マジックに歴史あり

「片倉会ってのがあってよう」

師匠・佐藤喜義から漏れ聞いていたマジシャン【片倉雄一】氏。
師匠を通して氏のマジックや功績を習った。
片倉氏の作品【THE DAKKAN】は師匠から習った2つ目のカードマジックであり、いまだに僕のレパートリーに入っている。
いまだに思う、昨日今日マジックを始めた素人に教えるマジックじゃないな、と。

↓THE DAKKANの動画(ハンドリングアレンジ佐藤喜義・まっさん、パフォーマンスまっさん)


師匠から漏れ聞いた片倉氏について
・片倉雄一という若くて才能あるマジシャンがかつていた
・多くの名作と呼ばれる作品を発表した
・片倉会という会を開催していた
・マジックショップで働いていた
・若くして自死を選んだ

最近、片倉雄一氏の遺稿と足跡をまとめた書籍が2冊発行された。
氏のマジックを演じる者として、迷わず購入を決めた。
マジックのトリックについての本は山ほどあるが、歴史、しかも個人の歴史についての本は驚くほど少ない。
それがアマチュアマジシャン(プロのマジックパフォーマーではないマジシャン)なら尚更である。
先ほど、足跡をまとめた本を一気に読み終えた。

片倉氏が活動していた1970〜80年代はプロを志すクロースアップ(テーブル)マジシャンにとって不遇な時代であった。
至近距離・少人数に見せるスタイルのクロースアップマジックは、かつてアマチュアのマジックと呼ばれた。
鳩が出てくるような派手なステージマジックと違い商売にならなかったからだ。
2000年前後にようやく、前田知洋氏などの活躍により、プロとしてのクロースアップマジシャンが確立していった。
かくいう私もクロースアップマジシャンではあるが、現代においてもクロースアップマジック1本で食べていくのはきついので、状況に応じてステージマジックも演じている。

片倉氏が活動していた時代、クロースアップマジックを職にしようとすると、デパートなどのマジックショップ売り場かマジックショップの販売員しか選びようがなかった。
ちなみに当時発売されていたクロースアップマジックが解説された書籍の著者はほぼアマチュアマジシャンである。
もっとも、特に当時のアマチュアマジシャンは化け物級の知識を持っていたりするのだが……。
片倉氏もそんな化け物級のアマチュアマジシャンの1人であった。

マジックショップ勤務とは言え、一介の会社員であった彼の足跡はあまり残ってはいない。
まもなく没後30年を迎える彼の正確な誕生日や彼が埋葬されている正確な場所も、今となっては不明なようだ。
お子さんもおらず、マジシャンとしてではなく一個人・片倉雄一氏を語れる人はもういないのかもしれない。

しかし、彼のマジックは今現在も演じられ、彼の名前はマジシャン同士の会話でたびたびあがる。
マジックは有名無名問わず、今までマジックを守り発展させてきたマジシャン達の共有財産である。
彼のマジックの遺伝子は確実にマジック史に刻まれている。
私もマジックに携わる者として、マジックを汚す事なく彼のように後続のマジシャンに何かしらの良い遺伝子を残したいものである。
今日は彼の足跡に想いを馳せつつ、彼のマジックを演じようと思う。

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