シリコンバレーの企業で働くのに必要な英語力(1)
留学時代と合わせると25年間、米国のカリフォルニア州に住んでいる。シリコンバレーの企業で働き出してから、かれこれ20年以上になる(年がバレますが)。
英語に関しては、やっとここ数年で「楽」になった気がする。「楽になった」という意味は、メールやチャット、会議での発言を苦労してひねり出さなくても、自然に出るようになったということだ。(それでもプレゼン前はリハーサルが必須だし、重要な文書等は夫にチェックしてもらっている。)
「小さい頃に米国に来たんでしょう?」と言われることもあるが(赤面)、シリコンバレーだからこそ許される英語力だと自覚している。文法や発音の細かな間違いなど毎日のことだし、人知れず時々自己嫌悪に陥っている。所詮、20歳以降に移住してきた人間は、ネイティブスピーカーのようにはなれないのだ。しかし、ここはシリコンバレー。人口の半分以上がアメリカ国外生まれというこの地では、インド訛りやロシア訛りのある「外国人の英語」が罷り通っており、それを理解することが必須、そして暗黙のマナーなのだ。
勿論それでも、達しているべき「最低限のレベル」というものがある。それをじっくり考えてみた。シリコンバレーのIT企業で支障をきたさない「英語のレベル」とは一体何なのだろう?
部署や役職にもよるが以下のようなものだと個人的に思っている:
⓵対面でもオンラインミーティングでも、他の人々が「努力しなくても理解できるような」話し方ができること--- つまり論理的に話せて、発音やイントネーションにひどい欠陥がないということ。聞き続けるのが辛くなるようなアクセントは、もう害悪の領域だ(聴く人々に余計な努力を強いるのだから)。同じく、論理的であることはシリコンバレーでは外せない。これは母国語力の問題でもある。母国語でわかりやすく話せない人は、外国語では余計無理ということは言わずもがなだ。
⓶Slackなど社内チャットツールで、短時間で誤解を招かないやり取りができること — これも1の論理性と関連している。また、高校までに習った文法と語彙力も必要。
⓷文法やスペルのミスが少ないビジネスメールが書けること —アクセントに理解のある人でも、文法やスペルミスには厳しい人が実は多い。特に昨今は文法チェックやスペルチェックができるアプリが標準なので、ミスがあれば「不注意な人」、「教養のない人」と見なされる可能性がある(そしてそのことは、家族以外誰も指摘してくれない。)
⓸業界や社内で使われるアクロニムを知っていること(バズワードもある程度)---SNSの世界で沢山の略語が使われるように、シリコンバレーでも色々な略語や業界用語が日々飛び交っている(例、TL;DR 、IMO、”オーガニック”や”エコシステム”という言葉の使われ方)。それを知らずにいちいち検索していたら非効率的だし、常識を疑われる可能性がある。
(ここからは”ボーナスポイント”となるが)
⓹受信者やトピックにより、トーンや語彙を使い分けられること
⓺否定的な内容を伝える場合など、センシティブな内容のメール等は、失礼にならない効果的な語彙と文型を使えること。
この二つは、ネイティブスピーカーのやり取りを長期間観察しないと体得することが難しいかもしれない(ドラマ鑑賞でも可能かも)。これに関して一つ思い出すのは、日本の最高学府を出て、米国のトップ大学院でMBAをとった元上司だ。彼は文法、語彙とも問題はなく、発音も日本人らしさが残るものも明瞭で流暢だった。問題は、彼の「トーン」だ。技術畑出身ということもあり、彼のコミュニケーションは非常に端的で、時にはそれがアダとなった。上級の幹部になれば、微妙なやり取りを他部署としなくてはいけない。社内政治という類のものだが、彼の話し方にはwould やmightが少なく、冷たい紋切り型に聞こえた。「I don't agree with you.」「I don’t think you have a point.」などという発言を聞いた時は、こちらが思わず冷や汗をかいてしまった。どんなに頭が切れて正論を言っていたとしても、「失礼な奴」と思われてしまえば会社でのコミュニケーションは台無しだ(そしてそのことを誰も指摘してくれない)。
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