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(詩) 50年後の「サクラサク」

「サクラサク」
ぼくが待ち焦がれていた
電報は合格発表日に届かなった
ぼくは数時間かけて掲示を見に行った
入学試験の番号はあった
合格した
けれども「サクラサク」は届かなかった

そのときから50年以上が経った
わたしは満開の桜の大木の下にいた
桜は一本だけだった
忘れられたように誰一人いなかった
一つだけあるベンチに座った
見上げると視界は花だけの世界
咲き誇っていた
50年以上前と何一つ変わらない

わたしは家に帰ると
父の遺品の片づけを続けた
もう春先から始めているが
まだまだ終わらない
母もほかの兄弟もいない
大切に仕舞われた私信の束も
わたしには分からないが
一枚づつ目を通すこととする
すると間に挟まるように
一通の電報が零れ落ちた
「サクラサク」
日付は50年以上前だった

故意か過失か
もうそんなことはどうでもよく
ただただ半世紀以上の歳月が
今のわたしの全身に降りかかった
過ぎ去った年ごとの桜の花びらのように
けっして重くはなかったが
花びら一片一片にはさまざまな
惑いが沁み込んいる

電報は半世紀以上かかって今届いたのだ
過去の花びらは忘却の彼岸へと放って
今生の明るみへとわたしを誘なうように
「サクラサク」


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