鋳物オープンイノベーション その3
前回までの振り返り
これまで「鋳物オープンイノベーション」について述べてきました。その1では、まずは全体像をざっくりとアウトプットしました。そこからさらに掘り下げてまとめ直しているのが、その2以降の記事です。
その2では、鋳造業界の現状についてご紹介しました。今回は、その現状から浮かび上がる課題についてさらに深掘りしていきます。
金型メーカーのジレンマ
3DCADの普及について
金型メーカーは製造業界の中でもいち早く3DCADを導入した企業が多く、当社も約40年前に初めて3DCADを導入しました。父から聞いた話によると、当時の顧客であった大手企業からは、「本当に図面通りにできるのか?」「1Rと描いたものがその通りにできるのか?」といった心配の声があったそうです。
現在においても、金型メーカーは3DCADの普及において先行しています。鋳物メーカーからは紙の図面や電子データでの依頼が多く、製品形状は2Dの図面で提供されることが一般的です。鋳物メーカーの依頼元である機械メーカーが3DCADでデザインしていても、そのデータが直接提供されることは少なく、金型メーカー側で改めて3Dモデルをデザインすることがあります。
金型メーカーとしては、3DCADのモデルを提供されれば打ち合わせもスムーズになり、手間が減り、結果として納期を短縮し、コストも抑えられます。
しかし、その提案を鋳物メーカーに伝えると、差し出がましいと感じられるのではないかと懸念します。また、自社の手間が減るということは、売上が減少する可能性もあります。さらに、3DCADの使い方を教えるにしても、当社はインストラクターではないため、教えるための専門性が足りないのではないかと心配することもあります。
3Dプリント模型の特許について
当社は、3Dプリンターを用いた鋳造模型の製作ノウハウを開発し、特許を取得しました。この技術により、従来と比べて鋳造模型を安価に、迅速に、そして簡単に作成できるようになりました。
特許技術を自社で活用する中で、そのメリットがさらに鮮明になっていきました。
「この技術は、鋳物メーカーが使うほうが最も効率的だ」
従来では、模型の3Dモデルを作成できても、それを実際に加工するには金型製造に特化した加工機、その操作ノウハウ、さらに3D形状を加工するための専門知識が必要でした。この高い専門性のため、鋳物メーカーと金型メーカーの分業が進んだと考えられます。
しかし、3Dプリンターを使うことで、機材や材料、設定に関するノウハウは必要であるものの、従来のような高度な設備や専門性は不要になります。そうなると、鋳物メーカーの設計者がオフィスに3Dプリンターを設置し、その場で設計からプリントまで行うほうが効率的です。分業している他社(金型メーカー)に依頼するよりも、製作の手間が格段に軽減されるのです。
しかし、ここでもジレンマが生じます。3Dプリンターの製造ノウハウを教えることで、当社への依頼が減ってしまうのではないか。さらには、金型メーカー自体が不要になってしまうのではないかという懸念が生まれます。
そのような中、ある鋳物メーカーの担当者から次のように言われたことがあります。「実は当社でも3Dプリンターを導入しました。ダイモールさんと同じ機種です。しかし、実際に導入してみたところ、使いこなせない部分が出てきました。ダイモールさんに相談すれば解決できると分かっていたのですが、それを聞いてはいけないだろうと思っていたんです」
何が課題なのか?
このような駆け引きそのものが課題です。
当社は、先進的な技術を活用して鋳物メーカーから利益を得ています。しかし、鋳物のサプライチェーン全体で見ると、技術的な進歩によって生まれた余剰を当社が独占しているにすぎません。その余剰は、顧客や競合他社からも容易に見えるため、すぐに追随されます。特許で技術が保護されているため、それぞれが独自に技術を開発し、似て非なる技術が次々と生まれてきます。
こうして、各社がリソースを投入して、わずかな余剰を奪い合い、小さなインパクトを作り出す。これが日本の鋳造業界が抱える構造的な課題ではないでしょうか。
まとめ
鋳造業界は長い歴史を持ち、分業が確立された業界です。そのため、各組織が個別に社会課題の解決に取り組む結果、孤立したインパクト(Isolated Impact)が生まれがちです。
では、どうすればこれを集合的インパクト(Collective Impact)に変えることができるのでしょうか?次回のその4では、当社がそのためにどのような取り組みを行うのかについてご紹介します。