【ブックレビュー】どこでもない場所
「事実は小説よりも奇なり」などという言葉はあるけれど、これが事実なのか小説なのか、本当に分からなくなるから、まさに迷子だ。
浅生鴨さんの最新刊「どこでもない場所」は、エッセイ本として出版されているが、まるで短編小説を読んでいるかのようだった。
ただ、この世の中に「事実」などというものはなくて、全ての物事は「自分の目」というフィルターを通してのみ表現される幻想なのだから、それが真実だろうと幻想だろうと、他の人から見れば等しく「物語」なのだろうとも思う。
表題作の「どこでもない場所」では、まるで浅生鴨さんの頭の中の宇宙空間を所在無く漂っている感覚に陥る。
今目に見えているものが何であるかも、自分自身さえも分からなくなり、ただただ居心地が悪くて、頼りがなくて、不安になる。
それでも「迷子でいいのだ」と断言することができるのは、流されているようで、実はものすごい強い意志なのではないだろうかとも思う。
そして、物語の終わりに、今日もどこかで、サングラスをかけたずんぐりむっくりのおじさんが、迷子になってるのに戸惑うでもなく、飄々と道に迷っている姿を想像して、私はニンマリするのである。