レナール1

『副業で絵本』絵本の文章ができるまで

2017年。僕は絵本作家として急にデビューしました。

どういうこと?と思われるかもしれませんが、ある一本の電話がかかってくるまでは絵本作家になるなんて考えてもいなかったのです。

2016年11月末。幼馴染のイラストレーター中川から「オリジナルの絵本を作りたいから文章を考えてくれ!」と電話がありました。何年か前にも同じ依頼があり絵本の文章を書いたのですが、前回と今回では内容が全く違っていました。

1回目は「絵本をテーマにした展覧会をする予定で、オリジナルストーリーの作品も出したいから」との依頼。
昔から絵本は好きだったし物語を考えるのも好きだったので軽い気持ちで引き受け、『ありがとうっていいな』というお話を書いたのですが、ただただ何かを作ることが楽しくて「いつかこれが仕事になったら面白いやろな!」と二人で話してた程度でした。

ところが2回目の電話では「出版社の人にオリジナルの絵本を見せるから文章を書いてくれ!」だったのです。
あまりに突然のことで状況を把握できませんでした。
詳しく聞いてみると、中川が絵を担当した絵本『わすれんぼうのサンタクロース』の売れ行きが順調で、編集の方から続けて絵本を出したいのでオリジナル作品があれば見せて欲しいと連絡が来たらしいのです。
「それを僕が書いて大丈夫なん?」と素直に出た言葉に対し                            「だってボクは文章を書かれへんけど、永吉は書けるやろ!」っとあっさり。
この何の根拠もないのに自信満々で他人を巻き込むときは、昔から中川が本気になってる証拠なので引き受けることにしました。

こんな形で僕は、ノウハウも知識も無いまま絵本作家の道を歩むことになったのです。

前置きが少し長くなってしまいましたが、ここから『なんにでもレナール!』の文章ができるまでを書きたいと思います。
絵の方は中川がすでにここで投稿しているので、読んでみてください。

文章を書き始めるにあたり中川から「できあがった文章に合わせて絵を描くよりストーリーを自分の中で膨らませて絵を描きたいから、おおまかな文章にしてくれないか?」という要望があったので、設定と内容を箇条書きしたもの(絵本のタネ)を作ることに。それを3つ作って送った中から選ばれたのが『ナンニデモレナール!』でした。こんな感じ↓

これを元に中川と話をしながらどういう絵本にするかを考え、それを絵にし、その絵に文章を書く。そこでお互いに思ったことがあればその都度言って訂正するスタイル。こういう形で絵本を作っていくのは珍しいのかもしれませんが、一冊作っただけの初心者と全くのド素人という2人なので、どういう作り方が正解なのかもわからず、選んだ進め方でした。

絵のイメージで悩んでいた中川が「良いのが出てきたからラフのダミー(下書きのようなもの)送るわ!」と連絡が入り、はじめて自分の考えた設定に絵がついたもの見ることに。恥ずかしながらこの時まで【ラフのダミー】がなにかも知りませんでした(汗)

届いたダミーを見てびっくり!公園の子供たちが森の動物たちに変わっていたのです。でも舞台が変わっただけで一冊の絵本としては僕がイメージしてたものにかなり近く、これがストーリーを膨らませて絵を描くってことか!と感心しました。嬉しくなった僕は一気に文章を書きます。それを中川に送り、中川が編集の方に送りました。

数日後、作品を気に入ったので企画会議に出して下さるという知らせが届き大喜びしたのも束の間、いきなり僕に試練が。。。

『なんにでもレナール!』を読んで下さった方は知ってると思いますが、絵本の中に魔法使いレナールのおまじないで変身した動物たちがセリフを言うシーンがあります。でもはじめに僕が書いた文章では読み手の目線でのセリフになっていたので、これを来週の企画会議までに動物目線のセリフにしてください。というのです。

一度考えてGOを出したものは、なかなか頭から消えません。なので急に動物目線でのセリフと言われても頭の中がパニックになり全くセリフが出てきませんでした。でもリミットは1週間。企画会議に出してもらうためにもなんとか書くしかありません。悩みながら「なんだか作家さんみたいだなぁ」と自分でもわけのわからない状態でギリギリ間に合わせることができました。

企画会議の結果、出版社からのOKが出たのでいよいよ本格的な制作がスタート。この時までは中川を介してのやりとりだったのですが、ここからは文章担当として編集Kさんと直接やりとりすることになりました。

今ある文章を出版できる文章にするためにいろんなところを直していくのですが、一番はじめに編集Kさんから届いたメールの1文
「扉の部分はタイトルが入るので文章は入れないで、見返し裏に入れるようにしたいです。」
というところで、すぐに首をかしげました。
扉?見返し裏?ってどこ?
わかる人は笑ってやってください。それも知らずに始めたのです。
その時に覚えたのが、
扉→タイトルの入った絵本の1ページ目
見返し→表紙と扉の間にある絵などが書かれたページ
見返し裏→見返しの扉側の空白のページ
奥付→作者のプロフィールなどが書かれた最後のページ
という専門用語でした。

これを理解したうえでとりあえず最初に取り掛かったのが≪絵でわかることは文章にしない≫ことでした。

例えばこのページ。僕が最初に書いた文章は
「おや、ブタさんが きのみをつかって おままごとをしていますね」
だったのですが、木の実は絵で見ればわかることなので省きましょう!ってことになり、このページ以外でも
「ゾウさんが いけで みずあそびをしています」や「ワニさんが まるたにのって かわをくだってきます」など登場シーンすべてのページに説明的な言葉があったので削ることに。
そうすると
「おや、ブタさんが おままごとをしていますね」
になります。でもこれだと少し寂しく感じたので次に書いたのが、
「おや、ブタさんが たのしそうに おままごとをしていますね」でした。
これを編集Kさんに送り、返ってきた課題が≪楽しいなどの形容詞を使わずに楽しさを表現すること≫でした。
これには相当悩みました。文を長くして楽しいことを書き足すならかんたんですが、こどもが読む絵本なのでなるべく短い文の方がいいと思い「楽しい」に変わる単語を探します。だけど「○○そう」ばかり浮かんできて、なかなかいいのが見つかりません。

そこで自分が好きな絵本にはどんなものがあるかを考えていたときに気づいたのが、読んでる時のリズムの心地よさでした。
なので擬音を使ってみることに。すると
「おや、ブタさんが トントン おままごとをしていますね」
になりました。
どうでしょう?なかなか良くなったんじゃないでしょうか。
この調子で動物の登場シーンは場面にあったリズムを優先することで進んでいきました。

その次は、ダミーの時点から最終ギリギリまで悩むことになったセリフについて書きたいと思います。
これは本当に時間がかかりました。この絵本の面白みはごっこ遊びをしている動物たちが「なりたいものになれる」ということ。それが叶ったとき彼らが何をいうのか?が見せ場になってくるので最高のものにしなくてはなりません。そのぶん納得のいくものがなかなか出てこず、1番時間がかかったセリフは一文で2か月もかかってしまいました。

noteに書くために最初に書いたセリフを読み直してみましたが、こんな感じです。

ブタさん「どんどんつくるから おなかいっぱいたべてね!」
ネズミさん「え~ これがせかいいちきれいな にじいろちょうちょ です」
ウサギさん「うちゅうって すごくきれい!それにとっても きもちいい!」

よくこんなので企画会議に通ったなぁと思います…でもその時から一文字も変えずに採用されたセリフがありました。それがこのページです。

 「つぎはハチミツえき~おいしいえき~!」

このセリフは始めから編集Kさんも気に入って下さっていて、ほかのセリフもこの文章のように、「らしさ」と「楽しさ」が入ってるものにしてください。と連絡がきたので、それに寄せる作業にかかりました。

まず「らしさ」を出すために各職業の人が言いそうな言葉を考え、それの組み合わせて「楽しさ」を出せればと、思いつく単語をノートに書いてみました。
ところがコックさん。消防士さん。船長さん。忍者。はなんとなくに出てきたのですが、昆虫博士と宇宙飛行士はなりたいと思ったことがないうえにごっこ遊びすらしたことがないので何を言いそうなのか全くわかりません。適当に出してはみるもののしっくり来るのは出てきませんでした。
書いてればそのうち出てくるだろうと、とりあえず今出てきているもので組み合わせてみて、編集Kさんに送ってみることに。

ブタさん「できたー!カレーハンバーグポテトグラタン めだまやきのせー!」
ネズミさん「ちいさなせかいで いきてるって すごいことなんだ!」
ウサギさん「どこまでも ひろがるせかいで ぼうけんだー!」

するとセリフの訂正箇所と、こんな感じはどうですか?という例文が送られてきたのですが、その訂正箇所が見事に自分でも納得していない場所ばかりだったうえに合格のセリフが1つもなかったので、そのまま送ってしまったことが情けなくなりました。

これじゃダメだ。失礼になるから納得のいくものを書いて送らねば。と奮闘するものの、本当にこの単語がベストか?この言葉を使いたいけど子供が読んでわかるだろうか?など新しく出てきた案に自信が持てず一層悩みました。なので出てこないのは後回しにして出てくるものから完成させるつもりで書いていきます。
限界まで考えて書く→送る→訂正と提案→考え直し。を何度も繰り返し、1文も書けない日が何日か続くこともありました。やっぱり初心者には無理だったんかな?もう編集Kさんが提案してくれたセリフでいいんじゃないの?など諦めの気持ちも出てきはじめ、自分の中でどれが良いのかわからなくなってきたころ、はじめて3人揃って打ち合わせをすることに。

そこでセリフでかなり悩んでいることを話し、書き溜めたセリフを全部見せてみました。すると「これいいじゃないですか!」という声が。中川もそのセリフに賛同。
悩みに悩んで自分ではボツにしたセリフたちのなかに良いと思ってもらえるものがあったのです。自分では選ばなかったけれど、苦労して出したセリフの中に良いものがあった!それだけで嬉しくなり後ろ向きになりかけていた気持ちが一気に前向きにかわりました。
そのままこれからの方向性の相談をしたところ、編集Kさんから案が出てくること出てくること。いつもはメールなので要点だけを伝える形だったのですが、会話としていただいたアドバイスはどれも素敵で、聞いているだけでそれは楽しい!と思えるものばかり。最終完成に反映された案がたくさんありました。
そしてなにより編集Kさんが作者二人以上にこの作品のことが好きなんだということが痛いほど伝わってきました。

絶対このチームでいい作品をつくるぞ!

そう心に誓い、打ち合わせで方向性が決まったのでまた文章作成にとりかかります。
ブタさんのセリフは読めると嬉しい、聞くと言いたくなる、そしてどんな料理か気になる。ものを選んで

「オーロラいろの スパゲッティーを ケチャップといためて
ゆきみたいな ホワイトソースと いっしょに 
こんがりやいた タンタンナポリタングラタン!」

となりました。単語選びと組み合わせ苦労しました。
ウサギさんは、宇宙飛行士というよりもウサギのイメージを強めに

「ほしから ほしへ ジャンプして
つきへ おもちつきに いくんだピョン!」

になりました。こうして次々とセリフが完成していったのですが、ネズミさんの昆虫博士のセリフだけがなかなか出てきません。
そんなとき絵の下書きを見ていた4歳の息子が
「虫のほかに、恐竜とかお魚の絵はないの?」と質問してきたのです。
生き物が好きで、いろんな種類の人形を大切にしている息子らしいなと思いながら、あることに気づきました。

「虫でも恐竜でも魚でも、好きな人にとって全部は宝物なんだ!」と。

そこから博士っていのは、ずっと宝物を探し続けている人がなるんじゃないだろうか?という考えに行きつき、いろいろ書いてみることに。
「みつけたものは ぜんぶ たからものなんだよ!」
これだとさすがに離れすぎているので、
「こんちゅうさがしは、たからさがし~!」
にしてみましたが、「さがし」がカブるうえに博士にしては軽すぎます。
そこで出てきたのが
「こんちゅうさがしってね いろんな たからものさんたちとの
かくれんぼなんだよ!」でした。
これはいいかも!と思い編集Kさんに連絡すると、
「これはきましたね!」と嬉しい反応。だけど、これをもうひと押し博士らしセリフにしたいです。と言われ2人で考えた結果できたのが

「けんきゅうってね、いろんな たからものたちとの
かくれんぼなんだよ!」

でした。このセリフに2ヵ月。何度も壁にぶつかりそれを乗り越えて完成したので、なんとも言えない嬉しさと同時に限界って自分で思うだけのことなんだと気づかされました。

時間がかかったセリフもなんとか完成し、いよいよ仕上げに入っていきます。
このとき僕は、登場シーンもセリフもいいものが書けたので、直すところなんてそんなにないだろうと軽く考えていましたが「文章を書く者としての最後の詰め」を学ぶことになりました。

編集Kさんから来たメールは「句読点の位置と有無を確認したい」という内容。

例えば
「おや、ブタさんが トントン おままごとを してしますね
こんなときには おまじないです 
『ナンニデモレナール!』」

どこか変だと感じるでしょうか?

この文章のはじまりは「おや、」でいいのか?それとも「おや?」の方がいいのか?
また「おまじないです」の後ろに「。」は要らないのか?
どちらでも文章は伝わりますが、作者の呼吸をしっかりと文章にするために全部見直してくださいということでした。

ノートに文章を書いているときは句読点に気を付けて書いていたのですが、メールで文章を送り、それを編集Kさんがダミーにレイアウトしたデータで送ってくださるときは、いつも読みやすいようにスペースや改行をしてくれていたので、それに甘んじて句読点を気にしなくなっていたのです。
↓がレイアウトしたデータ。

このメールを読んだとき、
「いいアイデアを考えて、ストーリーを書くだけじゃ作家とは言えませんよ」
と言われている気がして、まだ終わっていないのに少し気が緩んだ自分が恥ずかしくなりました。
気を引き締めて句読点を見直します。最後の最後にチェックにするのが言葉ではなく「、」「。」「!」「?」だとは全く思っていなかったのですが、声に出して読むことが多い絵本にとってこれほど大事なものはないことを教えていただきました。

これで『なんにでもレナール!』の文章が完成したわけですが、嬉しさというよりホッとした気持ちの方が大きかったです。

自分でも書く力の無さを痛感しながら進んできました。編集Kさんがいなければ絶対こんないいものは作れてなかったと思います。
本当に感謝しかありません。

こうして幼馴染コンビで作った絵本が出版され、僕は絵本作家としてデビューしたのです。
書き終わったとき嬉しさをあまり感じませんでしたが、本屋に並んでいるのを見たときは、やっぱり最高でした!

そしてデビューしたからには、二作目三作目と絵本を出せるように、いろんなストーリーを考え、このnoteでみなさんに読んでもらうことで次に繋げていきたいと思っておりますのでよろしくお願いします。

かなり長い文章になりましたが、最後までお読みいただき本当にありがとうございました。
下手な文章ですが、今から絵本をつくりたいと思っている方にとって少しでも役に立つものになっていれば幸いです。

そして最後に、この『なんにでもレナール!』をいろんな人に知ってもらうためアニメーションを作ってYouTubeにアップしておりますので見ていただけるとうれしいです!そしてもしよろしければFacebookやTwitterでシェアしてやってください。

そしてほんとに最後に『なんにでもレナール!』を読んでみたいと思ってくださった方がいればAmazonから購入できますのでチェックしてみてください。

今後ともよろしくお願いいたします。

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