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認定日本語教育機関の申請のためにこれからやるべきこと

先日、「認定日本語教育機関」の第1回目の申請の認定結果が出ました。

第1回目ということもあって、今回は、様子見をした機関も多かったと思います。今回の認定結果は、今後申請を考えている学校にとって、大変気になる結果です。

そこで、今回の認定結果を受けて、今後、日本語教育機関(特に「法務省告示機関」)が何をするべきかを考えてみたいと思います。


認定結果の概要

今回の認定結果は、以下のとおりです。

  • 申請機関総数 72件

  • 認定とした日本語教育機関 22件

  • 不認定とした日本語教育機関 3件

  • 審査中に取下げを行った日本語教育機関 36件

認定された22件のうち、法務省告示機関(以下、告示校)から、新たに文科省の認定日本語教育機関の認定を受けたのは、現在、870校超ある告示校のうち、たったの7校です。それ以外の15校は、系列校も含め、新規校ということになります。

文科省からは、2024年10月の第2回目の申請状況も公表されました。

申請したのは、48機関です。その内訳は以下のとおりです。

  • 留学のための課程:46機関(法務省告示機関:16機関、大学別科等:0機関)

  • 就労のための課程: 2機関

  • 生活のための課程: 0機関

道のりは、かなり遠いなあという印象です。現在の告示校が経過期間中に認定を受けることができるのか、少し不安になってきます。

認定の要となるのは、教務主任

今から2年ほど前の記事になりますが、以下の記事を書きました。

当時は、「日本語教育機関認定法」について検討されており、パブコメの募集もされていました。この記事では、今後、「認定日本語教育機関」として文科省の認定を受けるためには、「日本語教育の参照枠」に沿ったプログラムを策定する必要があることを指摘しています。

そして、このときに、非常に重要な役割を果たすのが、専門性の高い「コーディネーター」の存在であり、「コーディネーター」レベルの専門人材の確保が急務だということを述べています。日本語教育機関ににおける「コーディネーター」とは、教務主任のことです。

実際、今回、文科省から出された所見を読むと、「認定日本語教育機関日本語教育課程編成のための指針」や「日本語教育の参照枠」に対する十分な理解が必要なことや、教育課程編成の際の整合性、また、教員の研修体制について問われているものが多いという印象です。どれも教務の中身に深く関わってくる内容です。

文科省のヒアリングでは、主に教務主任が対応することになります。教務主任が、「日本語教育の参照枠」をどれだけ深く理解しているか、教育課程をどれだけ考え抜いて編成しているか、またその教育課程を実行するだけの組織体制が構築されているかが問われることになると思います。教務主任は、非常に責任が重く、負担の大きい役割を担うことになります。

「日本語教育の参照枠」や教育課程編成に対する見識にとどまらず、組織づくりという点も考慮し、認定日本語教育機関を作り上げるということは、告示校にとっては、新規校以上にハードルが高いプロセスが要求されると思います。

なぜなら、既存の告示校は、現在進行中の教務運営、カリキュラムを止めることはできません。教育課程の編成のために学生募集をストップすることもできません。教務主任には、日々の業務を行いながら、「日本語教育の参照枠」を理解し、現在の教育課程を編成し直し、それを現行の教務体制に落とし込んでいくことが求められています。現行のカリキュラムと、大きく方針変更することが必要になるかもしれません。

それに加え、登録日本語教員の認定を受けるための手続きや経験者講習を受講することも必要になります。どう考えても、キャパオーバーです。

認定のために、告示校が今やるべきこと

そこで今回の記事では、「認定日本語教育機関」の申請準備にとりかかる前に、今、告示校がやるべき、具体的で、尚且つとても重要な提案をしたいと思います。

私が提案したいのは、以下の3点です。

  1. 教務主任の業務負担を減らし、教育課程編成に集中できる体制を整える

  2. 教育課程編成にあたるための時間を確保する

  3. 教育課程編成のためのチームを作り、チームで編成作業にあたる

編成作業にあたり、最も重要なのは、時間の確保です。そのためには、これまでやっていた業務のいくつかを「辞める」という判断が必要になると思います。これまで、なんとなく進めてきたけれども、なんのためにやっているのかわからず形骸化している業務や、なんとなく違和感を感じつつも、学生や職員に求められてやっている業務などもあるはずです。このような業務を見直し、思い切って「捨てる」という決断から始めてもいいかもしれません。いずれにしても、数年後には、新しい教育課程がスタートするのですから、必要ない業務はやらないという決断が必要だと思います。

そうやって、時間を捻出したら、編成のための時間をスケジュールに組み込んでしまったほうがいいと思います。そうでないと、「人」相手の仕事は際限なく、業務が割り込んできます。

そして、教務主任一人に、この重責を担わせるのは、あまりにも不合理です。チームで編成作業にあたることによって、教務自体が成長するきっかけになります。その学校ならではの新しいアイデアが出てくるかもしれませんし、何かを創り出すという作業は、本来、とても楽しいプロセスです。教師の中から、興味のある人を募ってもいいと思います。(もちろん有償で)

そしてこれは、経営サイドにお願いしたいのですが、「認定日本語教育機関」として認定を受けた際には、教務主任に「成功報酬」を支給してほしいと思います。教育課程を編成し直すということは、大きな組織改革を意味します。最低でも1年単位のプロジェクトとなります。そのプロジェクトのPM(プロジェクトマネージャー)の役割を果たすのが教務主任です。実際に、認定を受けるまで業務も責任も増すのですから、インセンティブがあって当然でしょう。教務主任個人の責任感だけで乗り切れるものではありません。

「認定日本語教育機関」として、今後安定的に留学生を受け入れていくためには、実質あと3年で、申請にこぎ着けなければなりません。認定を受けなければ、「留学」の在留資格を得ることができないことを考えると、遅くとも2028年の4月までに申請しなければ、学生募集が厳しくなると思います。

これから認定を受けるにあたり、告示校ではやらなければならないことがたくさんあります。所見にあるように、理解不足と思われる点も多々発生するでしょう。しかし、告示校にとって、これは組織改革を伴うビックプロジェクトです。既存の組織を変革するには、トップダウンでは難しいのではないかと思います。教育課程編成、そして実行のための体制づくりから考える必要があるのです。

「日本語教育認定法」の施行にあたり、組織全体の改革が必要になるという点は、あまり言及されていませんが、現場を回す教務主任や教員にとって非常に大きな負荷のかかる施策です。貴重な専門人材が潰されないように、理解のある関係者が増えることを願っています。

今回も、最後までお読みいただきありがとうございました。

共感していただけてうれしいです。未来の言語教育のために、何ができるかを考え、行動していきたいと思います。ありがとうございます!