薬丸岳『蒼色の大地』
8作家による競作企画「螺旋プロジェクト」の中の一作品。朝井リョウさんの『死にがいを求めて生きているの』、そして、伊坂幸太郎さんの『シーソーモンスター』に引き続いて手に取りました。初めての薬丸岳さんですが、これまで薬丸作品を原作とする気になる映画やドラマと出会っていて一度読んでみたいと思っていたので、興味深く読み始めました。
日本で起こる「海族」と「山族」の対立構造を描くプロジェクトのなかで、『蒼色の大地』はこれまでの二冊以上に両族の協調の可能性に軸をおいた作品だと感じました。灯、鈴、新太郎といったメインの登場人物たちの、同族へ一辺倒にはならない他族への協調的な態度。一方で、明らかな対立を生じさせているのが、実は統率するもの同士の私憤ともいえる狂気である事実。
本当に逃れらない対立などというものはどこにもなく、争いとは人間個人が自由意思の中で選び取ってしまった結果なのではないか。そしてまた、私たちが争いの強い渦に巻き込まれてしまうのも、その弱い意志故なのではないか。対立しなければならない運命などどこにもない、自らの意志で抗い続けるべきだ、という作者からの願いのようなメッセージを受け取った気がしました。螺旋プロジェクト以外の、本来の薬丸岳作品も読んでみたくなりました。