信達譚 いい電
おふくろが救急だ。まだ詳細不明だ。高速で渋滞はまってるよ。あの病院だと思う。
こころ穏やかに、とはいかないけど、福島に着いたらすぐ見舞いだな。
見舞いの前に事故ったりしたら元も子もないと思いながら飛ばしていると信達に着いた。
病院に直行すると無事に面会はできた。意識もあったんだが、俺は面食らっていたんだ。病室にずっといることもできなかったぐらいだ。
集中治療室にいる自分を見ているようだったから。
時間の問題なんだろう。己のことはわからないからな。週明けまでは福島にいる予定だが、気力と体力が持つのかどうか……
こんな時は、反転だ! ネガとポジで。今こそ、『レイブ・トラヴェラー』の写真だ!
実家に戻ってみたら、写真どころか小学校の作文が出てきて頭を抱えていたんだが。
今日「NOTE」に書いた文章もそうだけど、ひとりで取りみだしてるのはわかっているんだ。
ネガからポジへ。点から線へ。
ネガとポジって、最近は通じそうもないだろう?
おびただしい量の原稿用紙も、ただの落書きの紙くずに思えてきた。それでも読み返しているんだが、「チェルノブリⅡ」の主人公が置き手紙に書いた、「先行くぜ」、については前に送ったよね。
先の先は、ここだ!
ところで君はどこにいるんだい?
仕事中なのはわかっているのに、わざと慌ただくしている感じかもしれないけど、来週またすぐ来るよ。毎週来ることになるはずだから。
今日も毎週高速道路を飛ばしながら、ケミカル・ブラザーズの CDをずっと 聴いていたんだよ。
来週も月曜日に面会だけど、君は忙しいかな? そら忙しいよな。
実は十月末に面会してみると、母はもう尊厳死のような状態に入っているんだ。
一緒に見舞った叔父が話していたけど、この病院って、昔xx町にあったらしいんだよ。
元々は、母が生まれた町の人が作ったみたいなんだ。
今時「病気じゃない」老衰の老人を受け入れてくれる病院は少なくなってるからな。姥捨て山みたいなところかと思っていたけど、がんじゃなくて、末期医療をしている医師の説明を聞きながら、あれはあれでたいへんな仕事だと思ったよ。
xxとかxxは認知症で施設にいると入院お断りなのかな? xx病院はかなり手厚いケアはしてくれる数少ない病院のひとつだけど、入れない人もいるみたいなんだ。
ともかく、母のほうがまだまだ元気なぐらいなんだから、むしろ、僕の体力と気力のほうが問題だね。
それでもなんとか小説の執筆に戻ってみたら、おかしなことが起きていたんだよ。
xx病院は「xx町」に元々あったんだ。母とよく散歩していた電車通りのすぐ近くだった。路面電車が通っていた頃なら掛田驛からは確かに行きやすい場所だったはずだ。
母がどうしてあれほどxxに通っていたのかも合点がいった。二十歳の母はあの近くにあった会計事務所で働いていたんだ。
それから、路面電車の地図を見ながらわかったんだよ! xx病院は「いい電」のすぐ近くじゃないか!
しかもだぜ! ここってぼくが作品を書いている部屋のすぐ近くだった
(リンク入る) 琥珀山 宝積寺/伊達晴宗公墓所 | 南奥羽歴史散歩
さっきようやく電車通りから歩いてみたんたんだ。阿武隈川で世羅が流されたすぐ近くだ。
信夫山に兵器工場があったじゃないか? あそこにはもう入れないけど、実験爆弾が落ちたのもこのへんだ。稲荷神社から信夫山までは戦時中にできた地下通路が通っているからな。途中に公安がある通りだよ。
見舞いに行く時に車で通ったけど、今でもラジオの電波にスクランブルがかかってるのは噂に聞いてたとおりだった。
見舞いから戻ると君のメールが届いていた。
「しかし、なあ、星空の宇宙全体から見たら、がんってなんなんだろうね。
星空の宇宙からしたら人間って何なんだろうね。
意味わかんないよ。
苦しみとか何なんだろう。
宇宙からしたら。
宇宙全体が生物の投影のはずだろうけど。
宇宙自体が生きてる?
わかんないな」
急いで返信するのが精一杯だった。
「リスボンは延期だ。母が亡くなった」
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