よしもとばなな『サーカスナイト』
2013年の新聞連載時は、毎日楽しみに読んでいました。秋山花さんのイラストも魅力的で、イラストの全てが書籍の挿絵にはならないだろうなと思うと捨てられなくて、結局209回の連載をとっておいた作品でもありました。
再読してみて、毎日新聞で少しずつ読んでいくのと、作品として通して読むのとでは、それぞれのエピソードの重さ加減が違っているなあ……とその印象の違いに驚きました。(詳細を忘れていただけ……という話もありますが……笑)そういう意味では、二度別の楽しみ方ができるのが新聞小説なのかも……と改めて感じました。
よしもとばななさんと言えば、「死」とか「この世の神秘」といったものが、日常の中にすっと書き込まれるのが特徴的な作家さんという印象なのですが、『サーカスナイト』も、主人公さやかの周りにある数々の「死」や、さやか自身の持つ物の記憶を読み取るサイコメトラー的能力などなど、まさによしもとばななさんらしい一冊となっています。
もちろん、綺麗事だけでは終わらない現実やら、バイオレンスやらもあるのですが、新聞小説ならではのゆったり感が、「生きてるかぎり、ちゃんと生きたいなあ」とまっすぐに生きている主人公たちの息づかいにピッタリとあっていて、読者も「ちゃんと生きる」ことの幸せを感じ、また「ちゃんと生き」たくなってきます。
さやかの故郷である「バリ」が癒やしの場としてあり続けていることも象徴的で、もしかすると、『サーカスナイト』は、様々なものに渇いてきている現代人たちを癒やすおとぎ話として、紡がれていたのかもしれません。