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さよなら原美術館

先日原美術館に行ってきたのでその記録を。
既存部と増築部の融合がとても素敵。

1.原美術館とは

*建築概要*
・名称:原美術館
・所在:東京都品川区北品川 4-7-25
・設計:本館・渡辺仁、増築部・磯崎新
・用途:旧・住宅、現・美術館
・構造:RC造一部S造
・竣工:1938年

美術館の理事長原俊夫氏の祖父の住宅として1938年に建てられた住宅です。
1979年に当時としては珍しい現代美術を扱う美術館として開館しました。
1988年に美術館に現在併設してあるカフェ(カフェダール)とホール(ザ・ホール)が磯崎新によって増築。
同年、群馬にある磯崎新設計の「ハラ ミュージアム アーク」が開館しました。
2003年に「原邸」としてDOCOMOMO JAPANに選定されました。
そして2021年1月11日に惜しまれながらも閉館し、原美術館ARC(ハラ ミュージアム アーク)に作品は移転します。

引用:原美術館HP
http://www.haramuseum.or.jp/jp/hara/about/

2.建物構成

平面はアール(展示空間がある)と長方形(コインロッカー・トイレ・ミュージアムショップがある)とが組み合わさった形状です。

展示は2階から巡り、階段を更に上ると3階の展示空間(*)に続き、また1階に戻るといった動線です。
1階にはカフェ(7 カフェ ダール)とホール(9 ザ・ホール)が増築され、中庭を眺めることができます。
(*部屋の用途は分かりませんが、水平投影面積が建築面積の1/8以下なので法規上は2階建扱いなのだと思います。)

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1階 平面図
1:玄関
2:受付
3:ザ・ミュージアムショップ
4:コインロッカー/トイレ・多目的トイレ
5:ギャラリー I
6:ギャラリー II
7:カフェ ダール
8:トイレ
9:ザ・ホール
10:中庭

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2階・3階 平面図

1:ギャラリー III
2:ギャラリー IV
3:ギャラリー V

引用:原美術館HP 平面図
http://www.haramuseum.or.jp/jp/hara/visiting/

3.既存部と増築部の融合 ー既存部 展示室ー

既存はRC造、増築はS造なのでもちろん作られ方から異なりますが、一体感のある空間となっています。

尚、今回の展示「光―呼吸 時をすくう5人」(会期:2020年9月19日[土]-2021年1月11日[月・祝])では写真撮影は不可でしたので、原美術館のHPから引用させていただいた写真と私のスケッチで拙いですがご紹介を・・・

では、既存の方から。

久門剛史「Resume」2020年
ギャラリーの様子

引用:原美術館HP 写真:久門剛史「Resume」2020年
http://www.haramuseum.or.jp/jp/hara/exhibition/741/

既存は展示空間となっており、アール形状の壁面が印象的です。
RC造だからこそできる自由な曲面で、白い塗装の壁面に自然光があたる瞬間はとても綺麗です。

天井にはスポットライトがついていますが、壁面に合わせてアールの線上に設置されています。
通常美術館の天井にはライディングレールにスポットライトをつけることが多いのですが、ここのスポットライトは一つ一つ天井に直接設置されています。自由なアールの線上に配置できるメリットがあります。
おまけに点灯部分が小さく、”いわゆるスポットライトらしさ”の存在感はありません。一つ一つにスイッチがついており、点灯箇所を選択できます。
スポットライトのイメージは下のスケッチ上部。

210108 原美術館ギャラリーⅴスケッチ
ギャラリーⅤ

ちなみにこの空間、斜めに白いボードが設置されており、これによって緩やかに動線を作り出しています。
天井点検口は目地タイプで、空調もブリーズタイプなので目立ちにくく、白い空間に展示作品が映えます。

4.既存部と増築部の融合 ー既存部 階段ー

2階から3階に上がる階段ですが緩やかな螺旋(アール)状となっています。
階段を構成する踏面・手すりの形状が全体構成に合わせアールで統一されています。

階段の様子(アートアジェンダのURL飛んだ左から2番目で見れます)

手すりは木で温かい印象で、階段一段目と二段目以降の踏面は石の色を変えています。ちなみに1→2階へ上がる階段とも色を変えています。素材を変えることで空間を切り替え、上部へ向かう期待感をもたらしてくれます。

確かにこの建物、バリアフリー対応はないのですが、階段は使う人に配慮されています。手すり形状は端部アール加工で台形の形状。階段も蹴上180mm。段鼻にはスリップが数本入っています。しかも全てかっこいい。。

階段上部からは間接照明の光が、壁面のガラス窓からは自然光が入り込みますが、壁面の白い塗装で光が反射し(クロス貼りではこうはならないので)、温かくも幻想的な空間となっています。

ちなみにガラス窓は170角でして、これは外壁の30角(多分!)タイルからきている寸法です。

210108 原美術館階段スケッチ
階段スケッチ

5.既存部と増築部の融合 ー増築部 カフェー

さて、やっときました増築部分。
こちらはS造なので鉄骨柱・梁で軽やかに表現されています。

中庭からカフェを眺めるとよくわかるのですが、軽やかに表現されているからこそ既存の展示空間が彫塑的に見え、これ自体が展示物のようにも思えます。

画像10

引用:原美術館HP
http://www.haramuseum.or.jp/jp/hara/about/

カフェダール(原美術館HPより)
カフェダール

引用:原美術館HP
http://www.haramuseum.or.jp/jp/hara/cafe/

写真左側は新設の窓があり中庭を眺めることができます。カフェの窓はガラス4枚一ユニットで全面開放でき、中庭と連続した空間となります。写真右側は既存外壁のタイルがあり新旧一体となった空間となっています。

210108 原美術館カフェダールスケッチ
カフェダールスケッチ

軽やかさを作るために柱は115φ。天井は柱・梁から鉄骨を持ち出して支え、窓サッシの方だてはガラスで柱裏にひっそりと入っています。部材同士の縁を切ったような表現にしており、既存RC造であった壁・床・天井・窓が一体となった表現とは異なります。

カフェ ダールのロゴも可愛いです。円と直線を組み合わせた幾何学の形状です。(スケッチ中央)

あと、おそらくカフェの黒い窓サッシは既存のサンルームの黒い窓枠を踏襲していると思われます。

既存部 サンルームの様子(美術手帖からURLで写真見れます)

6.コロナ禍 美術館の存在に感謝

「光―呼吸 時をすくう5人」という展示でしたが、建物自体もその空気感を楽しめました。

マスクをしながらの観賞は五感が一部失われた状態ですが、それでも外壁のタイルは光によって輝いて見えますし、内部は光と一体となった展示で素敵でした。

210108 原美術館外壁
外観写真
原美術館での展示 撮影:武藤滋生 ⓒ Lee Kit, courtesy the artist and ShugoArts
ギャラリーI

引用:原美術館HP 撮影:武藤滋生 ⓒ Lee Kit, courtesy the artist and ShugoArts
http://www.haramuseum.or.jp/jp/hara/exhibition/897/


最後に、コロナ禍で外出がしにくい中、美術館があって本当によかったなぁと思っています。
なんと言っても作品を見るといった性質上、作品に集中するために人との間隔確保は必須ですし、作品を保護する観点でも換気はしっかりしています。
ただ、どこも参加型の作品は大変なんだろうな。。どうかこれからも楽しい展示が沢山見れますように・・・!

そして原美術館、素敵な空間をありがとうございました!


おわり



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