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100円ショップのガラスペン

 100円ショップにガラスペンが売っていた。

 この世にガラスペンというものがあることを知ったのはインターネットだった。その流線形の透明なペン先にインクの水色が載る様は、ペンというよりはガラス細工のようだった。こんな綺麗で不思議なアイテムが身の回りにあったら、きっと楽しいのだろう。でも現実的には、売っている場所も限られているだろうし、金額もそう安くはないはずだ。簡単には手に入らないと思っていた。

 それがこんなに簡単に買える場所にあるとは。

 単純なつくりだが、ペン先はネットで見かけたあの透き通った流線形だった。本体が100円、付随のインクとペン置きを合わせると、3つで300円。そんな価格で買えてしまうのか。
 さすがに値段相応にチープなものではないかとは思った。しかし考えてみると、これでも十分満足できてしまうのかもしれない。もっと高級なガラスペンを買ったとして、そんなに使うだろうか。絵を描く趣味もなければカリグラフィーもしない。わざわざ凝ったペンを筆記目的で用いることはまずないだろう。その証拠に、中学生の頃に学校でもらった万年筆は、ずっと机の中で眠っている。きっと今はインクが固まっていて、まともに使えないだろう。となると、ガラスペンを買ってすることと言えば、一度か二度「ガラスペンを使ってみる」という初めての体験をしてみて、SNSで友達に見せびらかして、あとは飾っておくだけだろう。その程度のことであれば、100均ガラスペンでも十分楽しめると思った。

 そんなわけで、購入した。ペン先はやや太く、書き心地はざらざらとした感じで、注意しないとインクのムラができやすいが、逆にそれが味わいとも言える。水色のインクがペン先に絡むと、透明感があって見栄えする。もう少し下品に言えば、映(ば)える。書いた字とペンの写真をSNSで共有すると、自分が特別におしゃれな持ち物を備えている人間であるかのような気分に浸ることができる。本当は300円で買えてしまうのに。

ガラスペン

 安く買えたのは嬉しいが、少し複雑な気持ちだ。ガラスペンは、ネットで軽く調べてみると、先がもっと細かったり柄が装飾的だったりしてそれなりに値が張るものも多いようだ。一方で、今回買ったような単純なガラスペンなら、結局のところただのガラス棒の先端部だけ加工すれば製造でき、大量生産すれば100円で売ることができてしまう。それを考えると、当初ガラスペンに抱いていた特別感が薄らいでしまうような気がする。

 とはいえ、今回買ったガラスペンには十分に満足している。自分のガラスペンに対する興味は、単純に物珍しさと見た目の綺麗さが気になったという程度であって、書き味や柄のデザインなどを吟味するほどではなかったのだ。だから、どんなものであっても実際に手に入れてみると十分満足できてしまうのだ。安物で満足していると表現するとなんとなく聞こえが悪いが、ちょっとした欲がちょっとしたお金で満たされるような生活ならば、そんなに幸せなことはないではないか。

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