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è(エ)発刊記念インタビュー IKEUCHI ORGANIC株式会社 代表 池内計司さん しんどいことは美しい。そう思い突き進んだ50代。

 è(エ)発刊にあたり取材をお願いしたのは、編集部が尊敬してやまないIKEUCHI ORGANIC代表の池内計司さん。最大限の安全と最小限の環境負荷を実現したタオルで国内のみならず、海外にも熱烈なファンを持つIKEUCHI  ORGANIC(以下、IKEUCHI)を築き上げた人。今回、こんにちのIKEUCHIの方向性を決定づけた代表的タオル「オーガニック120」をとおして、その立ち上げとともに過ごした50代について語ってもらった

フラストレーション

 テキスタイルの安全性に関する世界基準、エコテックス規格100の中で最も厳しいクラス1をクリアし、「赤ちゃんが口に含んでも安全」な「オーガニック120」。それは「風で織るタオル」と呼ばれ、100%風力発電によるグリーンエネルギーでつくられている。

 そんなIKEUCHIが、いわば究極の安全性と環境性を誇る「オーガニック120」をつくり始めたのは1999年、池内さんが50歳のときから、その物語がはじまる。

 それまでのIKEUCHIは主に高度なジャカード織の技術を生かし、問屋からの注文を受けてタオルハンカチのOEMを行なっていた。よくデパートで売られている、有名ブランドのロゴが入ったデコラティブで小さなタオルだ。今のIKEUCHIしか知らない人には想像できないかもしれない。「うちは80年代は欧米輸出用のタオルをつくり、90年代に入ってOEMを始めました。そのおかげで経営は安定していたものの、つくりたいものをつくれないというジレンマがあったんです」。

 問屋の意向に合わせ、毎年200種類もの新デザインを出さなければならないことにもフラストレーションを感じていたという。「その反動もあったんでしょうね、『オーガニック120』を発表したとき、このタオルのデザインは永久定番と宣言しました。今思うと、すごくええ格好してましたね」。ところで、池内さんが環境を意識したタオルをつくるのはこれが初めてではなかった。「この7、8年前にエコマークを取得して自社ブランドを始めたのですが、オーガニック製品についての認識も知識も足りなくてすぐにやめました」。

京都ストアに陳列されているIKEUCHIのオーガニックコットンタオルの原点「オーガニック120」。

痛烈なダメ出し

 「オーガニック120」がお手本としたのはデンマーク生まれのグリーンコットンという、世界有数のオーガニックコットンブランド。厳格な基準にもとづくものづくりを支えたのは、1992年にIKEUCHIを含む今治のタオル関連7社で立ち上げた染色工場。廃水を海水よりきれいに浄化する、世界のどこに出しても恥ずかしくない工場だ。しかしグリーンコットンの創業者、ライフ・ノルガード氏から痛烈なダメ出しを食らった。「この工場にはカネの臭いがするだけで環境に対する心が感じられないって言われたんです。『ああ、その通りだよ』って言い返しましたけどね。たぶん向こうは悔しかったんだと思いますよ、予想以上に進んだ工場を見せられて」。

 のちに腹を割って話しあい、ノルガード氏とは友人になった。そして、彼から学んだ科学的・客観的事実を積み上げて製品を冷静に自己評価し、さらなる高みを目指すという思想はIKEUCHIのものづくりの基本となる。

ガチマニアと切磋琢磨

 IKEUCHIの新機軸とすべく生み出した「オーガニック120」。だが、売れなかった。時代に先駆け過ぎたのかとにかく売れず、それゆえ社内の不満も少なくなかった。「タオルハンカチのOEMを続けていたので、その売り上げにおんぶに抱っこでした。『オーガニック120』はあんたの道楽だと散々いわれ、そのたびによその社長はベンツに乗ってるのにぼくはプリウスや、なんか文句あるんかと言い返していました。今では笑い話ですけどね」。

 もちろん、売れないからといって手をこまねいていたわけではない。「オーガニック120」の安全性と環境性を高めるため、2001年に先述したエコテックスへ検査を依頼。2002年には「原子力発電がイヤ」という理由で中小企業としては初めて、自社の電気をすべて風力発電に切り替える。その間にはガチなエコマニアとの次のようなやり取りがあった。「皆さん展示会に来られては、タオルはもとより電力や宣材の環境性についていろんな指摘をされるんです。で、こちらは指摘されたことをすべて改善した上で次の展示会に臨み、『1年でここまでできるんですね』とお褒めの言葉をいただく。そんなことが何度かありました」。

 このような取り組みもあってコアなファンを着実に増やし、全米最大規模のホームテキスタイルショーで日本製品として初めてグランプリを獲得してマスコミに取り上げられるなど、「オーガニック120」はようやく上昇気流に乗る。

タオルを何枚買えば会社を存続させられますか

 そして迎えた2003年8月。全国の100店舗で「オーガニック120」を展開しようとしていたその矢先に、主要取引先の問屋が倒産。それに伴うIKEUCHIの負債総額は10億円にも及んだ。そのとき「オーガニック120」をやめ、OEM一本に戻れば何とかなる目算はあった。「でも下請けばかりやっていても未来はないし、だったら『オーガニック120』で会社を再生させようと決めました。前年の売り上げは700万円しかなかったんですけどね」。結局、IKEUCHIは民事再生法の適用を申請。池内さんが54歳のときだった。「そのころNHKの長期取材を受けていて、裁判所の中に入るところまで撮影されました。もうこれ以上ないドキュメンタリーだったんですが、番組はお蔵入りになりました」。

 来る日も来る日も、会社の継続のために走りまわる池内さんを支えたのは全国のファンの応援だった。「『タオルを何枚買えば会社を存続させられますか』といったメールをもらったり、本当に心強かったですよ」。こんなこともあった。「友人がCDでも聴けといって箱を持ってきたんです。こんなときに何やと思ってしばらく放っておいて、ある日その箱を開けたら中にお札がドーンと入っていて。もちろんすぐに返しました」。

 債権カットに応じた債権者やリストラを受け入れた従業員はもとより、多くの人の期待と厚意を得て民事再生法の認可を受けたIKEUCHIは「オーガニック120」で再生を目指すが、その際にはアメリカでの売り上げも大きな力になったという。「とにかくニューヨークでよく売れ、ウォール街で働いているような人がリピーターになっていたんです。環境配慮商品はクオリティの低いものが多く、IKEUCHIのタオルもそうだろうと思っていたけど使ってみて驚いたという声を、あちらの店頭でよく聞かされました」。

 そして基本からブレることなく、最大限の安全と最小限の環境負荷を更新し続けてきた「オーガニック120」が10歳の2009年、IKEUCHIはついに倒産の危機を脱した。同時に、池内さんの50代は幕を閉じた。

これからもブレずに

 「いろんなことがあったけれど、苦労を苦労と思わないんでね、ぼくという人間は」。あらためて50代の自分を振り返り、池内さんはそうイタズラっぽく笑う。「そもそもずっとOEMをやっている方が圧倒的に楽なんですよ、経営者としては。でもぼくは昔から『しんどいことは美しい』と考えていて、難しそうな方に足を向けがちで、その結果が今のIKEUCHIなんです」。

 50代へのエールとして、池内さんはこんな言葉を贈ってくれた。「喜んでしんどい方に行け! とにかく情熱を持って突き進んだら道が拓け、支えてくれる人も出てきます。だから、迷ったときにはしんどい方に行ってほしいと思います」。池内さんは54歳のときに乾坤一擲を賭したわけだが、怖くはなかったのだろうか。「全然! むしろその歳になっても大きいイベントを楽しめるということにワクワクしてたんでね。『オーガニック120』を媒介にして、いろんな世代のいろんな世界の人と知り合いになれたのも大きい。うるさがたが多い京都に店を出せたのも『オーガニック120』のおかげです」。 

 最後に環境にこだわる理由について、池内さんはこう語った。「ぼくらは地球環境が劣化していくのをリアルタイムで体験した世代です。『オーガニック120』をつくることは、その体験を後の世代に伝えることにつながると考えているんです。だからこれからも、ブレずにつくり続けます」。

Profile/池内 計司(いけうち けいし)さん 
1949年、愛媛県今治市生まれ。1971年一橋大学商学部を卒業、松下電器産業(現パナソニック)に入社。1983年池内タオルに入社し、2代目代表取締役社長に就任。2014年に社名を「IKEUCHI ORGANIC」に変更。2016年に社長から退き、同社の代表に。大のビートルズ好きとして有名。

今回取材で訪れたのは、IKEUCHI ORGANIC京都ストア。

IKEUCHI ORGANIC京都ストアは、2014年9月にオープン、今年で8年を迎える直営店。店内には洗濯機・乾燥機・流しがあり、2年以上使用したタオルを展示しており、風合いを確かめてからご購入いただける、体験型の店舗です。
 
〒604-8084 京都府京都市中京区富小路通三条上る福長町101番地 SACRA ANNEX 1F
TEL 075-251-1017
営業時間 11:30~19:00 定休日:無休(年末年始を除く)

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