菊池寛『真珠夫人』
『文藝春秋』を創刊し、さらに『芥川賞』『直木賞』を創設した菊池寛。
彼を流行作家にした新聞小説が『真珠夫人』(大正6年)です。(2002年に話題となった昼ドラの原作とのことですが、昼ドラは、物語の展開も役柄の設定も大きな脚色がなされていて、全くの別物のようですね。)
巻末の川端康成の「解説」にもあるように、『真珠夫人』は「通俗小説」であり、「『純文学的』な見地から評釈し、解説することは、余り妥当ではない」のかもしれませんが、個人的には、昨今の直木賞作品の読後感に似た、大衆性の中に純文学性の匂う作品として面白く読みました。
デジタル大辞泉で『真珠夫人』は、
と紹介されていますが、瑠璃子が妖婦を演じるしかなかった運命や、瑠璃子の選んだ復讐がもたらす結末など、どれもが瑠璃子自身が傷つけられるものばかりであるのが何とも切ない物語でした。
瑠璃子が社会から「男の血を吸う、美しき吸血魔」と見られようとも、彼女の真意やその悲劇的な末路を知る読者にとって、初恋への操を守り続けた彼女の行為は、まさに純な宝石であり、「真珠」のように穢れないものです。瑠璃子の描き方に、世間的な(男性的な)評価と、(女性の)本質との違いを突きつけられたような気がしました。
持てる者や男性が優位の世の中は変わろうはずもありませんが、彼女の「真珠」性を理解する直也が、彼女の無垢さを引き継ぐ美奈子を庇護するだろう今後に、救いをみたような気になりました。表も裏もまごうことなき「真珠夫人」は、美奈子で完成するのかもしれません。