『実は…』な物語 1
『アリとキリギリス』
夏のあつい日。せっせと食べ物を運ぶアリさんたち。
「みんな がんばれ~!冬のためにも今ががんばる時だ~!」
はたらきアリの隊長が叫びます。
アリさんの行列が歩いていると、どこからか歌声が聞こえてきました。
キリギリスさんです。
キリギリスさんは、いつもギターを持って大きな声で歌っていました。
次の日も、また次の日も葉っぱのうえや木のうえで楽しそうに歌います。
「キリギリスさん。いつも歌ってばかりだけど、冬の食べ物は大丈夫なの?」
一匹のアリさんがたずねると、
「おれは歌うのが仕事だからね。冬はなんとかなるだろう」
そういってまた歌いはじめました。
それから秋がすぎ、落ち葉が雪におおわれる冬。
アリさんたちは集めた食べ物のおかげで、寒い外に出なくても楽しく過ごしていました。
トントン。
扉をたたく音がするのでドアを開けてみると、キリギリスさんが立っていました。
「アリさん。少し食べ物をわけてくれませんか?」
「なに言ってるんだよ。夏に歌ってばかりで働かないからこうなるんだろ?キミにあげる食べ物はないからね」
ドアを閉めようとすると、女王さまがやってきました。
「ちょっと待ちなさい。その方を中に入れて食べ物をさしあげるのです」
「でもこのキリギリスさんは遊んでばかりいたのに…」
「いいえ。ずっと働いていたあなた達は知らないかもしれませんが、キリギリスさんはただ遊びで歌っていたわけではないのですよ」
実は…
夏のあつい日。キリギリスさんが毎日歌っていたのは、ある場所で歌を披露するためでした。
広い広い草むらにはたくさんの虫たちが住んでいて、その中には独り暮らしのお年寄りや、親をなくした子供たちもいます。
そんな子供の1人だったキリギリスさんは、少しでも寂しくないようにとそういう家に行っては歌い、楽しい時間を届けて回っていたのでした。
「そのおかげで元気に暮らせているひとが、まわりにはたくさんいるのですよ」
「そうだったのか。キリギリスさんは凄く良いことをしてたんだね!」
アリさんたちが次々と拍手を贈ります。
「そんなに凄くないよ。僕は歌うのが好きだし、それが僕の仕事だからね」
キリギリスは恥ずかしそうに笑いました。
「それじゃあ一緒にごはんにしましょう!」
女王さまの声にみんな大賛成。
「ありがとうございます」とキリギリスさん。
「勘違いしてごめんなさい」とアリさんたち。
それからアリとキリギリスは、毎日仲良くしく過ごしました。
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