飛んで火に入る夏の虫
側から見ていて、なぜか大変な環境を選択する人がいる。その世界が良いからと語り、輝かしく見える世界に入っていって、ボロボロになってその中から出てくる。
飛んで火に入る夏の虫とは、明るさにつられて飛んで来た夏の虫が、火の中に突っ込み、焼ける事を例えたコトワザである。自分から進んで災いの中に飛び込むことの例えである。
私は夏の虫だった。輝かしいからと惹かれて研究開発職に携わり、新しいモノを開発してきた。そんな中で、人にこたえて疲れた。辛かった。火だるまになった。ボロボロになって火の中から出てきた。今は休職中である。あと少しで丸焦げになるところだった。
夏の虫でも、火の中に突っ込んで行かない虫がいる。木についた蜜をすする。明るいところに飛び込むわけではなく、暗闇で、自分の嗅覚で、蜜を探す。
夏の虫はよく動く。あっちの光に行ったり、こっちの光に行ったり忙しない。ついには火に突っ込むことなく、飛び回ることに疲れて、地面に落ちる虫もいる。明るいところには多くの虫が集まる。競争が激しい。
対して、暗闇でノッソノッソとゆっくりと動く虫がいる。太い木にとまり、一歩一歩あゆみを進める。ゆっくりでも匂いをたどって進んだ結果、蜜にありつく。お腹いっぱい蜜を食べる。満たされる。大きくなる。その虫が持つ角は大きくなる。
時には、蜜に近づいてきた他の虫にも出会う。大きな顎がある。蜜を分け合い、お互いにユニークな身体をしている。どっしりとしており、力強い。様々な形、色、姿をしているものがいる。
夏の虫はそんな時でも、火の中に進もうとする。周囲の虫をかき分けて、それを気にする様子もなく、無理をする。ぶつかる。エサに永遠に到達することができず、傷つくばかりである。
夏の虫とゆっくり動く角や顎を持つ虫の違いは、安心しているかどうかである。前者は不安である。目立つものに吸い寄せられる。後者は安心している。自分の感覚を信じて、密を見つける。特徴的な姿になる。
夏の虫が安心するためには、ゆっくり休むことである。休めば、自分の嗅覚を思い出す。自分の嗅覚に従えば、蜜を吸うことができる。カブトムシやクワガタのように、多彩の姿になり、力強く生きられる。