。

あとは、実際にIT企業で働かれていた経験を聞くことができ、I T業界を目指すにしても「データ分析をやりたいなら、幅広いITではなく、データサイエンティストを目指した方がいい」「幅広くITをやりたいなら、大手よりベンチャーの方がいいかも」など、貴重なアドバイスをもらえました。

コミュニティ の温かさを感じて

中間報告会での集合写真

ーー11月には中間報告会がありましたが、他のスカラーの発表を聞いてみて、どうでしたか?

私自身がITに興味を持ったきっかけがデータ分析だったので、データ分析関連の人が集まるのかなとちょっと軽い気持ちで行ったら、火星探査機の打ち上げや顔の質感再現など、本当にいろいろな分野の方がいて……。自分が思っていた以上に、ITというのはもっと広い分野なんだと実感しました。

 ーーITの幅広さを実感されたんですね。その中で、ご自身の研究を発表してみて、どんな反応がありましたか?

こんな発表でいいのかなと、最初は緊張していて……。でも、発表してみたら「スライド見やすかったですよ」「発表、面白かったですよ」と温かい言葉をかけてもらいました。自分としては「このプログラムを続けていいのかな」と不安に思っていたんですが、ここにいてもいいんだと思えたので、中間報告会はいい経験になりました。

中間報告会で水草の分布調査の進捗を発表

ーースカラー同士は、ライバル同士というより、温かいコミュニティ のような雰囲気があるんですね。

そうですね。ライバルというより、同じ志を持った仲間という感じがしています。もちろん仲間と共に切磋琢磨するんですけど、お互いを認め合って、「いいね!」と言い合いながら、どんどん成長していくようなコミュニティなのかなと感じています。

自分を変えるための一歩を踏み出す

ーーここまでEACH EDGEに参加して、斉藤さんご自身が影響を受けたことなどはありますか?

自分が変わったなと思うのは、人と積極的に関わろうとするようになったことだと思います。1、2年前の自分だったら、たとえI Tに興味があっても、EACH EDGEには応募しなかったと思うんです。

自分は内気というか、人といるより一人でいる方が好きなタイプの人間なのですが、思い切って参加してみて、いろいろな人と話してみる経験ができたのは、自分にとっては大きな意味があることかなと思います。 

ーー多様な人たちと出会うきっかけになったんですね!

はい、やっぱり研究室は閉鎖的な環境になりがちなので、自分が知らなかった分野の人たちと関われたことがいちばん印象に残りました。中間報告会でも「人工衛星を使ってデータを測ってはどう?」「データ分析には目的変数が大事だよね」など、さまざまな方向から意見をもらって、研究室だけにとどまっていたら得られなかった知見が増えていきました。

 ーー大学院の研究ではかなり忙しい日々を送られていると思うのですが、あえて違う環境に飛び込もうとするきっかけが何かあったのですか?

いま研究と同時に、就職活動もしていて、時間がないのが悩みです。でも、一歩踏み出してみようと思ったきっかけも就職活動が始まったことですね。

就職活動を始めて、「学生時代に頑張ったこと」などを自己分析して振り返る機会を持ったとき、胸を張って「これが私の学生時代に最も頑張ったことです」って言えることがないなと思ったんです。それは、自分で積極的に何かを動かそうと思ってこなかったからだと気づいて……。

自分で積極的に何かを動かしてみることで、いままでの自分の価値観が少しは変えられるかもと思ったことがきっかけです。

 ーー学生時代を振り返ってみて、新しいチャレンジをすることを決められたんですね。大学院、就職活動、EACH EDGEと忙しい日々の中で、息抜きとかはできていますか?

趣味で、AtCoderという競技プログラミングコンテストに参加しています。そこで優秀な成績を収めると、企業と面接ができたりもするので、最初は就職活動のために始めたんですけど、ゲーム感覚で楽しくできるので、週に1回続けています。 

ーー趣味と言いつつ、スキルアップの機会にもされているんですね!目的意識を持って、新しい一歩を踏み出した斉藤さんの挑戦を、応援しています。今回はお話を聞かせていただき、ありがとうございました!    

取材・文:大宮まり子

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